ガレージでローラン・メキーズ(チーム代表)と会話する角田裕毅(レッドブル)、2025年7月26日(土) F1ベルギーGP予選(スパ・フランコルシャン)
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メキーズ新体制の「リスクある決断」が導いた角田裕毅のベルギー快走

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2025年F1第13戦ベルギーGP予選で、角田裕毅がレッドブル昇格後自己最高位となる7番手を記録した。その裏には、新チーム代表ローラン・メキーズ率いるレッドブルが下した「リスクを取った決断」があった。

物語は5月のエミリア・ロマーニャGPに遡る。予選でのクラッシュにより、角田はフロアを含む車体パーツを大きく損傷。その後、チームはタイトル争いを繰り広げるマックス・フェルスタッペンを優先してパーツを供給し続け、角田は旧仕様で7戦を戦い抜くことを強いられた。Q3進出は、5月のマイアミGPを最後に遠ざかっていた。

クラッシュした角田裕毅(レッドブル・レーシング)、2025年5月17日(土) F1エミリア・ロマーニャGP予選Q1copyright FORMULA 1

クラッシュした角田裕毅(レッドブル・レーシング)、2025年5月17日(土) F1エミリア・ロマーニャGP予選Q1

勝負を懸けたアップグレード投入

転機が訪れたのは、スプリントが行われた土曜午後。角田が11位で完走した直後、チームはベルギーGP予選を前に、角田の22号車に新型フロアを投入することを最終決定した。

「我々は常に、パーツ供給がギリギリの状態で戦っている」と語るメキーズの言葉通り、この決断は大きなリスクを伴うものだった。

予選でフロアを損傷すれば、パルクフェルメ規定によりピットレーンスタートとなる可能性があったほか、新型フロアの効果がより大きいと見られる、翌週のハンガリーGPを旧仕様で戦わなければならなくなる恐れもあった。

それでもレッドブルは「リスクを取った決断」を下した。「予選の出走がギリギリになったのはそのためだ」とメキーズが明かすように、スプリント後の変更作業は時間と勝負だった。

この決断は、角田に対する信頼の証であり、チームとしての期待の表れでもあった。そして角田は、メカニックたちの努力とメキーズの想いに全力で応えてみせた。

スパ・フランコルシャンの名物セクションであるオー・ルージュを駆け上がる角田裕毅(レッドブル)、2025年7月26日(土) F1ベルギーGP予選Courtesy Of Red Bull Content Pool

スパ・フランコルシャンの名物セクションであるオー・ルージュを駆け上がる角田裕毅(レッドブル)、2025年7月26日(土) F1ベルギーGP予選

未知のマシンで示した即応力

新型フロアが搭載されたマシンは、角田にとって「未知のクルマ」だった。だが、走行時間の限られた予選セッションを通じて、この新仕様に見事に適応してみせた。

Q1、Q2を危なげなく突破し、7戦ぶりのQ3進出を果たすと、Q3ではフェルスタッペンとの差をわずか0.357秒に抑える走りを披露した。

「ここ数戦と比べてすごく楽しめるセッションでした」と振り返る角田の口調からは、久々に本来の力を出し切れたという手応えが滲んでいた。

パッケージ全体としては依然としてフェルスタッペンの仕様とは異なっていたが、「チームには本当に感謝しています。このアップグレードは間違いなく大きな進歩でした」と語る角田の表情は、久々に明るさを取り戻していた。

結果そのもの以上に、これまで積み重ねてきた努力が正しかったと証明できたという想いが、角田の胸にはあった。「データ上では、正しい方向に進んでいると分かっていましたし、(フェルスタッペンとの)差もどんどん縮まっていました。それを証明できてよかったです」

明暗を分けた戦略判断

一方で、予選での判断には明暗もあった。日曜の降雨を見越してリアウイングの仕様を変更したものの、これがフェルスタッペンには裏目に出た。マシンバランスの悪化に苦しみ、4番手に甘んじることとなった。

メキーズは、「降雨による路面グリップの低下を想定してセットアップを調整した」と説明。その上で、「我々としては、特に雨を望んでいるわけではない」とし、レースがウェットでもドライでも構わないと語った。

「雨になればマクラーレンとの差を縮めるチャンスになるだろうが、仮にドライだったとしても、それはそれで構わない。ドライであっても、タイヤマネジメントが重要な要素になると思う」

再び自信を得た角田、転換点となるか

「彼のパフォーマンスを非常に高いレベルに引き上げる上で、今回のアップグレードが役に立ったのは間違いない」とメキーズが評価するように、この日の結果は角田裕毅にとって転機となる可能性を秘めている。

「ユーキにとっては、週末を通して非常に大きなステップを踏むことになった。Q3進出は、彼にとって大きな自信になるだろう」

7戦という長い沈黙を破っての今季自己ベスト。それは、リスクを恐れずに託したチームの覚悟と、それに応えた角田の走りが結実した瞬間でもあった。


2025年F1ベルギーGP予選では、ランド・ノリス(マクラーレン)がポールポジションを獲得。2番手にチームメイトのオスカー・ピアストリが、3番手にシャルル・ルクレール(フェラーリ)が続く結果となった。

決勝レースは日本時間7月27日(日)22時にフォーメーションラップが開始され、1周7004mのスパ・フランコルシャンを44周する事でチャンピオンシップを争う。レースの模様はDAZNフジテレビNEXTで生配信・生中継される。

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