
MCL39の闇―極限設計が奪った“フィール”、金箔と独自装置・専用品に隠されたノリスの喘ぎ
僚友オスカー・ピアストリに対し、特に予選での遅れが目立つランド・ノリスの苦戦。その背景には、マクラーレンの2025年型F1マシン「MCL39」に採用された極端なサスペンション設計の”副作用”が影響している可能性がある。
極端なアンチダイブと“操縦フィールの喪失”
MCL39のフロントサスペンションは、極端なアンチダイブ(制動時の前傾姿勢の抑制)特性を持つ。これには、フロント側の車高をより低く保つことにより、フロアの空力性能を最大化する狙いがあると見られている。
しかしながら、このアプローチには副作用もある。ブレーキングやコーナー進入時におけるステアリングおよびサスペンションからのフィードバックが著しく低下するため、特にブレーキとステアリング操作を同時に行うスタイルが特徴のノリスにとっては、クルマに不安を感じる状況が続いている。
イギリスの衛星テレビ局『Sky Sports』の解説者マーティン・ブランドルは、「非常に巧妙な設計だが、これがノリスの操縦フィールを奪っている可能性がある」と指摘している。
ノリス自身も「昨年のマシンほど自信が持てない」と繰り返し訴えており、これを受けて前戦カナダGPでは、ノリス専用に設計された新たなサスペンションジオメトリが初投入された。
Courtesy Of McLaren
ジル・ビルヌーブ・サーキットを走行するオスカー・ピアストリとランド・ノリスのマクラーレンMCL39、2025年F1カナダGP
新ジオメトリ、ピアストリは不採用
この新スペックは外観上では標準仕様と大きな違いはないが、アッパーウィッシュボーンのリア側の取付角度が変更されているとされる。
これには、アンチダイブ特性を幾らか和らげることで、操縦時のフィードバックを向上させる狙いがある。チーム代表アンドレア・ステラは、この新ジオメトリについて「パフォーマンスの向上ではなく、ドライバーの感触改善が目的」と説明する。
一方でピアストリは、新スペックが用意されていたにもかかわらず、旧型を使い続けることを自ら選択した。その理由について以下のように説明している。
「使おうと思えば使えたけど、使わなかった。良くなる部分もあれば、悪くなる部分もあるから、単純な話じゃないんだ。アップグレードというよりは、違うパーツって感じだね。今のところ、今年のクルマには満足してるし、慣れているものを変えたくなかったんだ」
Courtesy Of McLaren
ガレージ内で走行準備をするランド・ノリス(マクラーレン)、2025年F1カナダGP
熱対策にもにじむ“過激な設計哲学”
極端なアンチダイブ特性を備えるMCL39の設計思想は、冷却対策にも色濃く反映されている。マクラーレンは、気温の高い一部のレースにおいて独自の「予冷装置」を導入している。
この装置は、ドライアイスの化学反応によって発生した冷気を、グリッド上で数分間にわたりマシン内部へ循環させる仕組みだ。加えて、シート裏面やアンダーフロアには、熱反射性の高い金箔が貼り付けられている。
こうした熱対策は、アンチダイブにより極端に低く保たれたフロント車高に起因する弊害、すなわち、前方スキッドブロックが後方よりも激しく摩耗するという問題への対応とみられている。
路面との激しい接触によって発生した熱がコックピット直下に集中しやすく、結果として、他チームのマシンよりもコックピット内の温度が上昇しやすいという構造的課題が指摘されている。