揺らぐF1撤退の大義名分…ホンダがEV戦略を抜本修正、損失最大2兆5000億円と試算

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2026年3月12日、ホンダは四輪電動化戦略の見直しを発表した。北米で生産を予定していたEV3車種の開発・発売中止などを決定し、2026年3月期の通期連結業績予想も大幅に下方修正した。

ホンダは2021年末でF1から撤退する際、2050年のカーボンニュートラル実現に向け、「F1で培ったエネルギーマネジメント技術や燃料技術、そして人材を先進パワーユニットとエネルギーの研究開発に振り向ける」と説明していた。

だが、その大義名分の中核にあったEV戦略は、わずか6年で修正を迫られることになった。

黒字予想から一転、最大5700億円の赤字見通しへ

今回の業績修正の規模は大きい。ホンダは今期の営業利益予想を、従来の5500億円の黒字から、2700億円~5700億円の赤字へと引き下げた。連結最終損益は4200億円~6900億円の赤字を見込む。

最終赤字は1957年の上場以来初となるだけに、F1プロジェクトへの影響も懸念される。

主な要因は、開発と発売の中止を決めた「Honda 0 SUV」「Honda 0 Saloon」「Acura RSX」の3車種に関する損失だ。これらの生産に使用する予定だった固定資産と無形資産の除却損失、減損損失に加え、販売や開発の中止に伴う追加支出が発生する見込みだ。

なお、今期の損失に加え、来期以降も戦略の見直しに関連する追加費用または損失が発生する可能性があり、合計では最大2兆5000億円に達するとの試算も示された。ただしこの数字は現時点での概算値であり、実際の計上額は異なる可能性があるとホンダは説明している。

Honda 0 SALOON と Honda 0 SUV、2025年1月8日Courtesy Of Honda Motor Co., Ltd

Honda 0 SALOON と Honda 0 SUV、2025年1月8日

前提が崩れた米国、競争が変わったアジア

ホンダが戦略見直しの背景として挙げた要因は3つある。

第一に、米国の関税政策変更に伴い、ICEとハイブリッド車の事業環境に影響が生じたこと。第二に、EV開発へのリソース集中がアジア市場での商品競争力低下を招いたこと。第三に、中国やアジアで自動車の価値がハードウェアからソフトウェアへと急速に移行し、新興EVメーカーがADAS(先進運転支援システム)やSDVを武器に台頭したことだ。

ホンダはこの競争の変化に十分対応できず、新興EVメーカーなどと比べてバリューフォーマネーのある商品を提供できなかったと説明。四輪事業が「極めて厳しい収益状況」に陥ったと認めた。

今後はHEV強化へ、配当は維持

今後はリソースをハイブリッド車(HEV)へ再配分する方針だ。市場別では日本、米国、そして成長が見込まれるインドを重視し、モデルラインアップ拡充とコスト競争力の強化を進める。その他のアジア各国でも、次世代ハイブリッド車の投入などで事業の立て直しを図るという。

ホンダは株主資本配当率を指標とするDOEを株主還元方針の軸としており、今回の業績予想修正後も配当予想は変更しなかった。

一方で、代表執行役社長と代表執行役副社長は2027年3月期の月度報酬30%を3か月分、自主返上する。経営会議メンバーと四輪事業に関係する執行役常務も、月度報酬20%を3か月分返上する。

さらに、代表執行役社長と代表執行役副社長の2026年3月期の業績連動型短期インセンティブは不支給とされる。その結果、代表執行役の年間報酬は基準額に対して25~30%減額となる見込みだ。

F1プロジェクトに重なる苦境、という皮肉

ホンダは今季、アストンマーティンとのワークス体制でF1に復帰した。振動問題に起因する一連のトラブルにより走行が制限される状況が続き、開幕戦オーストラリアGPでは2台揃って完走すら果たせなかった。

こうした事態を招いた直接的な原因は明らかにされていない。だが、アストンマーティンのマネージング・テクニカル・パートナーを務めるエイドリアン・ニューウェイは、撤退を挟んだことで現在のホンダの組織がかつてとは大きく変わった可能性を示唆している。

F1撤退後もホンダはレッドブルへの技術支援を継続し、2026年規則に関する基礎研究も小規模ながら続けていた。だが英国拠点は売却され、中核メンバーの多くは社内のカーボンニュートラル関連プロジェクトへ異動。組織としては文字通り、実質的な撤退状態にあった。

ニューウェイは「再結成されたチームメンバーの大部分はF1での経験がなかった。つまり以前の経験がほとんどない状態だ」と明かす。さらに、2021年シーズンに選手権制覇を果たした当時の開発スタッフが、現在のプロジェクトに「30%程度しか残っていないのではないか」との見立ても示した。

2021年末限りでの撤退が、現在のホンダF1プロジェクトにどの程度、具体的な影響を及ぼしているのかは定かではない。だが、撤退時の論理の中心にあったEV戦略が、F1復帰とほぼ同じタイミングで抜本的な修正を迫られた事実、そしてホンダ本体とF1プロジェクト双方が非常に厳しい状況に直面している現状は、皮肉と言うほかない。

ホンダは5月に四輪事業の中長期戦略再構築の詳細を発表するとしている。