鈴鹿を走るMCL32とマクラーレン・ホンダのピットウォール
copyright Mclaren

ホンダ F1での苦戦によるイメージ悪化を懸念…霞む佐藤琢磨のインディ500偉業「勝利による苦境打破目指す」

  • Published: Updated:

ホンダのモータースポーツ本部長を務める山本雅史は、佐藤琢磨と共に成し遂げたインディ500制覇やmotoGPタイトル獲得といったHonda Racingの成功が、長引くF1での苦戦によって損なわれている可能性に言及した。信頼性と競争力不足に悩むホンダはF1選手権争いで下位に沈み続け、2度の世界王者に輝いたフェルナンド・アロンソに「GP2(格下のカテゴリ)エンジンだ」と批判される等、企業イメージの毀損が心配されている。

ホンダF1の公式Twitterアカウント(@HondaRacingF1)へのリプライには目を覆いたくなるような心無い批判コメントが数多く散見され、検索エンジン上では「ホンダ F1」に関連する検索キーワードとして「f1 ホンダ 遅い」「ホンダf1エンジンダメ」等のネガティブな項目がサジェストされており、その心象は確実に悪化している。

6割以上の確率でレースを落としているホンダF1

自社公式サイトにコメントを寄せた山本は、メディア露出向上や顧客とのコミュニケーション増加といったポジティブな面があるとしてF1参戦を正当化しつつも、結果に結び付けられないが故に「F1以外での成功が霞んでしまうかもしれない」と述べた。「現時点ではホンダF1に関する前向きなニュースは少ない」と山本が認める通り、マクラーレン・ホンダは悲惨とも言えるF1での3シーズン目を過ごしている。

2015年に英マクラーレンにエンジン供給する形でF1に復帰したホンダだが、フェルナンド・アロンソとジェンソン・バトンの2人のF1ワールドチャンピオンコンビを擁しながらも、エンジンの信頼性不足が大きく影響し、昨年までの2年間では全40レース中ふたり合わせて計21リタイヤに加えて2回のDNS(スタート前棄権)に終わった。

3シーズン目を迎えた今季でさえ18戦を終えて12リタイヤ2DNSと、復帰以降は6割以上の確率で決勝をフィニッシュできておらず、上位勢に歯が立たないどころかレースを真っ当に戦えてすらいない極めて厳しい状況が続いている。

不甲斐ない結果に業を煮やしたマクラーレンは、今シーズン序盤からホンダを追い出すべく裏工作に走り、結果両者は今シーズンを以て契約を解消するに至った。ホンダはマクラーレン側が決別を求めるのも無理はないとして、ホンダエンジンのパフォーマンスと信頼性不足が決別の一因であると認めている。

MGU-Kの故障のために伊GPをリタイヤしたバンドーン
© HONDA / MGU-Kの故障のために伊GPをリタイヤしたホンダ

現代のF1エンジンは最新技術の結晶であり、手探り状態での開発を強いられる。テスト走行が厳格に規制されているため、劣勢に立たされるエンジンマニュファクチャラーは、多少信頼性をリスクに晒してでもパフォーマンス向上を追求せざるを得ない。チャンピオンシップチームであるメルセデス以外の2メーカーも、ホンダ程ではないにしろ多くのトラブルに困惑している。

10月29日に開催された第18戦メキシコGPでは、ルノーエンジン勢がその開発競争の厳しさを露呈した。1つの週末で計7基ものターボチャージャーにトラブルを抱え、決勝では全6台中4台がマシントラブルによってリタイヤし、その内の3台はMGU-Hと呼ばれる熱エネルギー回生を担当するハイブリッド装置の故障が原因であった。

インディでの佐藤琢磨の成功にあやかりたい

F1で惨めな姿を晒し続けているその一方で、今年はホンダドライバーの佐藤琢磨が世界三大レースの1つとして讃えられる米インディカー・シリーズ第6戦インディアナポリス500をアジア人として初めて制覇する歴史的な偉業を達成した他、二輪レースの最高峰カテゴリーMotoGP(ロードレース世界選手権)で23回目のコンストラクターズタイトルを獲得するなど、F1以外でのホンダは堂々たる成績を収めている。

ホンダは世界ブランド別シェアの3分の1を誇る世界最大の2輪メーカーであり、motoGP以外にもスーパーバイク世界選手権(WSB)やAMAスーパークロス(AMA-SX)、トライアル世界選手権(WCT)といったバイク競技に参戦しその存在感を確かなものとしている。だが、F1をはじめとする4輪レースでの名声はその域には達していない。

インディ500に挑む佐藤琢磨とフェルナンド・アロンソ
© HONDA

エンジンサプライヤーとして琢磨と共に成し遂げたインディ500制覇は、同社の4輪レース競技におけるブランドイメージを計り知れないほど高めるポテンシャルに満ちたものであった。だが山本は、壊れ続けるF1エンジンはその偉大な功績でさえもスポイルしかねないと案じている。勝利こそが苦境打破の唯一の手段…山本は佐藤琢磨の成功にあやかってF1でも成果を挙げたいと意気込む。

「佐藤琢磨選手のケースは我々にとって良いお手本です。苦しんだ時期もありましたが、勝利によって状況が一変しました。我々もF1で同じことがしたいと考えています。2018年はトロ・ロッソとともに技術開発を続けていきます。究極の目標はMotoGPやインディカーと同じようにF1で成功することです」

来季のホンダ躍進を確信するトロ・ロッソ

来シーズン以降、ホンダは伊トロ・ロッソにパワーユニット一式を供給しF1参戦を継続する。3シーズン目を迎えてなおトラブルに苦しむホンダだが、トロ・ロッソのチーム代表を務めるフランツ・トストは先のメキシコGPで、来季までにホンダが問題を解決するのは疑いない、と語るとともに、ホンダとの提携によってトロ・ロッソは大きな躍進を遂げるだろうと自信をみせている。

「来年は今年とはまた別の年です。ホンダが現在抱えている問題を解決するのは間違いないでしょう。トロ・ロッソは1つのチームとしてホンダとともに作業に取り組んでいますし、これによって我々は大きなアドバンテージを得ることになるだろうと考えています」

握手を交わす山本部長とフランツ・トスト
© HONDA

「これまでに行われたミーティングはかなり有望なものでした。ホンダのパワーユニットによって、来シーズンのトロ・ロッソは極めて高い競争力を発揮するチームになると大いに確信を持っています。我々は毎週パワーユニットを改良していますので、これ以上問題が生じる事はないでしょう」

だが、離別を主導したマクラーレンCEOのザク・ブラウンは、ホンダとのパートナーシップ解消は正しい選択であり、来季トロロッソ・ホンダがマクラーレン・ルノーより勝る結果を残す可能性はないと考えている。

2018年がどのような結果となるかはさて置き、マクラーレン・ホンダとして挑むのも残すはブラジルとアブダビの2レースのみ。ホンダF1の総責任者を務める長谷川祐介は、最新版エンジンは信頼性とスピードの両方で一定レベルの成果を発揮していると語り、ラスト2戦も手を抜く事なく上位を目指していくと気を引き締めている。