数値で以てF1タイヤに要求される「崖」やデグラデーション、FIA入札案内書を読む

アルファロメオC43に装着されたピレリ製F1ミディアムタイヤ、2023年2月23日F1プレシーズンテストにてCourtesy Of Pirelli & C. S.p.A.

2025年以降のFIA-F1世界選手権で使用されるタイヤには、具体的な数値で以てデグラデーション・レベルや「崖」到達までの目標距離が指定されている。

これはFIAが掲げる4つの目標を達成するために設けられている。最優先事項は「ショーの改善」で、「ドライバビリティ特性」「パフォーマンス」「作動条件」がこの順で続く。

Courtesy Of Alfa Romeo Racing

ザントフォールト・サーキットに揺らめく国際自動車連盟(FIA)の旗、2022年9月1日F1オランダGP

これらは24年末までのピレリとの現行契約満了後のタイヤサプライヤーに関するFIAの入札案内書に記されている。期限は2023年5月15日。基準を満たした「承認入札者」が6月16日に決定される。

前回の入札においても同じように様々な技術的条件が定められていた。未公表ながらも現行タイヤに関しても同様に、各項目に対して目標数値が与えられているものと考えられる。

とは言え書面はA4サイズで計52ページと、前回の入札時と比べて約4.5倍に膨れ上がっており、要件はより広範に、そして詳細になっている。

ここではその中から、主に競技に直接影響するような技術的内容を幾つか取り上げてみたい。

なお車体の仕様が決定していない2026年以降に関しては契約後に別途、各要件が設定される。特に断りがない場合を除き、以下の数値は原則として2025年仕様のタイヤに関するものである事に留意されたい。

ターゲットタイムとデグラ

ハードコンパウンドのタイムを基準に、各コンパウンドが達成すべきターゲットタイムが指定されている。コンマ5秒刻みと、均等だ。

  • ミディアム:ハードより0.5秒/周速い
  • ソフト:ハードより1.0秒/周速い

Courtesy Of Pirelli & C. S.p.A.

2022年仕様のピレリ製18インチF1タイヤ5種類 (1)

デグラデーションに関してはいずれのコンパウンドも最小限に抑えなければならないとされ、コンパウンド毎に性能劣化の数値目標が設定されている。

  • ハード:0.02秒/周
  • ミディアム:0.05秒/周
  • ソフト:0.08秒/周

シーズンによってマシンのエアロやエンジンパフォーマンスは異なる。何の手掛かりもなしに数値だけ与えられても要求を満たすタイヤを開発する事はできない。

そのためFIAからは予選(低燃料、DRSオン、ERS全開)と決勝(燃料満タン、DRSオフ、ERSバランスモード、グリップレベル-5%)の両シミュレーションなど、様々なデータが提供される。

シミュレーション・データはタイヤへの負荷が大きいシルバーストン、鈴鹿、スパ、ザントフォールト、そしてダウンフォースレベルが対照的なバルセロナとモンツァの計6つを対象としたものが用意される。

「崖」=クリフの指定

パフォーマンスダウンなく1つのセットで無尽蔵に走行できる場合、基本的にピットストップの回数は減る方向に振れる。これはリザルトに影響を与えうる変数の減少を意味する。

そこでFIAはマルチストップを促してレースをバラエティに富んだものにするため、ある一定の摩耗レベルに達すると、突如パフォーマンスの落ちが劇的になるという、いわゆる「崖(クリフ)」を求めている。

クリフの存在はチームに対してピットストップを強制する事に繋がる。

Courtesy Of Ferrari S.p.A.

カルロス・サインツ車のピットストップ作業を行うフェラーリのメカニック、2022年9月4日F1オランダGP決勝レース

崖に到達するタイミングの期待値は以下のようにコンパウンド毎に指定されている。前回も崖の指定はあったが、ここまで具体的ではなかった。

  • ソフト:レース距離の25%以上(90km以内)
  • ミディアム:レース距離の30%以上(120km以内)
  • ハード:レース距離の50%以上(180km以内)

無論、性能寿命はサーキットの特性やコース全長、路面の粗さ等に左右されるため、これらはあくまでも目安だ。

前回の入札時には1ストップレースを許容する内容であったが、上記の数値からはFIAが2ストップ以上を目標にしている事がうかがえる。

なお「崖」を持たせるためには、性能が低いコンパウンドをトレッド面の下層に設けるなどの対策が必要となる。

作動温度とグリップレベル

最大レベルのグリップが生じる作動温度を基準として各コンパウンドは、少なくともその±20℃の範囲において、ピークグリップの3%以内のグリップレベルを維持しなければならないとされる。

RFIDタグ

競技に影響するものではないが、識別および管理のために、各タイヤには2つのバーコードとRFIDタグの取り付けが義務付けられる。RFIDは公共交通機関などのICカードでもお馴染みの仕組みだ。

バーコードはレーザーを使って一枚ずつスキャンする必要があるが、RFIDの場合は複数を一括でスキャンできるほか、汚れにも強く、数メートル離れた位置からでも読み取ることができる。

タイヤサイズ

見直される可能性はあるものの、2025年のタイヤサイズは2023年の現行スペックと変わらない。タイヤウォーマーの廃止に関しては今季中に決定が下される。

タイヤサイズ
種類 フロント リア
ドライ 305/720-18 405/720-18
インターミディエイト 305/725-18 405/725-18
ウェット 305/730-18 405/730-18

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