マイケル・アンドレッティ、2023年4月29日インディカー・シリーズのアラバマ・インディGPにて
Courtesy Of Penske Entertainment

FIA、2団体のF1新規参戦承認か…それでも一筋縄ではいかない茨の道。待ち受ける2つの障害とは

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2025年以降の新規参戦チームに関する発表の時が近づく中、アンドレッティ・キャデラックとハイテックの2チームが国際自動車連盟(FIA)の審査プロセスを経て承認される見通しとの噂があるが、例えそれが現実になったとしても、その先に続くのは一筋縄ではいかない茨の道となる可能性がある。

FIAは応募者の数や素性を一切公表していないが、アンドレッティとハイテックが申請を公式に発表している他、パンテーラ・チーム・アジアの共同設立者であるベンジャミン・デュラン率いるLKY SUNZ、英国の名門ジュニアチーム、カーリンを買収したロダン・カーズ、そして男女均等チームのフォーミュラ・イコールが参戦計画を発表している。

ハイテックGPのロゴ、2022年9月1日~4日にザントフォールトで開催されたFIAフォーミュラ3選手権第8戦にてCourtesy Of Red Bull Content Pool

ハイテックGPのロゴ、2022年9月1日~4日にザントフォールトで開催されたFIAフォーミュラ3選手権第8戦にて

今年2月に発表されたFIAによる関心表明プロセスは7月中にも全ての作業が完了するものとみられており、最有力候補でFIAのモハメド・ベン・スレイエム会長が当確を示唆するアンドレッティ、そしてカザフスタンの大富豪から資金を調達したハイテックが承認を得るとの見方がある一方、いずれの組織も脱落するとの指摘もある。

ただ何にせよ、いずれの団体が承認されたとしても、すんなりとグリッドに着けるかどうかは別の問題だ。その理由は2つある。

まず第一に、FIAの承認はグリッドを保証するものではないという点だ。募集要項によれば例えF1が承認したとしても、F1の商業権を保有するリバティ・メディアが首を縦に振らない限り、新たなF1チームは選出されない。

F1はグリッドの拡大について否定的な見解を示し続けてきた。リバティ・メディアのグレッグ・マフェイCEOは最近、態度を軟化させているが、F1のステファノ・ドメニカリCEOは10チームが適正との考えを貫いている。

なおアンドレッティを含む審査に応募した複数団体がパワーユニット(PU)及び車体パーツの供給を巡って接触したとされるアルピーヌを除く全てのチームが、分配金減少を主な理由に依然として保護主義的な姿勢を崩していないが、チーム側にFIA承認の拒否権はない。

アルピーヌはカスタマーチームを持たない唯一のワークスチームだ。新規チームが短期的成功を収めるためには、ハースがフェラーリと結んでいるようなPUに留まらないテクニカルパートナーシップが有益であり、アルピーヌにとっても収益拡大、PU開発の面でカスタマーを持つことは理に適っている。

アルピーヌのローラン・ロッシCEO、2023年5月9日アルピーヌのBセグメント電動スポーツカー「A290_β」の発表イベントにてCourtesy Of Alpine Racing

アルピーヌのローラン・ロッシCEO、2023年5月9日アルピーヌのBセグメント電動スポーツカー「A290_β」の発表イベントにて

2点目はコンコルド協定だ。2021年に発効されたFIA、F1チーム、およびF1との間の商業契約の第8版はその内容が公表されていないため詳細は不明だが、独「AMuS」によるとリバティ・メディアの承認なくして新チームはこれに署名する事ができない。

何が問題なのか。コンコルド協定に署名しない限り、例えレースに参加したとしても、分配金を得る事はできない。これでは事業として成立しない。

同メディアはまた、新チームが承認されれば、FIAのベン・スレイエムとF1のドメニカリとの間で権力闘争が勃発する可能性があるとも指摘した。

逆に新規参戦チームの後押しとなる材料はあるのだろうか?

F1市場が急拡大するアメリカの三大自動車メーカー、ゼネラルモーターズ(GM)を引き込んだアンドレッティを拒否するには相応の理由が求められるだろう。モータースポーツにおける実績、資金的裏付け、インフラのどれを取っても否定する要素を見つけるのは難しいように思われる。

一方でハイテックに関してはドミトリー・マゼピンとの以前の関係から、資金の出処についてFIAが懸念を抱けば、つまりロシアンマネーの影が少しでもチラつけば、如何に車体開発の面でアンドレッティに対してすら先行していたとしても、承認される事はないだろう。

最終的には世論が大きな力を持つかもしれない。ファンにとって分配金の問題は大きな関心事とは言い難い。大々的に募集して関心を集めておきながら、納得のいく正当な理由なく全てのチームを拒否すれば、不満が高まり物議を醸すのは必至と言える。

この点においてF1はFIAとは異なり、承認後の決定次第で悪者扱いされるおそれがある。