角田裕毅への「レッドブル流クソプレー」発言の裏にあった、”実直”なノリス担当エンジニアの苦悩と重圧

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2025年F1最終戦アブダビGP。ランド・ノリスにとって悲願のタイトルが懸かった大一番に臨むマクラーレンのガレージには、張り詰めた緊張感と、ライバルを罵る言葉が飛び交っていた。

渦中の人物は、ノリスの担当レースエンジニアを務めるウィル・ジョセフだ。彼は無線越しに、コース上でノリスを抑え込む角田裕毅(レッドブル)に対し、こう吐き捨てた。

「レッドブルがよくやる典型的でクソみたいなやり口(shithousery = 英国サッカー界でよく使われるスラングで、卑劣なプレーや戦術を指す)だ」

冷静であるべきエンジニアのこの感情的な発言は、レッドブルという存在がマクラーレンにとってどういうチームであるのかを示すと同時に、タイトル争いという極限状況が生み出すプレッシャーの大きさを改めて感じさせた。

チームのための「徹底抗戦」が生んだ5秒ペナ

事態が動いたのはレースの23周目。ピットストップを終えたノリスは、ステイアウトを選択してコース上に留まっていた角田の背後に迫った。

この時、角田にはピットウォールから明確な指令が飛んでいた。僚友マックス・フェルスタッペンの逆転タイトル獲得を援護するため、徹底抗戦せよというものだ。角田はその役割を忠実にこなそうとした。

ターン6に向かうバックストレート。角田はノリスに対してスリップストリームを与えぬよう、複数回にわたって走行ラインを変更し、ノリスはコース外へ逃れながら強引にオーバーテイクを敢行した。

審議が告げられた段階では、コース外走行による不当利得の観点からノリスにペナルティが科される可能性もあった。

だがスチュワードは、角田が「複数回にわたり進路変更を行った」とし、それによってノリスはコース外に逃れざるを得なかったと判断。角田に1点のペナルティポイントと5秒ペナルティを科した。

マクラーレンのザク・ブラウンCEOは一件の直後、チームプレイをするにも「限度がある」としつつ、チームがマシンをドライブしているわけではない以上、「あれはユーキ本人に責任がある。私の見解では一線を越えていた。危険な動きだった」と非難した。

一方、冷静さを取り戻したレース後には、「(角田は)”少し”やり過ぎた」と語り、トーンを和らげた。それでも、あの瞬間はコース上だけでなく、ピットウォールも戦場そのものだった。

王座争いの重圧―ジョセフの苦悩と”訂正”

表彰台で優勝を祝うランド・ノリス(マクラーレン)とレースエンジニアのウィル・ジョセフ、2024年8月25日(日) F1オランダGP決勝(ザントフォールト・サーキット)Courtesy Of McLaren

表彰台で優勝を祝うランド・ノリス(マクラーレン)とレースエンジニアのウィル・ジョセフ、2024年8月25日(日) F1オランダGP決勝(ザントフォールト・サーキット)

アドレナリンが溢れ、冷静さを失いがちなレース中のドライバーの精神状態を管理することがレースエンジニアの重要な仕事の一つとするならば、ジョセフの感情的な発言は、本来の役割に逆行するものにも見える。

実際、彼はレース後、ドライバーのメンタルコントロールが自身の弱点であると正直に認めた。僅差のタイトル争いにおいて何が最も過酷だったかと問われた際、ジョセフは技術的な課題ではなく、自身の専門外である「メンタル」の難しさを挙げた。

「私は数学が得意で、工学を学んできたし、マシンのセットアップもできる。技術的な部分は“朝飯前”なんだ」

ジョセフはそう前置きした上で、苦悩を吐露した。

「でも、心理的な部分はエンジニアが得意とする分野ではない。だから、ドライバーのメンタルを保つことがレースエンジニアにとって最も難しい部分だと思う。私自身、そこが一番難しかった」

あの感情的な発言は、彼自身が抱えていた重圧の裏返しだったのかもしれない。前夜は戦略策定のために「ほとんど眠れなかった」という。それでも、ジョセフとノリスの間に築かれた揺るぎない信頼は、F1史上35人目となるワールドチャンピオンの誕生をもたらした。

「ただ、そこ(メンタル管理)については二人でしっかり取り組んできた。密接な関係を築いてきたし、お互いの信頼もすごく強い。言葉にしなくても伝わる部分も多い。それが上手くいっているのだと思う」

ジョセフはまた、ピットウォールに座っていた自分たちよりもノリスの方が「落ち着いていたように思う」とも振り返った。そして、タイトル獲得への貢献を称えられると、すぐさま「訂正」を求めた。

「いや、それは違う。私一人がすべての功績を受け取るなんてフェアじゃない。パフォーマンスエンジニアだっているし、マクラーレン外部にも彼と仕事をしている人達は大勢いる。これは皆で成し遂げたことなんだ」

新たな王者となったノリスを支えたのは、完璧なスーパーマンではなく、葛藤を抱えながらも共に戦った人間味ある一人のエンジニアだった。

レースエンジニアのウィル・ジョセフらチームメンバーに背負われる、ワールドチャンピオンに輝いたランド・ノリス(マクラーレン)、2025年12月7日F1アブダビGP決勝レース(ヤス・マリーナ・サーキット)Courtesy Of McLaren

レースエンジニアのウィル・ジョセフらチームメンバーに背負われる、ワールドチャンピオンに輝いたランド・ノリス(マクラーレン)、2025年12月7日F1アブダビGP決勝レース(ヤス・マリーナ・サーキット)

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