
リカルド告白、チームの解雇決定に「感謝」の理由。F1引退の裏にあった葛藤
2024年F1第18戦シンガポールGP。マリーナベイ市街地コースでのレースを最後に、F1の表舞台から去ったダニエル・リカルドが、自身のF1キャリア終盤について率直な胸の内を明かした。通算8勝を挙げ、パドック屈指の人気を誇ったリカルドが語ったのは、限界を悟りながらもそれを認められずに過ごした日々の葛藤だった。
かつてレッドブル時代に、後の4度のF1王者マックス・フェルスタッペンと対等に渡り合った男は、現在フォードのアンバサダーを務めている。そのフォードのCEOジム・ファーリーとのインタビューの中で、リカルドは解雇された当時を振り返り、意外な言葉を口にした。それは、苦渋の決断を下したチームに対する「感謝」だった。
魂を削り続けた復帰劇の終焉
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左手骨折手術を終えたダニエル・リカルド(アルファタウリ)、2023年8月27日スペイン
リカルドのキャリア終盤は波乱の連続だった。2022年末、任期満了を待たずにマクラーレンから契約を解除され、一度はシートを失った。だが、2023年シーズン途中にアルファタウリ(現レーシング・ブルズ)から電撃復帰を果たし、再びトップ争いへの返り咲きを目指した。
それでも運命は残酷だった。復帰からわずか3戦目、オランダGPのフリー走行でクラッシュを喫し、左手を骨折する。「あの事故は取るに足らないものだったけど、かなりのレースを欠場し、10週間近くも戦列を離れることになってしまった」と、リカルドは当時を振り返る。
この怪我はリカルドに「引退」の二文字を突きつけた。ここでキャリアに終止符を打つべきとのサインではないかと自問自答したという。ただ、その時はまだ「やり残したことがある」という強い思いが、彼を再び過酷なトレーニングとリハビリへと突き動かした。
そして迎えた2024年、満を持してフル参戦を開始したものの、思い描いていたような結果はついてこなかった。マシンのポテンシャルを引き出しきれず、当時のチームメイトであった角田裕毅の後塵を拝する日々が続いた。
認めざるを得なかった自らの限界
Courtesy Of Red Bull Content Pool
15番手に終わった予選を経て険しい表情を浮かべてピットレーンを歩くダニエル・リカルド(RBフォーミュラ1)、2024年7月6日(土) F1イギリスGP(シルバーストーン・サーキット)
リカルドは、自らがかつて備えていた「何か」が失われつつあるという感覚を抱いていた。F1のグリッドには、40代になってもなおトップレベルで戦い続けるフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン・ホンダ)のような存在がいる。彼らと比較し、リカルドは自らの内面を見つめ直さざるを得なかった。
「アロンソとか、ああいったドライバーたちは40代でもF1で、しかも高いレベルで戦っている。でも僕は、どんな理由かは分からないけど、何かを少し失ってしまった。それを認めるのは構わないし、別にいいんだ」
周囲からの励ましが、かえって残酷に響くこともあった。リカルドを愛する人々は、依然として彼が素晴らしいドライバーであり、まだやれると声をかけ続けた。だが、彼はその愛情に感謝しつつも、周囲の声を遮断して独りで決断を下す必要性を感じていた。
「『君はすごい』『まだできる』と言ってくれる人は必ずいる。でも彼らは、自分がどんな状況に置かれているのか、どういう立場にあるのかを理解したうえで言ってくれているわけじゃない。だから、最終的には自分自身と正直に向き合い、独りで決断を下さなきゃならない」とリカルドは語る。
チームが下した苦渋の決断への感謝
結果的に、当時のRB(現レーシング・ブルズ)が下した解雇という判断は、リカルドにとって救いとなった。チームはシンガポールGP後、リカルドに代えてリアム・ローソンを起用した。マリーナベイ市街地コースでのレースはリカルドにとって、現役ドライバーとしてのラストランとなった。
2年足らずの間に2度もシートを失うという経験は、リカルドの精神を激しく摩耗させていた。「すごく魂を注ぎ込んでいたけど、その結果として精神的にもかなり消耗していたし、本当に疲れ果てていた」とリカルドは吐露する。
もしシーズン終了まで走り続けていたとしても、リカルドは同じような葛藤を抱え続け、さらに精神的に厳しい状況に追い込まれていただろうと認める。
「振り返ってみると、彼らが僕の代わりに決断を下してくれたことに感謝している。自分自身で『もう終わりだ』と告げるのは、難しかったはずだからね」
Courtesy Of Red Bull Content Pool
HUGOとのコラボレーション特別リバリーの発表を見守るRBフォーミュラ1のダニエル・リカルド、角田裕毅、2024年9月19日(木) F1シンガポールGP(マリーナベイ市街地コース)