予選中にピットレーンを走行するマックス・フェルスタッペン(レッドブル)、2025年6月14日(土) F1カナダGP(ジル・ビルヌーブ・サーキット)
Courtesy Of Red Bull Content Pool

2025年開発終了迫るレッドブル、オーストリアで”背水の一手” ― 逆襲を誓う角田裕毅

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2024年のドライバーズ・チャンピオンシップを制した王者レッドブルが、ついに背水の陣を敷いた。チームのアドバイザーを務めるヘルムート・マルコは、オーストリアGPとイギリスGPで今季最後の大型アップグレードを投入すると示唆。その発言からは切迫した状況がにじみ出る。

「オーストリアでアップデートを導入し、シルバーストンでさらに改良する」とマルコはオーストリア紙『Kleine Zeitung』に語った。「だが、これでもうまくいかなければ、ワールドチャンピオンシップは厳しい。いや、そうでなくともすでに十分に厳しい状況だ」

スプリント前にガレージで様子を見守るヘルムート・マルコ(レッドブル・レーシング顧問)、2025年5月3日(土) F1マイアミGPスプリント(マイアミ・インターナショナル・オートドローム)Courtesy Of Red Bull Content Pool

スプリント前にガレージで様子を見守るヘルムート・マルコ(レッドブル・レーシング顧問)、2025年5月3日(土) F1マイアミGPスプリント(マイアミ・インターナショナル・オートドローム)

3度目の正直となるか─マイアミから続く苦闘

レッドブルは今シーズン、マイアミ、イモラ、バルセロナの各週末を通して段階的にフロア、サイドポッド、フロントウイングなどを改良してきた。だが、期待した効果は得られず、首位マクラーレンとの差は縮まるどころか広がる一方だ。

ホームレースとなるオーストリアと続くイギリスでの投入が見込まれる一連のアップグレードをもって、レッドブルは2025年型「RB21」の開発を打ち切る見通しであり、まさに“最後の切り札”となる。

2026年規則変更という時限爆弾

シーズン前半終了を待たずに開発終了の見通しが立てられている背景には、2026年の大幅なレギュレーション変更がある。全チームが限られた開発リソースの配分を巡り、難しい判断を迫られている。

「風洞などの開発資源は限られており、どこかで“今季型の開発を打ち切る”という判断をしなければならない」とマルコは語る。「それには二つ理由がある。新パーツの製造には時間がかかること、そして予算制限の存在だ」

この決断のデッドラインは、7月中旬から後半にかけて行われるイギリスGP、ないしはベルギーGP後になるとマルコは予想している。「その後は、2026年の新車開発に全面的に集中するという判断が下されるはずだ」

レッドブル・レーシングの英国ミルトンキーンズのファクトリーCourtesy Of Red Bull Content Pool

レッドブル・レーシングの英国ミルトンキーンズのファクトリー

「0.3秒」という圧倒的な差─時間との戦い

マルコによればレッドブルは現在、マクラーレンに対して1周あたり約0.3秒の遅れをとっているとされる。今シーズンのF1はフィールド全体が接近しており、0.1秒の差は大差、0.3秒ともなれば圧倒的なハンディキャップといえる状況だ。

この差をもたらしている要因についてマルコは、「原因は遥かに狭い“作動ウィンドウ”にある。それが全体の難しさを加速させている」と危機感を隠さない。

2024年型「RB20」とその後継である「RB21」は、ポテンシャルを発揮できるセットアップの幅が極端に狭いことが知られている。「縁石の上で跳ねるし、ターンイン時にはアンダーステア傾向があり、その後はオーバーステアになる。つまり、リアのバランスが合っていないということだ」とマルコは分析する。

特に深刻なのは、タイヤに関する問題だ。マルコは「タイヤに問題を抱えているのは我々だけではない。マクラーレン以外のすべてのチームが苦戦している」と認めるが、打開策の見通しは立っていない。

マルコの発言からは、技術的な課題以上に「時間」という重圧の重みが伝わってくる。

「0.3秒の差を埋めるのは不可能ではない。だが、それを今すぐ成し遂げなければいけない」

現在ドライバーズ選手権首位のオスカー・ピアストリ(マクラーレン)は、3位フェルスタッペンに対して43ポイントのリードを築いており、立て直しが遅れれば、差はさらに拡大する。

ホームレースに希望を託して

それでも、希望の光は残されている。オーストリアGPの舞台であるレッドブル・リンクは、マックス・フェルスタッペンが過去に5勝を挙げた得意コースだ。

「このコースとの相性は抜群だ」とマルコは語る。「ジェッダや鈴鹿のように、そしてそれほど悪くなかったイモラやモントリオールのように、コースが我々に合えば上手くやれる」

フェルスタッペンは、特製ヘルメットを用意して臨む今週末について、「この勢いを維持したいし、改善に向けた微調整にも懸命に取り組んできた。レッドブル・リンクは、1周は短いけどオーバーテイクのチャンスも多いし、走っていて楽しい。予選で好結果を収めて、レースでしっかり結果を出したい」と気合を見せる。

2位フィニッシュした決勝後にインタビューを受けるマックス・フェルスタッペン(レッドブル)、2025年6月15日(日) F1カナダGP(ジル・ビルヌーブ・サーキット)Courtesy Of Red Bull Content Pool

2位フィニッシュした決勝後にインタビューを受けるマックス・フェルスタッペン(レッドブル)、2025年6月15日(日) F1カナダGP(ジル・ビルヌーブ・サーキット)

また、角田裕毅も「今週はすべてのセッションでクルマのパフォーマンスをしっかり引き出して、安定感を持って取り組んでいきたいです」と力強く語る。

「ここ数戦は難しい週末が続いていますが、もっと上位のグリッド、自分たちがいるべき場所で戦いたいと思っています。特に土曜日が鍵になるので、チームと一緒に予選でしっかり結果を出せるように準備してきました」

「これまで何度も後方からの追い上げを見せてきましたが、今週は最初から前方で戦って、最後の数周でちゃんとバトルできる位置にいることが大事だと思っています」

王者レッドブルの運命は、今後数週間で大きく左右されることになる。最後の賭けは実を結ぶのか。運命のレースウィークがいよいよ幕を開ける。

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