エイペックス攻防の新基準、F1ドライビング指針が大幅改訂――「お咎めなし裁定」が増える?

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国際自動車連盟(FIA)は2026年F1シーズン開幕戦オーストラリアGPの前夜、F1ドライビング標準ガイドラインの改訂版を公表した。従来の約1.5倍のボリュームとなった今回の改訂では、スチュワードが裁定を下す際の基準がより詳細に整理された。

主な変更点のひとつは、コーナーのエイペックスに向けたバトルの評価方法だ。今回の変更により、仕掛ける側のドライバーは、オーバーテイクを試みて接触が発生した際にスチュワードから有利な裁定を得るため、これまで以上に慎重に動く必要がある。

2022年導入の指針が拡張、カタールでの議論が反映

F1ドライビング標準ガイドラインは、ドライバー側がレース基準のさらなる明文化を求めたことを受け、2022年シーズンに導入された。2025年版には大幅な変更がなかったが、2026年版では各項目がかなり細かく書き込まれた。

改定範囲は広く、要点を整理するのは簡単ではない。だが重要なのは、今回の変更が近年のレースで物議を醸した数々のインシデントを受けて行われたという点だ。

FIAは、2025年にカタールでGPDA(グランプリ・ドライバーズ・アソシエーション)との間で行われた議論における「F1ドライバーからの建設的な意見」を踏まえた変更だと説明する。さらに、ガイドラインは「ドライバーとGPDAが示した目的に沿う形で修正された」としている。

この経緯を踏まえると、今回の改訂はFIAが一方的に推し進めたものではなく、ドライバー側の問題意識をかなり反映した調整と見るべきだろう。

追い抜き判定は「位置」だけでなく「ブレーキ操作」まで確認

オスカー・ピアストリ(マクラーレン)に接触するリアム・ローソン(レーシング・ブルズ)、2025年11月22日F1ラスベガスGP決勝スタート直後のターン1(ラスベガス市街地コース)Courtesy Of McLaren

オスカー・ピアストリ(マクラーレン)に接触するリアム・ローソン(レーシング・ブルズ)、2025年11月22日F1ラスベガスGP決勝スタート直後のターン1(ラスベガス市街地コース)

ガイドラインでは、イン側から仕掛ける場合、「エイペックス地点において少なくとも自車の前輪が相手マシンのミラー位置に並んでいなければならない」とされる。一方、アウト側からの仕掛けでは、自車の前輪が「エイペックス地点において相手マシンの前輪より前にある」ことが求められる。

さらに今後は、ブレーキングのタイミングと、その意図にまでスチュワードの視線が厳しく注がれることになる。ここ数年、エイペックスで前輪を前に出してコーナーの優先権を得るために、意図的にブレーキングを遅らせる動きが繰り返されており、各方面から問題視する声が上がっていた。

優先権を得るためだけにブレーキングを遅らせた場合、今後は優先権が得られない可能性がある。これはディフェンス側にとって歓迎すべきルール変更と言える。

一方で、明確なエイペックスが存在しない、あるいは複数のエイペックスを持つ複合ロングコーナーでのインシデントについては、「スチュワードは各事案を個別に判断する」とも明記された。

おとがめなし裁定が増える可能性も

今回の改定により、おとがめなし裁定が増える可能性がある。位置関係だけで白黒を決めるのではなく、その場で何が起きていたのかをより深く見て、インシデントの背景を広く拾うぶん、処分が科されないケースが増える可能性がある。

スチュワードは今後、タイヤの使用状況やグリップ水準、さらには「接触を避けようとする試みがあったかどうか」も考慮する。接触回避を試みた結果として起きたインシデントには、寛容な判断が下されることになる。

加えて、ガイドラインには「ロックアップやわずかなステアリング修正があったとしても、それだけでドライバーがコントロールを失ったことを意味するわけではない」とも明記された。

トラックリミット、青旗と黄旗も詳細化

セーフティーカー・ボードとイエローフラッグ、2018年6月24日F1フランスGPにてCourtesy Of Red Bull Content Pool

セーフティーカー・ボードとイエローフラッグ、2018年6月24日F1フランスGPにて

トラックリミットの判定基準も緩和方向に振れた。オーバーテイクを仕掛けた際にコース外へ出ても、明確な利益がなければ、スチュワードの裁量で「ストライク」を科さない余地が残された。

セーフティーカー後のリスタートについては、先頭車両がペースを決め、加速地点を選ぶ権利を持つ一方、「潜在的に危険な状況を作らない責任が免除されるわけではない」と追記された。2025年にはリスタート前の過度な減速を巡ってたびたび議論が起きていた。

青旗への対応も、かなり細かく整理された。周回遅れにされる側は可能な限り早い機会に道を譲る必要があり、次のストレートまでの猶予は一定程度認められる。だが、そのストレートでも譲らなければ違反とみなされる可能性が高く、進路を譲るまでに「8箇所以上のライトパネルを通過した場合」は、ほぼ違反と扱われる見通しだ。

さらに、周回遅れにしようとしているマシンを利用してオーバーテイクモードの検出ギャップを得ようとした場合も、原則として違反とみなされる。

黄旗違反に関する判断基準もかなり具体化された。「十分な減速を行ったことを示す責任はドライバー側にある」と明記され、併せてスチュワードは、スロットル、ブレーキ、ステアリング入力、そして区間通過タイムの増加率を見て判断すると記された。

シングルイエローでは少なくとも5%、ダブルイエローでは少なくとも15%、当該区間のラップタイムが通常周回と比べて遅くなっていなければならないとの目安が示された。

ペナポ運用の見直しと重大事案への厳罰化

ターン1でクラッシュしたマクラーレンのランド・ノリスとオスカー・ピアストリ、2025年10月18日F1アメリカGPスプリント(サーキット・オブ・ジ・アメリカズ)Courtesy Of McLaren

ターン1でクラッシュしたマクラーレンのランド・ノリスとオスカー・ピアストリ、2025年10月18日F1アメリカGPスプリント(サーキット・オブ・ジ・アメリカズ)

ペナルティポイント・ガイドラインにも調整が加えられた。

2026年版では、接触があったという事実だけではペナルティを科す理由にはならないと明記され、「接触を引き起こした危険、無謀、あるいは明らかに意図的な行為、またはその他の容認できない、もしくはスポーツマンシップに反する行為」や安全関連の違反を除き、原則としてペナルティポイントを科さない方向が示された。

逆に、重大なケースに対してはスチュワードの権限が大幅に強化された。

2025年までは、接触の原因をつくったと裁定された場合、最大3点のペナルティポイントが付く仕組みとなっていた。これは改訂版にも引き継がれているが、スチュワードは今後、意図的に、あるいは無謀な形で衝突を引き起こした場合、失格や次戦出場停止を科すこともできる。

この背景を考えるうえで、2025年のスペインGP終盤のフェルスタッペンとジョージ・ラッセルの接触は外せない。意図性が疑われた事例として厳しい視線が向けられ、フェルスタッペンは後に「自分の側のミスだった」と振り返った。

また、如何なる規定に関する違反であっても、5秒ペナルティについては今後、リタイヤによりレース中に消化できない場合でも、次戦でのグリッド降格ペナルティに変更されることはなくなった。


両ガイドラインは規則そのものではない。あくまでもスチュワードが裁定を下す際の、文字どおりガイドラインにすぎない。だがレース後に「あの接触はなぜお咎めなしだったのか」「なぜあれはペナルティなのか」と感じる場面で、一定の答えを与えてくれる文書であることは確かだ。

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