
メルセデスF1、ERS故障の完全解明に「数ヶ月」の見通し。ラッセルのリタイア受け再発警戒
2026年F1第5戦カナダGPでジョージ・ラッセルをリタイアに追い込んだトラブルについて、メルセデスはその全容の解明に「数ヶ月」を要する可能性があることを明らかにした。
原因がバッテリーにあること自体は判明しているが、なぜ故障に至ったのかという核心は今なおチーム内でも謎に包まれている。
カナダGPは、初のワールドチャンピオン獲得を目指すラッセルにとって、反撃への第一歩になるはずだった。だが、それは突如として今季最も苦痛な悪夢へと変わってしまった。
週末を通して2度のポールポジションを獲得し、スプリントで勝利を挙げたラッセルは、決勝でも首位に立ち、チームメイトであるアンドレア・キミ・アントネッリの連勝を自らの手で止める目前にまで迫った。
だが、W17は突如としてERS(エネルギー回生システム)の「壊滅的な故障」に見舞われ、アントネッリが記録的な4連勝を飾る一方、ラッセルは全てを失い、43ポイントという大差を背負うことになった。
Courtesy Of Mercedes-Benz Grand Prix Ltd.
リタイア後に険しい表情でピットレーンを歩くジョージ・ラッセル(メルセデス)、2026年5月24日(日) F1カナダGP決勝(ジル・ビルヌーブ・サーキット)
原因究明を阻む空輸制約
英国ブリックスワースのエンジニアたちは現在、テレメトリーを隅々まで調べ上げ、データの軌跡をたどることはできるが、根本的な原因を明かし得る物理的なパーツそのものを調査・分析することができない状態にある。
F1パワーユニットで使われているバッテリー=ES(エナジーストア)については、その化学的な種類を規定する定めはないものの、可燃性が高いリチウムイオン電池が主流とみられており、航空輸送に際しては国連の安全試験基準UN38.3への適合が求められるなど制約が厳しい。
そのため、故障したバッテリーを飛行機に載せて本拠に急ぎ持ち帰ることはできず、海上輸送を採る必要がある。
Courtesy Of Daimler AG
メルセデスのF1パワーユニット開発製造拠点である英国ブリックスワースのファクトリー内部の様子
メルセデスの副チーム代表ブラッドリー・ロードは、公式ポッドキャストの中で次のように状況を説明した。
「ターン8への進入時に、ERSシステムが突然落ちる事態となり、それがその後にかなりのダメージを引き起こした。クルマを回収し、なんとかモジュールを取り出すことはできたが、通常とは異なる安全手順を経る必要があり、その後、船便でイギリスへ戻さなければならない」
「そのため、ハードウェアが戻ってくるまでには数ヶ月かかるだろう」
現時点で判明していることは限られている。テクニカル・ディレクターを務めるジェームズ・アリソンは「レース終了時点で確認できた範囲では、バッテリーの状態がかなり悪く、幾らか熱による損傷があった」と説明する。
他モジュールへの波及を警戒
メルセデスにとって厄介なのは、損傷したモジュールそのものの調査が行えない状態で、同じ問題が他のERSモジュールにも潜んでいないかを見極める必要があるという点にある。
選手権をリードするアントネッリはもちろん、この問題は同じメルセデス製パワーユニットを採用しているマクラーレンやウィリアムズ、アルピーヌにも発生し得る。ロードも、再発防止の重要性を認める。
「何が間違っていたのかを正確に把握し、今後他のモジュールで問題が再発するのを防ぐために、データを徹底的に調べ上げる必要がある」
解明が遅れるほど、メルセデスは深刻なリタイアリスクを背負ったままのレースを強いられることになる。ロードは、カナダでラッセル自身に落ち度はなかったと強調した。
「ジョージに一切の過失はなかった。彼は週末を通して見事なドライビングを見せており、グランプリの勝者にふさわしい活躍だった」