ブリヂストンF1復帰の命運握るか、ベルギーGP会合…落札結果を左右する要素や如何に
15年ぶりとなるブリヂストンのF1復帰の命運を握っているのはタイヤウォーマー計画かもしれない。その意味でF1第13戦ベルギーGPの初日を迎える7月28日(金)の会合は、日本のタイヤメーカーにとって運命の分かれ道となる可能性がある。
スパ・フランコルシャンで行われるF1コミッションでは、アルピーヌからの懸念の声を受けエンジン性能の均等化が議題に挙げられるほか、ウォーマーを必要としないタイヤを2024年に導入するか否か等、幾つかの項目が検討・投票にかけられる見通しだ。
1年のオプションを含む2025~2027年のF1公式タイヤサプライヤー入札に関しては現在、技術面の審査を突破したピレリとブリヂストンの2社がF1の商業権を保有するリバティ・メディアとの最終交渉に臨んでいると見られており、サマーブレイク中の決定が見込まれる。
F1チームはタイヤサプライヤーの決定権を持たないが、F1コミッションでの投票を通して結果的に、そして間接的に決定に関与する可能性もありそうだ。
仮に2024年に予定されているウォーマー不要タイヤの導入が撤回されない場合、ブリヂストンはコースイン即、発熱というピレリが苦悩したタイヤに加え、シャシー規定が未定の2026年に向けた未知なる別のタイヤ開発を並行して進めなければならない。
そうなれば大規模なテストプログラムと莫大な費用が必要となる。独「AMuS」は、テストの追加費用は5,000万ドル(約69億円)に及ぶ可能性があり、ブリヂストンは「ほぼ不可能な課題に直面」するだろうと指摘する。
車体性能を活かせるかどうかはタイヤ次第だ。かつてピレリがロータスからクルマの供給を受けた際にそうであったように、一部のチームのみにテストが許可されるような形となれば不公平との批判が飛び交う事になる。
全チームにテスト機会を与える場合、追加のエンジンを含めて先のような膨大な費用が発生し、ブリヂストンはそれら全てを負担しなければならなくなる可能性があるという。
一方でピレリにとっては、ベルギーとイタリア、アブダビでのグランプリ後に加えて、日本とメキシコのフリー走行で確保済みの枠を使い、現行スペックをベースに開発を進めるのみだ。
ただ、ウォーマー導入計画が延期や予定通りの2024年導入ではなく白紙撤回されれば、金銭を含めた商業面でピレリよりも魅力的な提案を行ったとされるブリヂストンに追い風が吹く可能性もある。
パドックでは、仮に今回の入札を落札してもピレリがこれを最後にF1を去るとの見方がある。ピレリを選んでブリヂストンが次回、戻ってこなければ、F1は将来のサプライヤーに難儀する可能性もある。
ピレリ、F1、そしてFIAはウォーマー不要タイヤの2024年導入に賛成の立場と考えられているが、一部ドライバーからは否定的な意見が上がっており、現行タイヤに満足しているチームにとっては敢えて変更を望む理由は殆どなく、反対票を投じる可能性がある。
そもそもこの方向性で合意に至ったのは、環境に対する負荷を減らしてスポーツをより持続可能なものにするという競技面とは関係のない理由からだった。
ウォーマー不要タイヤそのものに関する懸念事項もある。
既に1万5千kmを超えるテストを消化しているとは言え、ピレリのモータースポーツ部門を率いるマリオ・イゾラが認めている通り、あらゆるコンディションで検証を終えたわけではなく、タイヤに対する入力が小さいコースでかつ、路面温度が低い、例えばラズベガスのような深夜に近いナイトレースでどうなるかは今も未知数だ。
まだFIAからの発表はなく、どのような結末が待ち構えているのかは分からないが、独「Motorsport-Magazin」は、FIAとF1は既に2025年以降の独占タイヤサプライヤーをピレリに決定したとして、ブリヂストンは競り負けたようだとも伝えている。
ブリヂストンが復帰を目指す今のF1は、かつてのタイヤ戦争時代とは状況が全く異なる。求められているのはピレリがそうしてきたように、エキサイティングなショーの実現を目指すF1やFIAからの広範かつ細かな要求に応える事であり、競合サプライヤーより高性能なタイヤを作ることではない。
ピレリは、継続供給による一貫性と安定性、そしてこれまでの実績と要求への対応が評価されているようだ。
28日のF1コミッションではこの他に、ギアボックス・カセットの標準パーツ化や、予算上限から除外するインフラ投資金額(5,000万ドルあるいは8,000万ドル)に関しても議論が行われる見通しだ。