突飛か、妙案か…F1水しぶき問題に「2つの新提案」―変えるべきはタイヤでも車体でもない?

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雨天時の視界不良というF1が抱える近年の課題に対し、フェルナンド・アロンソ(アストンマーチン)やジョージ・ラッセル(メルセデス)が一石を投じた。従来、車体やタイヤの変更にばかり注目が集まる中、彼らは別の要素にスポットライトを当てる。

水しぶきが引き起こしたスパでの混乱

議論のきっかけとなったのは、先週末のベルギーGP。スパ・フランコルシャンで行われた決勝では、フォーメーションラップ中の水しぶきの多さからレースコントロールがスタートを中断。最終的に開始は約80分遅れとなり、その後の天候の回復を背景にレースの大部分はドライコンディションで行われ、ウェットレースの興趣を削いだとの批判も聞かれた。

セーフティーカー(SC)の後方を走行するマクラーレンのランド・ノリスとオスカー・ピアストリ、2025年7月27日F1ベルギーGP決勝レース(スパ・フランコルシャン)Courtesy Of McLaren

セーフティーカー(SC)の後方を走行するマクラーレンのランド・ノリスとオスカー・ピアストリ、2025年7月27日F1ベルギーGP決勝レース(スパ・フランコルシャン)

水しぶきによる視界不良問題が大きく注目を集めるきっかけとなったのは、2022年の日本GPで発生した2時間に及ぶ赤旗中断だった。

原因として指摘されているのは、2017年に導入された幅広タイヤと、現行のグランドエフェクトカーがアンダーフロアから後方へと放出する独特の空気の流れだ。これらの要素が相まって、水しぶきが大きく舞い上がる構造となっており、以降は車体やタイヤの見直しに多くの議論が費やされてきた。

「水しぶきゼロ」の路面を標準化?

だが、アロンソはその視点を転換させる。英専門誌『The Race』によれば、2度のF1ワールドチャンピオンはハンガリーGPを前に、「すべてのサーキットのアスファルト舗装を、高速道路で採用されている特殊な路面に変更してはどうか」との提案を打ち出した。

「高速道路の中には水しぶきが全く出ない舗装もある。そういう路面を全サーキットに導入すれば、水しぶきはゼロになる」とアロンソは語る。

「ドライではタイヤのデグラデーションが酷くなるかもしれないけど、それを出発点に議論を進めていけばいい。まあ、僕はただのドライバーに過ぎないけどね」

後輩のスペイン人ドライバー、カルロス・サインツ(ウィリアムズ)も、「何か違うことを試すべき」としてアロンソに同調。水しぶきが発生しにくい舗装の検討に前向きな姿勢を示した。

スパ・フランコルシャンのアスファルト路面、2025年F1ベルギーGPメディアデーCourtesy Of Pirelli & C. S.p.A.

スパ・フランコルシャンのアスファルト路面、2025年F1ベルギーGPメディアデー

ポーラスアスファルトの可能性と限界

水しぶきを防ぐような、透水性や排水性が高められた舗装としては、「ポーラスアスファルト舗装」が挙げられる。これは、骨材に多孔質な材料を使用することでアスファルトの表層部の隙間を増やし、雨水を路面下に逃がす構造が特徴だ。

イメージとしては、路面が水を「飲み込む」のような感じだろうか。雨天時の安全性向上のため、各国の高速道路で広く採用されている技術だ。

だが、この技術も万能ではない。路面に無数の小さな隙間があることで、通常の舗装より劣化が早く、タイヤの摩耗も激しくなるリスクがある。また、F1マシンのアンダーフロアが生み出す強烈な負圧に耐える構造強度も必要であり、導入コストも莫大だ。加えて、世界中のサーキットを一律で改修するとなれば、現実的とは言い難い。

ラッセルの提言「テクノロジーで視界を補え」

一方、視界確保の“デジタルアプローチ”を唱えるのが、GPDA(F1ドライバー組合)理事のラッセルだ。

「今の時代、GPSもあるし、自家用車にだってヘッドアップディスプレイが付いているんだから、目視できない時でも前のクルマの位置を視覚的に示してくれるようなシステムがあってもおかしくないと思う」と考えを巡らせる。

「僕らが見ている景色って、雨の中で高速道路を時速130kmで走っていてワイパーを切った時の視界と同じなんだ。ただ違うのは、僕らは130kmじゃなくて300kmで走っているってこと」

「もしかしたら将来的には、何かしらのバーチャルリアリティ的な……いや、VRじゃないにしても、視覚的に前のクルマの位置がわかるような技術が生まれるかもしれない。まぁ、それについては僕よりもっと頭の良い人たちに任せるよ」

人物認識機能ナイトビジョンを搭載したBMW 5シリーズ セダン、2009年11月23日Courtesy Of BMW

人物認識機能ナイトビジョンを搭載したBMW 5シリーズ セダン、2009年11月23日

赤外線を使ったナイトビジョンなど、ドライバーの視界を補完する車載システムはすでに存在しており、技術的検討の余地はあるものの、高速かつ振動の多いF1という特殊な環境下での安定動作やリアルタイム処理には多くの課題が伴う。また、システムの突発的な不具合が発生するリスクも否定できず、依然として「水しぶきそのもの」を如何に抑えるかという根本的な課題は残る。

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