
「F1永久ネーミング権譲渡」は苦肉の策か、アストンを襲う”厳しい懐事情”
イギリスの高級自動車メーカー、アストンマーティンは2026年2月20日、自社のブランド名称およびロゴの「永久的独占使用権」を、同社の名を掲げるF1チームの運営母体、AMR GPホールディングスに5,000万ポンド(約104億円)で売却すると発表した。
チーム側は、本取引により「アストンマーティンの名前は永遠に、F1に刻まれることになる」と前向きな点のみ強調しているが、その実態は、資金不足を背景とした関連当事者間の取引であり、経営上の厳しい現実を反映した決断とみられる。実際に同社は、「グループの流動性向上」を目的としたものと認めている。
「トランプ関税」と「中国不況」のダブルパンチ
Courtesy Of Aston Martin Lagonda Limited
アストンマーチン初のSUV「DBX」
今回の決断の背景には、同社を取り巻く厳しい経営環境がある。ドナルド・トランプ大統領による米国の輸入関税措置や、中国市場での需要低迷が業績を圧迫し、2025年の第3四半期の損失は前年同期の10倍近くに達する1億1,200万ポンド(約240億円)まで膨れ上がった。
主力SUV「DBX」を生産するウェールズのセント・アサン工場では、100人以上の従業員が解雇の危機にさらされていると報じられている。エイドリアン・ホールマーク最高経営責任者(CEO)は、米国の輸出枠制限や中国での高級車増税を理由に挙げ、「コスト効率化」の断行が不可避との認識を示している。
ストロール会長、資金投入継続も市場は冷淡
ローレンス・ストロール会長はこれまでにも、1億6,200万ドル(約251億円)の追加出資や、F1チーム株式の売却などを通じ、同社に資金を投入してきた。今回のネーミングライツ売却も、ストロールが間接的に支配するF1チームとの取引であり、内部的な資金再配分の側面が強い。
もっとも、そのF1チームも楽観視できる状況ではない。伝説的F1デザイナー、エイドリアン・ニューウェイを招聘し、レッドブルと共に近年のF1を席巻してきたホンダを新たなパワーユニットパートナーに迎えたが、バーレーンで実施されているプレシーズンテストでは信頼性面の課題やパフォーマンス不足が露呈。シーズン序盤の下位争いが濃厚な状況だ。
Courtesy Of Honda Motor Co., Ltd
ステージに立つアストンマーティンF1チームのローレンス・ストロール会長、2026年1月20日「2026 Honda × Aston Martin Aramco F1 Team ニューパートナーシップ始動発表会」にて
ストロールは「ブランドに対する自信は揺るぎない」との姿勢を崩していない。だが、市場の評価は厳しい。市場予想を上回る通期損失見通しが示されたこの日、同社株は4%以上下落し、一時57ペンスまで値を下げた。2018年の上場時に19ポンドに設定されていた株価と比べると大幅な水準低下が続いており、経営の先行きを懸念する声は根強い。
再建の鍵はハイパーカー「ヴァルハラ」
Courtesy Of Aston Martin Lagonda Limited
アストンマーティン初のミッドエンジンPHEVスーパーカー「ヴァルハラ」とフェルナンド・アロンソ、2025年5月23日F1モナコGP(モンテカルロ市街地コース)
厳しい状況が続くなかでも、再建に向けた施策は進められている。2026年には、同社初のミッドエンジンPHEVスーパーカー「ヴァルハラ」約500台の納車が開始される。高収益モデルと位置付けられる同車の投入と徹底したコスト削減を通じ、2026年以降の財務体質改善を目指す構えだ。
ブランド価値を維持しつつ収益基盤を立て直せるかどうかは、新世代モデルの市場評価に大きく左右されることになりそうだ。