
巧妙な設計ではなかった…違反疑惑を醸したメルセデスF1「多段ウイング」の真相
2026年F1第2戦中国GPの終了後、メルセデスのフロントウイングの挙動がSNSや海外掲示板で波紋を呼んだ。レースで優勝したアンドレア・キミ・アントネッリのマシンを捉えた動画が広く拡散したのだ。問題視されたのはアクティブエアロだった。
映像には、ストレートで地面に対してフラットになったフロントウイングが、コーナーモードへの移行途中にいったん”中間状態”で止まり、その後、通常の迎角へと戻るような様子が記録されていた。
これを受けイタリアの複数の専門メディアは、規則に違反する可能性があると報じた。この件については、少なくとも1チームが第3戦日本GPを前に国際自動車連盟(FIA)に対し、この挙動が規則の範囲内かどうかを確認するための問い合わせを行ったことが明らかになっている。
疑われた理由、規則の「0.4秒」
F1規則C第3条10項10号は、フロントおよびリアウイングの2つのモード間の移行時間が「400ms(0.4秒)を超えてはならない」と定めている。また、ウイングの状態は、コーナーモードとストレートモードの2つのポジションのみと規定されている。
映像に映った挙動は、この移行時間を超えているように見えたうえ、3つのポジションを伴っているようにも解釈できるものだった。規則の文言と照らし合わせたとき、ライバルチームが「これは許容範囲なのか」と疑問を抱くのは自然な反応だったといえる。
一部では、この挙動が意図的に設計されたものではないかとの見方も広がった。特に注目されたのは、前後ウイングの状態を意図的にずらすことで空力バランスを変化させ、ブレーキング時の安定性やエネルギー回生効率を高めるという仮説だ。
さらに、モード移行時のダウンフォースの変化を緩やかにすることで、フロントロックの抑制やマシン姿勢の安定化につながる可能性も指摘された。
だが一方で、移行の遅れはコーナー進入時の挙動に悪影響を及ぼし、ラップタイムの面で不利に働いた可能性もある。意図的な設計との見方は、必ずしも的確とは言い難い側面もあった。
真相は「計算ミス」、FIAも納得
実際の原因は単純なものであったようだ。メルセデスは、フロントウイングをコーナーモードに戻すために油圧を用いる設計を採用しているが、イギリスの専門メディア『The Race』によると、中国GPではその圧力設定に誤算があった。
高速走行時、ウイングには強い空力的な負荷がかかる。その力に対抗してウイングを元に戻すための油圧が不足していた結果、コーナーモードへの移行が遅れたのだという。
速度が落ち、空力的な負荷が減少した段階で初めて、ウイングは本来の位置まで移動する。この遅延が、結果として「多段階」のように見える挙動を生んだ。つまり、疑惑の中心となった挙動は「巧妙な仕掛け」ではなく、単なるセッティング上の問題に過ぎなかった。
メルセデスは中国GPの予選中にこの問題に気づき、セッション中にジョージ・ラッセルのフロントウイングを交換した。また、レースに向けて対策を講じたものの、決勝ではアントネッリのマシンで同様の現象が再発した。
FIAはライバルチームからの問い合わせを受けてメルセデスと協議を行い、この説明に納得したという。また、再発防止に向けてメルセデスが対応に取り組んでいたことも、不正な意図がないことの裏付けになったとされる。