F1チーム代表の知られざる仕事内容、ホーナーが明かす舞台裏とライバル首脳の裏話
F1チーム代表は日々をどのように過ごしているのだろうか? チームプリンシパルの仕事はどのようなものなのだろうか? レッドブル・レーシングのクリスチャン・ホーナーがその一端を真面目に、そしてコミカルに明かした。
2023年シーズンの開幕3連勝を経てレッドブルは「A Week In The Life Of A Formula 1 Team Principal(F1チーム代表の1週間)」と題した動画を公開した。これには第3戦オーストラリアGP前後のホーナーの舞台裏が収められている。かいつまんで紹介しよう。
初日金曜の朝、メルボルンの空港で出待ちしていたファンの子供たちの姿を目にしたホーナーは「これ持っててくれる?」と荷物をスタッフに手渡し、ペンを手に取った。
子供の母親から「フェルナンド・アロンソの服を着ていて本当にすみません」と声をかけられると、問題ないと言わんばかりに笑顔を見せた。また、シルバーアローの服に身を包んだファンから撮影を求められると「着て来るTシャツを間違えたな!」と突っ込みつつも、快くこれに応じた。
完全に他のイベントと独立したフライアウェイ戦であるオーストラリアGPについてホーナーは「シーズンの中で最もタフな週末」であるとした上で、「私は木曜日の午後か夕方に会場に到着することが多くて、(現地入りする)最後の一人になることが多い。だから、もしギリギリのパーツがあれば私が運搬の最後の砦になるんだ」と続けた。
フライトではメルセデスのトト・ウォルフ代表、そしてフェラーリのフレデリック・バスール代表と一緒だった。ホーナーは同乗者の裏話を明かした。
「トトとフレッドと同じ便だったんだけど、彼(バスール)はギックリ腰で殆ど立ち続けていなきゃならなくてね(笑)トトはレーザーだか何かを目に当てていたし、私は食あたりだった!」
会場のアルバート・パーク・サーキットに到着すると、大勢のファンの出迎えを受けた。
「ファンなしにF1は存在しない。我々にとってはファンこそが生命線だ」とホーナーは語る。
「だからファンがドライバーやチーム代表、関係者を一目見ようと何時間も立って待ってくれているのなら、30分くらい時間を割いてサインや握手をしたり、セクシーな男性用水着でさえ受け取り、少しでもお返しをするのがフェアで正しいことだと思うんだ」
遡ること2日前。チーム代表就任以前の若き頃、レーシングドライバーとして活躍していたホーナーは英国ミルトンキーンズのファクトリーにいた。
「私のバックグラウンドにあるのは単にクルマをドライブする事だけじゃないんだ」とホーナーは自らの経歴を振り返る。
「経営や資金調達、VAT(付加価値税)申告やホテルの予約、給与計算、人材採用など、いろんな事を経験してきた」
「幸運にもF2に参戦していた当時、私は実体験を通して、こういった素晴らしい学びを得る事ができた」
「とは言え何事も時間とともに進化していくもので、現在の事業規模は私が2005年の初めに(レッドブルのチーム代表を)始めた時の4倍近くになっていると思う」
ホーナーは単にチーム代表というだけでなく、レッドブル・レーシング社の最高経営責任者(CEO)でもある。
会議室でスタッフから「順調だ。まずは前年同期との比較だが、売上高は24%増えており、グッズ販売が占める割合が大きい」との第1四半期の営業報告を受けたホーナーは「どこのマーケットが好調なんだ?」と返した。
「予想通りイギリスやメキシコが良い。ベネルクス3国(ベルギー、オランダ、ルクセンブルク)もそうだが、アメリカもかなり好調だ」
ホーナーから「競合と比較してどうなんだ」と突っ込まれるとスタッフは「有利なポジションにいる。コース上だけでなくコース外でも我々は強い」と返した。
会場入りしたホーナーはドライバー達と同じように慌ただしい週末を過ごす。
「グランプリの週末はミーティングやブリーフィング、戦略会議、スポンサーやメディア対応など、スケジュールが目一杯詰まっているんだ」とホーナーは説明する。
「ありがたい事にパルクフェルメのお陰で土曜の夜はスポンサーとの約束がない限り一息つけるが、当然のことながらレース当日はグランプリの前のブリーフィングや戦略会議など、あらゆる準備をこなさなければならない」
オーストラリアGPではマックス・フェルスタッペンがポール・トゥ・ウインで通算37勝目を飾り、レッドブルは開幕3連勝を果たした。帰国したホーナーはファクトリーの従業員を前に、レース後のデブリーフィングに臨んだ。
「近年のオーストラリアは我々にとって決して良いものではなかったが、今年は素晴らしい週末を過ごすことができた」
「フリー走行ではソフトタイヤとミディアムの両方でかなりの競争力を発揮したが、グレイニングが酷かったのでレースを念頭に置いたセットアップに集中することにした」
「タイヤを適切なウインドウに入れるのが少し難しかったが、ポールポジションを獲得できて良かった」
「チェコは予選に向けて電動コンポーネントを交換した。結果、ピットレーンからのスタートとなったが、残りのシーズンに向けて1基を余分に確保できた」
フェルスタッペンがポールを獲得した一方、ペレスは最終プラクティス中に幾度となくロックアップを強いられた魔のターン3で再びタイヤスモークを上げ、ノータイム最下位でセッションを終えた。
そこでチームは今年3基目のES(バッテリー)及びCE(コントロール・エレクトロニクス)を投入し、ペナルティを消化することにした。
「レースのスタートはいつもガレージで迎えることにしているんだ」とホーナー。
「以前はガレージにいなきゃならないというルールがあったのだが、数年前に変更されてね。でもそれで95戦も勝ち取ったんだから、今さらその習慣を変える必要はないだろう」
「ある種の迷信めいたアプローチだが、グランプリに向けて精神的に良い状態を保つという点で役立っていると思う」
アルバート・パーク・サーキットでの58周は3度の赤旗が振られ、8台がリタイヤするという近年では類を見ない大混乱のレースとなった。
フェルスタッペンは1周目にメルセデスの2台に先行を許して一時、3番手に後退したが、それでもトップチェッカーを受けるには十分で、ペレスもピットレーンから5位にまで巻き返した。
ホーナーは「みんな、本当によくやってくれた」とメンバーの労をねぎらう。
「これでシーズン3勝目を挙げ、コンストラクターズとドライバーズの両選手権でのリードを広げることができた。すこし時間がかかってしまったが、オーストラリアでの2011年以来の勝利を飾る事ができた」
「我々は兎に角、今やっていることを続け、集中して全力を尽くし、僅かなゲインを追求していくほかにない。ライバルはこの先のレースでのパフォーマンスアップを狙っている」
「ロブ・マーシャル(チーフエンジニアリングオフィサー)はトロフィーを受け取った後、ボトルの中身をほとんど飲み干し、ドライバーにかけようとしなかったがね!」
チーム代表に求められる資質は様々だが、ホーナーはF1への飽くなき情熱が必要だと考えているようだ。
「自分のやっていることが好きでなければならない。私は自分がやっていることを愛している。レースが大好きだ。F1に情熱を注いでいる。オーストラリアへの訪問は今年で19回目だが、初めて訪れた時と変わらず楽しかった」
動画は以下。