ピアストリ、マクラーレン移籍騒動の裏…胡座をかいたアルピーヌと最終「CRB」シナリオ
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わずか数日間の間に2023年のドライバーズマーケットは混沌と化した。セバスチャン・ベッテルの電撃引退発表に続き、フェルナンド・アロンソがその後任としてアストンマーチンに移籍する事が決まり、アルピーヌとオスカー・ピアストリの間で内紛が生じたのだ。
前半最終ハンガリーGPから2日後の8月2日(火)、アルピーヌF1チームはアロンソの後任として2023年にピアストリを起用すると発表した。だが本人はこれを全面的に否定。「来年アルピーヌで走る事はない」とまで言い切った。
アロンソに続いてピアストリ…胡座をかいたアルピーヌ
この騒動勃発の前日、アルピーヌが本拠を構えるフランスの「AutoHebdo」は、ピアストリとマクラーレンとの間には既にある種の合意があり、ダニエル・リカルドに代わって英国ウォーキングのチームに移る見通しだといち早く伝えていた。
ピアストリとマクラーレンとの契約は公式には確認されておらず、また双方ともに接触や交渉の事実を明らかにしてはいないものの、これを疑う者はパドックには見当たらない。
チーム代表を務めるオトマー・サフナウアーは、「契約上の義務」があると主張する一方、ピアストリがアルピーヌから来季F1デビューするかとうかについては明言を避けたが、チームは結局、その日の午後にピアストリの起用を発表した。
伝えられるところによるとサウナウアーは、ピアストリがマクラーレンと2023年の事前契約を結んだとの報道について「マクラーレンとの間で何が行われたのかは知らない。私は当事者ではない」と語った。
またアルピーヌは、ピアストリが来季出走を否定した事を受け「我々のステートメントは法的に正しいと考えている。これ以上言うことはない」との声明を発表した。
サウナウアーによるとアルピーヌは、ピアストリとの間で2024年のオプションを含む2023年の契約を結んでいると言うが、ある種、強硬的にプレスリリースの発行したところを見ると、チームがピアストリを保持できるかについては疑問符が付く。
ピアストリ起用を告げるプレスリリースは奇妙な事に、この手の声明で通例のドライバー本人のコメントがなく、また発行のタイミングはピアストリの母国オーストラリア時間の深夜であった。
ピアストリのマネージャーを務めるマーク・ウェバーの寝込みを襲う事を狙ったかのような動きであり、既成事実を作らんとする試みのようにも感じられる。
契約書面上の条項がピアストリの離脱を防ぐに完璧なものであるならば、アルピーヌはマクラーレン移籍の噂に惑わされる必要はないし、突貫のリリースを発行する必要もないはずだ。
実際、アルピーヌは後手に回った状況で、ある種の焦りを感じていた可能性が高い。アロンソのアストンマーチン移籍は寝耳に水だったのだ。サウナウアー曰く、チームはアストンマーチンの発表で初めてその事実を知った。
ピアストリとアロンソという2つのオプションに胡座をかき、交渉上、圧倒的優位な立場にあると錯覚したがゆえに、結局はその選択肢を一気に2つ失った形だ。怠慢という批判も甘んじて受けねばなるまい。
交渉決裂の原因はやはり、契約期間を巡る対立から生じたものだった。アルピーヌが2024年のオプション付きの1年契約を提示する一方、アロンソは少なくとも2年の契約延長を望んでいた事が公式に確認された。
なお、アルピーヌの虚を突くアロンソのアストンマーチン移籍を主導したのはマネージャーのフラビオ・ブリアトーレであり、この72歳のイタリア人はアルピーヌを出し抜いてマクラーレンに接触していたと思われるマーク・ウェバーの元マネージャーでもある。
マクラーレン移籍、3つのシナリオ
一連の混乱の第3の利害関係者はマクラーレンだった。ピアストリとアルピーヌの一件は、インディカーに参戦するチップ・ガナッシ・レーシング(CGR)とアレックス・パロウとの間で生じた先月の一件を彷彿とさせる。
CGRがパロウとの契約延長オプションを行使したと発表した直後、マクラーレンはパロウの起用を発表し、パロウ自身もSNSを通してCGRの声明を否定した。
裁判沙汰にまで発展したパロウの一件と異なるのは、マクラーレンが沈黙を貫いているという点だ。CGRは提訴の際、パロウ起用を告げるマクラーレンのリリースを証拠として添付した。マクラーレンはこれを学んだのだろう。
リカルドがマクラーレンとの間で2023年の契約を有しているにも関わらず、状況はピアストリのマクラーレン入りの可能性が高い事を示唆している。
ピアストリは現在の雇用主であるアルピーヌを公然と非難した。つまり、それだけ確固たる何かがマクラーレンとの間にあるという事だ。もし何の保証もない状態で「来年アルピーヌで走る事はない」と言ったのだとすれば、それはあまりにも愚直で性急だ。
もしピアストリが後者ではない、つまり賢明であるという前提に立つならば、マクラーレンとリカルドとの現状に関しては以下の2つのシナリオが考えられる。
既にリカルドがマクラーレン側に今季限りでのチーム離脱または現役引退の意向を伝えたか、あるいは、金銭保証などを含めた何らかの形で両者が契約の途中解除に合意したか、だ。
そのいずれでもないとするならば、最後のシナリオはF1を統括する国際自動車連盟(FIA)の契約承認委員会(CRB)での紛争だ。
有名どころとしては2004年のジェンソン・バトンの一件がある。
この年バトンはBRAからF1に参戦していたものの、シーズン途中にウィリアムズとの2年契約を発表した。これに対してBARは契約を盾にCRBに一件を持ち込み、ウィリアムズとの契約を無効化させる事に成功した。
BARへの望まない残留は結果的にバトンにとって感謝すべきものとなった。ウィリアムズはその後、衰退の一途を辿った。一方のBARは2006年にホンダに買収され、バトンはその年のハンガリーGPでキャリア初優勝を飾った。