
角田裕毅のシート喪失劇、本場欧州の専門家10名はどう評したか―同情と現実、そして組織の病理
レッドブル・レーシングは2026年に向け、角田裕毅をレギュラーシートから外し、後任としてアイザック・ハジャーをマックス・フェルスタッペンのチームメイトに据える決断を下した。
一方、レーシング・ブルズはアーヴィッド・リンブラッドを昇格させ、リアム・ローソンを引き続き起用する。これにより、5シーズンにわたって続いた角田のF1キャリアは幕を閉じることになった。
最終アブダビGPを前に発表されたこのニュースは、多くの日本のF1ファンにとって受け入れ難いものだろう。では、F1の本場ヨーロッパではどう受け止められたのか。
海外の著名ジャーナリストたちの論調は、角田の成績不足を指摘する冷徹な評価と、レッドブルのドライバーマネジメントそのものを批判する意見の二つに分かれた。
Courtesy Of Red Bull Content Pool
アイザック・ハジャー(レーシング・ブルズ)、角田裕毅(レッドブル・レーシング)、リアム・ローソン(レーシング・ブルズ)、2025年9月18日(木) F1アゼルバイジャンGPメディアデー
同情の一方で「不十分」との厳しい指摘
角田が置かれた状況には一定の理解を示しつつも、実力不足は否めないというのが多くの論調だ。イギリスの専門メディア『The Race』のスコット・ミッチェル=マルム氏は、シーズン途中での昇格が角田にとって不利に働いたと分析する。
「角田はレッドブルで時折、人々が思うより良い走りを見せた。だが全体としては十分ではなかった。ただし、その責任は彼自身と同じくらいレッドブル側にもある」
「レッドブルのミスによって角田はこれまでに、より良い結果やチャンスを失う場面が何度かあった。だが、より大きな過ちはシーズン途中に彼をあのクルマに放り込んだことだ」
「そのせいで角田は、チームに溶け込むためのプレシーズンを過ごすことができず、不完全な準備で挑まざるを得なかった。レッドブルも角田も、その代償を払い続けることになった」
イギリスの専門誌『Autosport』のフィリップ・クリーレン氏も、角田は「レッドブルの“セカンドカー症候群”に飲み込まれた最新の犠牲者」であると同情を示し、「2026年に向け両ドライバーが扱いやすいクルマを用意するとレッドブルが約束している中、角田の走りを見届けられず残念だ」と記した。
それでも、「十分な結果を残せていないのは事実」であるとし、レーシング・ブルズが育成チームである以上、結果を残せなかったドライバーを出戻りさせることに「意味はない」と評価した。
同じくイギリスの専門誌『Motor Sport Magazine』のパブロ・エリサルデ氏も、クルマのスペック差やフェルスタッペンに合わせられたマシンの設計思想といった不利な条件を考慮してなお、「説得力に欠けるシーズンだった」と指摘する。
「昇格時、角田には約90戦のF1経験があった。2025年はF1参戦5年目だ。他チームの新人が通常与えられるだけの時間が、彼に与えられることは最初からあり得なかった」
「こうした判断が公平だったかどうかを問うのは、本質的な論点ではない。公平さとは主観的なものであり、レッドブルの最優先事項でもないからだ。もちろん公平さを重視しないのはレッドブルに限らないが、このチームは他よりはるかに非情だ」
ドイツの専門メディア『Motorsport-Total』のステファン・イーレン氏も、「2025年に限らず、2021年から続くF1キャリア全体を通して角田には十分なチャンスが与えられてきたが、それを活かせなかった」と指摘する。
そのうえで、「改善の兆しが見えない状況で、彼を再び走らせるのは危うい判断だった」とし、「今回の役回りに名乗りを上げられる育成ドライバーはハジャーの他に存在しない」と評価した。
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アルファタウリ・ホンダの角田裕毅とピエール・ガスリー、2021年3月12日バーレーン・インターナショナル・サーキットにて
『The Race』のジャック・コゼンス氏は、F1という世界の厳しさと皮肉を指摘する。
「角田は、他に誰も引き受ける者がおらず、断ることのできない気の毒な役回りを背負うことになった。そして実際、より良い仕事はしたが、残念ながら”それだけでは到底足りなかった”というのが厳しい現実だ」
「時に物事は奇妙な形で収まるものだ。レッドブルにいた開幕2戦でずさんな結果に終わったことが、かえってローソンにとっては2026年のシートに繋がったと言えるかもしれない」
レッドブル2ndシートの呪縛、ハジャーへの懸念
角田に代わって「毒杯」とも呼ばれるフェルスタッペンの隣の席に座るハジャー。彼もまた、前任者たちと同じ運命を辿るのではないかという懸念は多い。
