下位争いを繰り広げるアストンマーチン、マクラーレン、ウィリアムズのメルセデスカスタマーチーム、2022年3月20日F1バーレーンGP
Courtesy Of Aston Martin Lagonda Limited

E10燃料時代到来、開幕戦で最下位を独占したメルセデスF1エンジン勢…V6最強伝説は終わったのか?

  • Published:

E10燃料時代の初戦リザルトはエポックメーキング的な並びとなった。それはフェラーリが46戦ぶりの勝利を挙げて1-2を達成し、レッドブルがWノックアウトを喫してノーポイントに終わったからという事に留まらない。

パワーユニット(PU)メーカーに着目してリザルト表を眺めてみると非常に興味深い事実が見えてくる。絶対王者としてV6ハイブリッド・ターボ時代に君臨してきたメルセデスのカスタマーチームが下位にずらりと並んだのだ。

タイヤ交換を終えてピットを出るメルセデスのルイス・ハミルトン、2022年3月20日F1バーレーンGP決勝レースCourtesy Of Mercedes-Benz Grand Prix Ltd.

タイヤ交換を終えてピットを出るメルセデスのルイス・ハミルトン、2022年3月20日F1バーレーンGP決勝レース

テクニカルトラブルでリタイヤした3台を除けば、アストンマーチン、ウィリアムズ、マクラーレン、つまりメルセデスPU勢より遅いチームはいなかった。完走17台のレースで12位から17位の最下位を占めたのは全て、メルセデスの最新スペック「M13 Eパフォーマンス」を搭載したチームだった。

以下のグラフはリザルト順に、開幕ウィナーのシャルル・ルクレールとのギャップを示したものだが、12位のランス・ストロール(アストンマーチン・メルセデス)以下の遅れが際立っている事がよく分かる。

順位 ドライバー チーム エンジン
1 ルクレール フェラーリ フェラーリ 0
2 サインツ フェラーリ フェラーリ 5.598
3 ハミルトン メルセデス メルセデス 9.675
4 ラッセル メルセデス メルセデス 11.211
5 マグヌッセン ハース フェラーリ 14.754
6 ボッタス アルファロメオ フェラーリ 16.119
7 オコン アルピーヌ ルノー 19.423
8 角田裕毅 アルファタウリ RBPT 20.386
9 アロンソ アルピーヌ ルノー 22.390
10 周冠宇 アルファロメオ フェラーリ 23.064
11 シューマッハ ハース フェラーリ 32.574
12 ストロール アストンマーチン メルセデス 45.873
13 アルボン ウィリアムズ メルセデス 53.932
14 リカルド マクラーレン メルセデス 54.975
15 ノリス マクラーレン メルセデス 56.335
16 ラティフィ ウィリアムズ メルセデス 61.795
17 ヒュルケンベルグ アストンマーチン メルセデス 63.829

メルセデスPUのパフォーマンス不足が懸念されるのはレースリザルトだけが理由ではない。予選のスピードトラップ、フィニッシュライン速度でも下位5台は全てメルセデス勢だった。

2022 F1バーレーン予選最高速度ランク

確かにワークスチームは3-4位フィニッシュと表彰台に上がったが、カスタマー全車が下位に沈んだその様からは、少なくとも開幕バーレーンGPを終えた現段階ではメルセデスが以前持ち合わせていたPUの優位性は全く感じられない。

今季は新たにバイオエタノールを10%(従来は5.75%)混合した「E10燃料」と呼ばれる新燃料が導入された。燃焼室を含め各メーカーはエンジンの見直しを迫られたが、メルセデスは同時によりタイトなパッケージングを可能とすべく、更なる小型化を目指して全エリアに変更を加えた。

まだ1レースが終わっただけであり、また、オーバーヒートによってパフォーマンスが限定されていた可能性もあり、メルセデスカスタマーが下位にズラリと並んだのはただの偶然かもしれない。ただ、パワー不足を指摘する声もある。

コロナ感染のセバスチャン・ベッテルに代わりアストンマーチンAMR22を駆ったニコ・ヒュルケンベルグは「DRSを使っても時々、前のクルマを捕まえられないことがあった。ストレートで少しスピードが落ちているように見えた」と指摘した。

エンジニアと会話するアストンマーチンのニコ・ヒュルケンベルグ、2022年3月20日F1バーレーンGPCourtesy Of Aston Martin Lagonda Limited

エンジニアと会話するアストンマーチンのニコ・ヒュルケンベルグ、2022年3月20日F1バーレーンGP

またアストンマーチンのマイク・クラック代表は、現時点で何よりも重要な事はシャシー側を改善することだとして、成績不良の理由をパワーユニットに求めるのは適切ではないとしながらも、メルセデスよりフェラーリが先行している可能性を認めた。

なおメルセデスのトト・ウォルフ代表は「草の根を分けてもゲインを捜しださねばならない」としてパワーユニット面の課題を認める一方、バーレーンという「特異」なコースにおいてW13が直線スピードで遅れを取ったのは車体の空気抵抗が最大の理由だと主張した。

曰く、パーツ生産が間に合わず、最適なウイングを持ち込めなかったために「あまりにもドラッグが大きい」リアウイングを使用していたと言う。

「パワー不足か否かを判断する前に、まずドラッグレベルを分析する必要があると思う。パワーユニットに大きな違いがあるとは思わないが、フェラーリが大きく前進したのは明らかだ」とトト・ウォルフは語った。

仮にメルセデスがライバルに対して大きく水をあけられたとするならば、それは正にエポックメイキング=新時代の幕開けとなるかもしれない。

既にICE(内燃エンジン)、ターボチャージャー、MGU-H、エキゾースト、燃料、オイルの開発は凍結期限を迎えた。残りのコンポーネントも第14戦ベルギーGP後の9月1日にホモロゲートされる。非力であろうが強力であろうが、2025年末まで変更は許されない。