波紋呼ぶピットストップ改定…安全性向上? いやいや我々の競争力低下を狙う策略だ、とレッドブル・ホンダ

金曜FIA会見に出席したレッドブル・ホンダのクリスチャン・ホーナー代表、2021年6月25日F1シュタイアーマルクGPCourtesy Of Red Bull Content Pool

F1ハンガリーGPより施行される事となったピットストップに関する新たな規制についてレッドブル・ホンダは、安全性向上というのはお題目に過ぎず、単にこの分野を牽引する自分達を貶めるための陰謀に過ぎないと考えている。

国際自動車連盟(FIA)はレッドブル・リンクでの2連戦を前に、ピットストップの手順に関する新たな技術指令書「TD22A」を発行した。これはジャッキ操作の前後の作業に”最小時間”を設定するもので、ピットストップタイムはコンマ数秒近く遅くなるものと見られている。

レッドブルはピットストップの世界最速記録を保持するベンチマークであり、今シーズンも5回のグランプリで最速を記録。DHL主催の2021年ピットストップアワードで2位ウィリアムズ(98点)にダブルスコア(198点)を付けて断トツの首位を維持し続けている。

第8戦シュタイアーマルクGPの金曜会見の中でレッドブル・ホンダのクリスチャン・ホーナー代表は、今回発行された技術指令書は「あまりに冗長」で、指示書というよりも「レギュレーション変更かと疑ってしまう」レベルだと指摘した。

また「我々はピットストップのワールドレコードを持っているだけでなく、最速ピットストップ記録の過半数を得てきたチーム」であるとして、ライバルチームが自分達を貶めようとしている事は間違いないとの認識を示した。

クリスチャン・ホーナーは更に、ホイールが適切に固定されていない場合の現行ルールは既に十分過ぎる程のペナルティを設けていると指摘。FIAがピットストップに介入してくる道理はなく、ルール変更は至らない自分達を棚に上げたライバルチームの策略だと訴えた。

「少し失望したよ…クルマの安全を保証するのは競技者としての義務で、ホイールがきちんと取り付けられていない場合はすぐにクルマを停めなければならないという罰則が既に存在している」とクリスチャン・ホーナーは語る。

「つまり、4輪全てが安全に固定されていない場合、残酷な罰を受けなければならない事になっているわけだ。あの複雑な技術指令が何を目指しているのか私にはサッパリ分からない」

「だがその一方で、競争状態にあって相手を打ち負かせない場合に採るべき最も論理的な方法はライバルを遅くしようとする事であり、まさに今ここで起きているのは明らかにそういう事なのだ」

Courtesy Of Red Bull Content Pool

レッドブル・ホンダのクリスチャン・ホーナー代表とメルセデスのトト・ウォルフ代表、2021年6月25日F1シュタイアーマルクGP金曜FIA会見にて

ピットストップ作業に関する合法性をメルセデスが疑っているとヘルムート・マルコが明かしていた事もあり、一連の動きはチャンピオンシップとピットストップの両面でレッドブル・ホンダの後塵を拝しているシルバーアローが一枚噛んでいるものと考えられている。

実際メルセデスのトト・ウォルフ代表は「現在使用中のあるシステムの安全機構について、最適化できないかどうかをFIAに問い合わせた。3〜4週間前の事だったと思う」と述べ、一連の動きのトリガーを引いた可能性を否定しなかった。

技術開発が主戦場のF1においてはライバルチームが使うテクノロジーやデバイスを違法なものとするために、敢えてそれと同じようなシステムをFIAに対して提示して議論の俎上に上げるという手法が定番化している。

今回の件がフレキシブルウイングに続くチャンピオンシップ周りの新たな場外乱闘である事は明らかだが、クリスチャン・ホーナーは今回の規制変更がピットストップの安全性を低下させる事になりはしないかと懸念している。

ミルトンキーンズの指揮官は、規制変更によってジャッキが降りてからドライバーにゴーサインを出すまでに最低0.2秒のマージンを設けなくてはならない点に触れ、リリースマンはコンマ1秒を争う場面で自ら難しい判断を迫られる事になるとして「(新たな規制は)よく考えられたものではなく、危険だと言いたくもなる」と訴えた。

「F1という世界はイノベーションと競争で成り立っている。2秒以下でピットストップをこなすというのは驚くべき偉業で、本来であれば奨励すべき事なのだ。コントロールしようとすべき対象じゃない」

F1シュタイアーマルクGP特集

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