
4度のトラックリミットも無罰。アントネッリ事案が問う裁定の一貫性、「正当な理由」の線引きはどこに?
アンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)は、2026年F1第17戦シンガポールGPの決勝で4度にわたりコースを外れたが、5秒ペナルティを受けることはなかった。
レース中、トラックリミット違反が累積3回に達すると白黒旗が提示される。そして4回目の違反では5秒ペナルティ、5回目では10秒ペナルティが科される。
アントネッリは3位でフィニッシュし、4位のランド・ノリス(マクラーレン)に15.933秒差をつけていたため、仮に5秒ペナルティが科されても順位は変わらなかったが、スチュワードはレースディレクターからの報告を受け、実際に4回のトラックリミットがあったと認定していた。
逸脱4回のアントネッリ、なぜ処分を免れたのか?
処分を免れたのは、ピットストップ翌周のターン7での逸脱が、トラックリミット違反に該当するものではないと判断されたためだ。
『ハミルトン、コース外走行で順位を守った? 無罰の理由、鍵はノリスとアントネッリの動きに』でも指摘したように、F1競技規則第B1条8項6号はドライバーに対し、常にあらゆる合理的努力を払ってコースを走行し、「正当な理由」なくコースを離れないよう求めている。
国際自動車連盟(FIA)によれば、ターン7での逸脱は、ブレーキのトラブルという「正当な理由」によるものと認められた。そのため、アントネッリは処分を免れた。トラックリミットは4回あったが、トラックリミット違反が4回あったわけではない、ということだ。
62周で争われた今回のレースでは、合計30回のトラックリミットが記録された。そのうち22回がターン2での逸脱であり、全体の73.3%を占めた。一方で、アントネッリが逸脱したターン7での記録は合計4件にとどまった。
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マリーナベイ市街地コース(F1シンガポールGP)のコースレイアウト図(2026年版)
過去の類似ケース、問われる一貫性
技術的な問題を抱えていれば常にペナルティが免除されるというわけではない。むしろ今回のケースは、トラックリミットの運用・裁定を巡る一貫性や透明性という点で、議論に発展する可能性もある。
アントネッリは今年7月のイギリスGPで、左フロントのホイールシールド破損に見舞われ、4度のトラックリミット違反を犯してペナルティを受けた。その際、スチュワードは「マシンに問題があったことは認めるが、それはコースを離れる正当な理由には当たらない」と指摘していた。
また、昨年のシンガポールGPでは、ルイス・ハミルトン(フェラーリ)がブレーキのトラブルを抱えた後、トラックリミット違反を重ねて5秒ペナルティを科されている。当時のスチュワードは、ハミルトンが問題を抱えていたことを認めつつも、次のように説明していた。
「さらに調査を行い、ドライビング標準ガイドラインで定められた例外事項と照らし合わせた結果、我々はこれを正当な理由とは認めず、この種の違反に対する通常のペナルティを適用した。この判断について、チーム代表者およびドライバーから異議はなかった」
結果への異議申し立てや控訴といったレース後の裁定を除き、レース中の事案に関するスチュワードの裁定書は、決定の理由を明確かつ詳細に記しているものが少なく、それが一貫性や透明性への懸念に繋がっているという側面があることは否めない。実際、決定の理由を正確に把握するのに苦労することは珍しくない。
もっとも、これはレース運営を巡るリソース面の問題が原因である可能性もある。レースコントロールとスチュワードが、わずか90分ほどのレース中に検討しなければならない項目は無数にあり、それに伴って発行しなければならない文書も時に膨大だ。
ウォルフは冗談「お尻の下に枕を置く」
メルセデスのチーム代表を務めるトト・ウォルフはレース後、アントネッリのコース逸脱について冗談を交えつつ、こう評価した。
「何度かトラックリミットがあったが、それを除けば冷静さを保ってレースをうまく進めたと思う。いい作戦がある。ホテルの枕を彼のお尻の下に置くんだ。そうすれば実際に路面が見えるようになる。たぶん、彼には見えていないんだよ!」
トラックリミットの回数はドライバーの技術不足と結びつけて語られがちだが、レース状況次第では、トラックリミットが3回未満でレースを終えることは、規則を最大限に利用して限界まで攻め切っていないという見方もできる。
いずれにせよアントネッリは、マシンの問題と闘いながらも、限界ギリギリの走りを貫いて表彰台を守り切った。