
ラッセルが指摘する「アントネッリ不振」の”落とし穴” ― メルセデスは何を誤り、どう立て直すか
無得点レースが続くチームメイトの新人、アンドレア・キミ・アントネッリについてジョージ・ラッセル(メルセデス)は、スランプに陥っているわけでも、パフォーマンスレベルが低下しているわけでもないと考えている。
アントネッリは、オーストラリアGPでのデビュー以来、開幕6戦で5回の入賞を果たしたが、エミリア・ロマーニャGP以降は低迷が続いており、ベルギーGPも16位に終わった。直近7戦で唯一の入賞は、カナダGPでの3位表彰台のみと、厳しい状況にある。
しかしながらラッセルは、「彼のパフォーマンス自体は、シーズン序盤と比べて良くなったわけでもないし、悪くなったわけでもないと思う。ただ、チームの競争力が後退しただけだ」と分析する。
車体性能に左右されるドライバー評価
ラッセルは、アントネッリが実際の走りに対して過小評価されていると指摘する。ベルギーGPでアントネッリは予選Q1敗退に終わったが、ラッセルとのタイム差はわずか0.3秒だった。
「カナダでは0.6秒差だったけど、僕はポールで、彼は4番手だった。つまり、クルマの速さっていうのは、ドライバーの印象にすごく影響するんだ」
ラッセルの指摘通り、F1においてドライバーの評価は、マシンの性能に左右される側面がある。表面的な順位だけでパフォーマンスを判断すれば、本質を見誤る危険がある。
Courtesy Of Mercedes-Benz Grand Prix Ltd.
ガレージでリザーブ・ドライバーのバルテリ・ボッタスと話をするアンドレア・キミ・アントネッリ、2025年7月26日F1ベルギーGP(スパ・フランコルシャン)
“有利なコンディション”でも結果に届かず
ベルギーGPでは、雨に見舞われた難しいコンディションの中、ラッセルは安定した走りを見せて5位でフィニッシュした。だが本人は、「正直、期待外れだった」と結果に満足していない。
「クルマの実際の速さからすれば、ちょっと良く見えすぎてるかもしれない」「僕らは通常、この手のコンディションの判断には強いから、天候としてはこれ以上望めないくらいだったはずなんだけど」
メルセデスにとって本来なら得意とする路面状況であったにもかかわらず、予想を下回る結果に終わったことに、ラッセルが不満を抱くのも無理はなかった。
Courtesy Of Mercedes-Benz Grand Prix Ltd.
スパ・フランコルシャンを走行するアンドレア・キミ・アントネッリのメルセデスW15、2025年7月27日F1ベルギーGP決勝レース(スパ・フランコルシャン)
“方向転換”とウイング変更が後退の引き金か
アントネッリほど印象は強くないかもしれないが、ラッセルもまたパフォーマンスの低下に苦しんでいる。開幕6戦で93ポイントを獲得したのに対し、その後の7戦では64ポイントにとどまっている。
ラッセルによれば、チームが数カ月前に行った「明確な方向転換」がパフォーマンス後退のきっかけになったという。
また、スペインGP以降に導入された新たなフロントウイング構造もチーム内で議題となっている。ラッセルは「それ以降で明らかにパフォーマンスが落ちた」と述べ、フレキシブルウイングを巡るFIA技術指令への対応として行われた変更が影響を与えている可能性を示唆した。
ここ数戦の不振を受けて、ベルギーGPの決勝翌日には、英国ブラックリーのファクトリーでデザイナーとエンジニア全員を集めた大規模な技術会議が開催された。
「ここ最近、ここ数カ月で下してきた判断を見直して、どうして後退してしまったのかを理解するための会議なんだ。ハンガリーで何らかの改善があるといいんだけど」とラッセルは期待を寄せた。
メルセデスは現在、両ドライバーが共通して苦しんでいる「コーナー進入時のリアの不安定さ」に焦点を当て、問題解決を模索しているものと見られる。
ラッセルは今後に向けて、「もちろん、フロントウイング自体は元に戻せないけど、それ以外のセットアップに関しては分からない。だから、シーズン序盤の状態に戻すだけで解決するかもしれない」と語った。
Courtesy Of Mercedes-Benz Grand Prix Ltd.
雨のスパ・フランコルシャンでメルセデスW15ドライブするアンドレア・キミ・アントネッリ、2025年7月27日(日) F1ベルギーGP決勝