『Autosport』のオレグ・カルポフ氏は、ダニール・クビアト、ピエール・ガスリー、アレックス・アルボンらが辿った”使い捨ての歴史”を振り返る。
「彼らが昇格したのは、圧倒的なパフォーマンスを見せたからではなく、単に前のドライバーが失敗したからだ」
「ハジャーも同様だ。角田が必要なレベルに達していなかったのは疑いないが、今度はハジャーが、多くのドライバーを焼き尽くしてきたシートに座る番だ。彼が過去のドライバーたちよりもうまく対処できることを願うが、それを現実的な期待と呼べるだろうか?」
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ダニール・クビアト
ドイツの専門メディア『Motorsport-Total』のノーマン・フィッシャー氏は、メルセデスのトト・ウォルフ代表の発言を引用し、レッドブルの構造的な問題を指摘する。
「今のレッドブルは本質的に『1台だけのチーム』だ。セカンドドライバーが燃え尽きる可能性は極めて高い。ガスリーも、アルボンも、ローソンも、そして角田も、誰もがその道を辿った。ハジャーだけは違うと本気で信じる人がいるだろうか」
「たしかに彼はデビューイヤーに素晴らしい走りを見せたが、カートや育成カテゴリでタイトルを獲得した経験はなく、“世代を代表する才能”というわけではない」
一方で、元F1テクニカルディレクターのゲイリー・アンダーソン氏は、2026年の新規定導入がハジャーにとって追い風になる可能性を示唆する。
「2026年に新たなレギュレーションが導入されることを考えれば、フェルスタッペンと肩を並べるには最適なタイミングとも言える。クルマの手応えに関する“持ち越し”がほとんどない状態で、二人が揃ってゼロベースの旅に踏み出すからだ。それでも、現在のグリッドで最も手強いドライバーと言っていい存在を相手にするのは簡単ではない」
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パルクフェルメで勝利を喜ぶマックス・フェルスタッペン(レッドブル・レーシング)、2025年9月7日(日) F1イタリアGP決勝(モンツァ・サーキット)
逃したサインツ、そして「スーパーアグリ」への郷愁
今回の人事をめぐっては、カルロス・サインツを見逃したことを批判する声もある。『The Race』のジャック・ベニヨン氏は、フェラーリのシートを失いフリーエージェントとなっていたサインツを確保しなかったことを「愚か」と切り捨てる。
「レッドブルには同情できない。昨年、解決策は目の前にあった。カルロス・サインツだ。彼をみすみす逃したのは愚かだった」
「サインツは今季、ウィリアムズで角田より2つ多い表彰台をつかみ取った。4月以降は開発の後押しがゼロに等しく、課題だらけのクルマにもかかわらず、彼は驚くような結果を引き寄せ、チームを一枚岩にまとめ上げた。サインツがトップチームにいるべき存在なのは明らかだ」
さらに「ハジャーは良いシーズンを送った。だが、同じクルマで走ったのは2戦だけとはいえ、角田と比べて抜きん出た印象を与えたわけでもなく、シーズンを通して見ればローソンを圧倒したとも言い難い」とも指摘した。
Courtesy Of Indycar / Dana Garrett
スーパーアグリ・ホンダF1の佐藤琢磨、2006年F1アメリカGPフリー走行にて
そして、『The Race』のマット・ビーア氏は、かつてのホンダのプロジェクトを引き合いに出し、角田のF1キャリアが事実上の終焉を迎えたことへの悲哀を綴った。
「もしホンダが古いレッドブルの車体を手に入れ、かつての”スーパーアグリ”のように角田のためのチームを急造できれば……というのは冗談だが、角田は今や傷物だ。リザーブドライバーという猶予を与えられたとはいえ、彼のF1レーサーとしてのキャリアはほぼ確実に終わったと言える」
ビーア氏は、角田のポテンシャルが実を結ばなかった無念さをこう表現する。
「2004年のBARホンダ最盛期に、ジェンソン・バトンの10回に対し、1回ながらも表彰台を獲得した佐藤琢磨より、角田にはまだより多くの可能性があったと思う」
「確かに、もっと良い走りを見せるべきだったのも事実だ。そして、トップチームで成功するために必要なあらゆる資質が備わっていないことも十分に証明されてしまった」
「それでも、レッドブルで見せた角田の最良の瞬間は、胸が高鳴るような可能性を秘めていた。そして、彼より能力の低いドライバーが、長々とF1に居座っている現実を思えば、実に惜しい話だ。これは“ついに実らなかった才能の物語”として幕を閉じることになるのだから」
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18番手でのSQ1敗退を経てピットレーンを歩く角田裕毅(レッドブル)、2025年10月17日(金) F1アメリカGPスプリント予選(サーキット・オブ・ジ・アメリカズ)