
ホンダF1の挽回策ADUOにフェラーリも照準、バスールが描くキャッチアップ戦略
中東2連戦の中止に伴い、パワーユニット性能格差救済制度「ADUO」の運用が注目されている。これまでその適用候補としてアストンマーティン・ホンダへの関心が高かったが、フェラーリもまたADUOを巻き返しのための重要な機会として捉えていることが明らかとなった。
イタリアの専門メディア『autoracer』によると、フェラーリのチーム代表フレデリック・バスールは、「ICEの改善が必要なことは分かっている」と述べ、その手段としてADUOに言及した。
シーズン開幕2戦を経て、ランキング2位につけるフェラーリがこの制度の適用対象になる可能性を見据えているという事実は、メルセデスが持つ優位の大きさを逆説的に強調する。
「0.3〜0.5秒」タイム差の裏に潜むICE性能差
Courtesy Of Pirelli & C. S.p.A.
上海インターナショナル・サーキットのコーナーでジョージ・ラッセル(メルセデス)を背後に従えて走行するルイス・ハミルトンのフェラーリSF-26、2026年3月14日(土) F1中国GPスプリント
第2戦中国GP予選でポールポジションを獲得したメルセデスとフェラーリのタイム差は0.351秒に過ぎない。だがADUOの適用可否はラップタイムではなく、シャシーや空力の寄与を排除したFIA独自の「ICEパフォーマンス・インデックス」によって判定される。この指標の具体的な算出方法は公開されていない。
上海でのレースを経てバスールは、パフォーマンス面ではメルセデスが明確なベンチマークであると主張し、特にストレート区間での性能差が顕著だと指摘した。
「週末全体で見れば、彼らの方が我々より速い。セッションによって差はあるが、常に0.3〜0.5秒は上回られている」
「ただし直接のバトルでは、オーバーテイクモードやタイヤマネジメントによって何とか防ぐことはできる。1秒以内にいれば、タイヤを少し使いながらでも持ちこたえられる。」
「だが彼らがクリーンエアを得た途端、我々はコンマ数秒遅れてしまう。今日もそれは明らかだった。ストレートで差があることは明確だ。ここは改善が必要だ」
開幕2戦の内容を見る限り、小型ターボを採用するフェラーリはスタートとコーナリングで強みを発揮する一方、メルセデスはパワーと最高速で優位に立っている。メルセデスとフェラーリのエンジン性能差は20~25馬力との試算もある。
Courtesy Of Mercedes-Benz Grand Prix Ltd.
初優勝後のシャンパンシャワーを経て濡れた姿で笑顔を見せるアンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)、2026年3月15日(日) F1中国GP(上海インターナショナル・サーキット)
ADUOとは何か、凍結PU時代の巻き返し策
2026年のレギュレーションでは、PUの基本設計は凍結されている。だがADUOの適用対象となったメーカーには、アップグレード投入の許可に加え、テストベンチの稼働時間追加やコストキャップ控除など、挽回のための機会が与えられる。
たとえばトップとの性能差が2%以上4%未満と判断された場合、年内に1回、翌年に1回の改良が可能となる。4%以上ならシーズン中に2回、翌年にも2回のアップグレードが認められる。この評価は年に3回実施される。
当初、最初の評価はマイアミGP後に行われるはずだった。だがバーレーンGPとサウジアラビアGPの中止により、モナコGP後にずれ込むことになる。
巻き返しを目指すメーカーにとっては開発・投入計画の見直しを迫られる状況であり、アストンマーティン・ホンダの現場チームを率いるマイク・クラックは中国GPを経て、「改善の機会は早ければ早いほど望ましい」との認識を示した。
現時点ではモナコGP後に最初の評価が行われる見通しだが、一方でFIAが規則の調整を検討しているとの噂もあり、モナコGP以前に最初の評価期間の末日が設けられる可能性もゼロではない。ただし、現時点で確認は取れていない。
マイアミ投入の新パッケージ、規模は「1.5倍」へ
Courtesy Of Alpine Racing
マイアミ・インターナショナル・オートドロームでアルピーヌA525をドライブするジャック・ドゥーハン、2025年5月2日F1マイアミGPフリー走行1
バスールは、メルセデスとの差の全てをICEに求めるは間違いだと自らを戒める。「マシン全体も改善しなければならない。魔法の杖はない。タイヤ、空力、シャシー、サスペンション、すべてに取り組む必要がある。我々はマクラーレンやレッドブルの前にいるが、彼らも開発を進めてくる」と語った。
中東2戦の開催中止により生まれた時間は、開発の拡充に充てられる。当初バーレーンGPでの投入が計画されていた開発パッケージはマイアミGPへと持ち越されたが、「場合によっては1.5倍の規模になる」とバスールは明かす。
上海で見送られた新型「マカレナ・ウイング」についても、引き続きデータ分析を進め、実戦投入のタイミングを探る構えだ。鈴鹿サーキットは高い空力効率が要求されるコースであり、次戦日本GPで再びお目見えする可能性もありそうだ。
スタート手順を巡る対立、バスールの強い拒否反応
Courtesy Of Red Bull Content Pool
スタート直後のメインストレートを先頭で走るジョージ・ラッセル(メルセデス)とマシンの集団、2026年3月8日(日) F1オーストラリアGP決勝(アルバート・パーク・サーキット)
バスールはスタート手順をめぐる議論にも明確な立場を示した。今季のF1では、MUG-Hの廃止に伴い発進時に電動パワーでターボラグを補うことができなくなった。加えてバッテリーの残量不足や複雑な手順が絡み、各車のスタートに大きなばらつきが出ている。
その結果、接触リスクの増大を懸念する声も上がっているが、バスールは議論の継続に否定的だ。
「1年前、私は手を挙げて問題が起きると警告した。その時の答えは明確で、“既存のルールに従ってクルマを設計すべきだ”というものだった。だから我々はそうした」
「すでにブルーライトを使ったスタート手順への5秒追加など、大きな変更が行われた。それは我々にとって助けにならなかった。もう十分だ。この件は我々の中では終わっている!」
競争上の優位を守る立場からの発言であることは明白だ。だが1年前からの経緯を踏まえれば、その主張には一定の筋が通っている。