
ピットミスの真相、ラッセルを襲った「類を見ない不運の連鎖」 ドライブスルーの裏にあった”7つ”の要因
メルセデスはなぜ、ジョージ・ラッセルのペナルティ消化に必要な5秒間を待たずにタイヤ交換作業を開始し、ドライブスルー・ペナルティーを受ける事になったのか。エンジニアリング・ディレクターを務めるアンドリュー・ショブリンによれば、その背景には類を見ないような不運の連鎖があった。
2026年F1第6戦モナコGPの決勝で、ラッセルはレース終盤に向けて一時は3番手を走行していたものの、このミスによりドライブスルーペナルティを科され、最終的にポイント圏外12位へと転落した。
ラッセルがドライブスルーを受けるに至った背景には、少なくとも7つの要素が重なっていた。
Courtesy Of Mercedes-Benz Grand Prix Ltd.
レース前のグリッドでクールベストを着用するジョージ・ラッセル(メルセデス)、2026年6月7日(日) F1モナコGP決勝(モンテカルロ市街地コース)
発端となった不可解なピットレーン速度違反
歯車が狂い始めたのは、ラッセルが最初のピットストップの際に、ピットレーンの速度制限違反を犯し、5秒ペナルティを受けたことだった。
ピットレーンでの速度は、路面に設置された計測ループを使って計測されている。ループ間の通過時間から速度を逆算する仕組みだ。
モナコのピットレーンは直線ではないため、カーブをカットするようなタイトなラインを取ると必然的に通過時間が短くなり、結果として計測される平均速度が実際の速度より高くなる可能性がある。メルセデスはレース前からこの問題を把握していた。
「我々はピットリミッターを意図的に通常より少し低く設定し、ドライバーにはイン側をカットせず、大回りのラインを走るよう指示していた」とショブリンは説明する。「だからこそ、なぜペナルティを伴う速度違反が起きたのか、完全に理解できていないのだ」
セーフティーカー導入で崩れた想定
ペナルティの決定が下された後、セーフティーカー(SC)が導入されたことで、状況はさらに複雑化した。当時、ラッセルはチームメイトであるアンドレア・キミ・アントネッリに周回遅れにされた直後だった。
チームの当初の計画では、アントネッリのみをピットに呼び戻してタイヤ交換を行う予定だった。一方、ラッセルについては、タイヤ交換作業の時間に加えて5秒のペナルティ消化、さらにアントネッリの作業待ち時間を合わせると、アイザック・ハジャー(レッドブル)の後方5番手に後退してしまうと見積もられていた。
そのため、チームはラッセルに対してコース上に留まるようステイアウトを指示していた。
だがその後、誰も予想していなかった事態が起きる。メルセデスがアントネッリにピットインの指示を出した直後、SCが全車を率いてピットレーンを通過するとのメッセージがレースコントロールから各チームに通知されたのだ。
アントネッリの作業は予定通りに行われた。問題はラッセルの方だった。
用意されたタイヤが招いた誤認
ラッセルがピットレーンに入ると、ガレージの前にはメカニックが新しいタイヤを用意して待機していた。ショブリンによれば、ラッセルはそのタイヤを目にして、自分もピットインしなければならないと思い込んでしまったという。
突然ラッセルがピットボックスに入ってきたため、メカニックたちは完全に意表を突かれる形となった。彼らはラッセルのピットストップを予定しておらず、当然ながら5秒ペナルティを消化するための準備も意識もなかったため、条件反射的にすぐさまタイヤ交換作業を始めてしまった、というのが事の真相のようだ。
ではなぜ、予定していないラッセル用の新品タイヤが用意されていたのだろうか。
ショブリンによれば、SC導入時は他のチームの動向次第で急きょ計画が変更される可能性があるため、常にタイヤを準備しておくのが「通常の手順」なのだという。
明確な追加指示を欠いた代償
不可解なピットレーン速度違反、アントネッリとの周回遅れ関係、後続車とのタイム差およびダブルスタックによる順位損失の見積もり、SC導入に伴う全車ピットレーン通過指示、ガレージ前に用意されていたタイヤ、そして突然ボックスに入ってきたラッセルに対するメカニックの反射的な行動…こうした要素の積み重ねの末に、ラッセルはドライブスルー・ペナルティーを受けることとなった。そして、決定打となったのはチームの過失だった。
チームとしての失態は、事前にステイアウトを指示していたとはいえ、SC先導でピットレーンを通過することが決まった際に、「ファストレーンに留まり、ピットボックスに停まらないように」とラッセルに追加で明確な指示を出さなかったことにある。
あるいは、ピットインの指示プロトコルを明確化できていなかったか、それをドライバーやメカニックを含むチームメンバー全員に周知徹底できていなかったことにあると言えるかもしれない。
ジョブリンは「指示を出す時間がなかった」と釈明しつつも、この一件から学び、同様の状況に備えられるよう改善していく方針を示した。だが、それでもラッセルが失ったポイントが戻ることはない。
この不運な連鎖によりラッセルはポイント圏外に終わり、今季5勝目を挙げたアントネッリに対し、ドライバーズランキングで68ポイントもの大差をつけられることとなった。
リタイヤ7台という大波乱の展開となった2026年F1第6戦モナコGPでは、アンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)がポール・トゥ・ウインを飾り、連勝記録を5に伸ばした。2位にルイス・ハミルトン(フェラーリ)、3位にアイザック・ハジャー(レッドブル)が続く結果となった。
カタロニア・サーキットを舞台とする次戦バルセロナ・カタロニアGPは、6月12日のフリー走行1で幕を開ける。