
2026年F1予選は常識崩壊へ。「36秒制約」が生む前例なきアプローチと、避けられない”ジレンマ”
2026年のレギュレーション刷新により、新型パワーユニットが導入され、マシンが小型・軽量化されたことは広く知られている。だが、その裏で予選の概念そのものも大きく揺らいでいる。鍵を握るのはタイヤとバッテリーの扱い、その微妙なバランスだ。
もっとも、エネルギーマネジメントが決勝でキーファクターになるとことは想定されていた。だが、プレシーズンテストを通じて明らかになったのは、予選でも同じように緻密なマネジメントが求められるという現実だ。
エネルギー容量は全く潤沢ではなく、「予選だけは気にせず全開」というわけにはいかない。
”36秒制約”が生む新たなアプローチ
Courtesy Of Alpine Racing
バーレーン・インターナショナル・サーキットを走行するアルピーヌの2026年型F1マシン「A526」、2026年F1バーレーンテスト
これまで、予選ラップの鉄則は明快だった。プッシュラップに向けて最終コーナーをできるだけ速く立ち上がり、コントロールラインに向けて可能な限り早くアクセルペダルを踏み込む。
だが2026年は事情が異なる。
コントロールラインへの到達以前、つまり前のラップで電力を消費すれば、その分だけプッシュラップ中に使える出力が減る。実際、バーレーンテストでは、最終コーナーを全開で立ち上がらず、所定の地点までスロットルを抑え、そこから一気に踏み込む走りが見られた。
バッテリーからの最大放出量4MJと、1周あたりの最大回生量8.5MJを合算すると、理論上は1周あたり最大12.5MJを使用できる。時間換算では約36秒間フル電動出力を維持できる計算だ。
ただし、この数値をフライングラップで最大限に発揮するためには、前のラップ中に十分なエネルギー回生を行い、コントロールラインを通過する時点でバッテリー残量を規定の上限値(4MJ)までチャージしておく必要がある。
つまり、アウトラップ中に電力を消費し、満充電に達しないままフライングラップへ入れば、その分だけ使用可能な電力が減ってしまう。
電力確保のための新たな走法
電力の確保が課題として浮上する中、新たに「スーパークリッピング」なる走法も登場した。全開走行中に回生を行い、エネルギーを蓄える走り方だ。実質的にこれは、エンジンと燃料を使って電力を稼ぐことを意味する。
さらに、リフト・アンド・コースト(アクセルを戻して惰性で走行し、その間に回生する手法)が多用される見通しで、予選であってもコーナーはおろか、ストレート区間でさえアクセルを緩める場面が想定される。ルイス・ハミルトン(フェラーリ)はこう語る。
「例えばバルセロナでは、予選ラップで600メートルもリフト・アンド・コーストをすることになる」
シーズン序盤には早くも、アルバート・パークやジェッダのように回生の機会が限られるレイアウトのサーキットが控えている。ポールポジション争いの決定打は、効率的なエネルギーの回生および、そのデプロイメントになる可能性がある。
4周構成が予選の新基準?
Courtesy Of Red Bull Content Pool
カタロニア・サーキットのピットレーンを走行するリアム・ローソン(レーシング・ブルズVCARB 03)、2026年1月26日(月) F1バルセロナ・シェイクダウン
従来の予選では、アウトラップ、フライングラップ、クールダウンラップという3周構成が基本的なランプランだった。だが、その常識は揺らぎつつある。
ピレリのモータースポーツ部門を率いるマリオ・イゾラは、プレシーズンテストの段階で既にドライバーのアプローチが変化し始めていたと明かす。
「いくつかのチームは、アウトラップに加えて1周のプレップラップ(準備周回)を行っていた。その後にプッシュラップへ入る形だ」
つまり、アウトラップ、プレップラップ、フライングラップ(計測周回)、クールダウンラップという4周構成だ。なぜ1周増えるのか。
バッテリーかタイヤか、最終セクターの葛藤
背景にあるのは、タイヤを最適な状態に仕上げる事と、電力をジャージ・温存する事という相反する要求だ。イゾラはこう説明する。
「プッシュラップに向けてタイヤを最適な状態にするには、アウトラップを一定以上のペースで走る必要がある。とくにグリップの低い路面や滑らかなアスファルト、低温コンディションでは前輪に熱を入れるため、より強くプッシュしなければならない」
だがアウトラップでペースを上げれば、その分バッテリーを消費し、フライングラップで使える電力が減る。
一方で、バッテリーを満充電にするため、プッシュラップに向けて最終セクターで意図的に速度を落とせば、タイヤの温度が低下する可能性がある。タイヤが作動温度域を外れれば、稼いだ電力よるコンマ数秒のアドバンテージは簡単に失われる。
こうしたジレンマを解消するために、1周目にタイヤを整え、2周目に回生を優先する、あるいは2周を通じて両者をバランスさせるといった二段階方式の試行錯誤が続いている。
Courtesy Of Audi
バーレーン・インターナショナル・サーキットでアウディ「R26」をドライブするニコ・ヒュルケンベルグ、2026年2月11日(水)F1プレシーズンテスト初日
さらに、リフト・アンド・コーストの多用と4周構成のランプランにより、トラフィックのリスクも高まる。
走行妨害と判断される危険が増すだけでなく、理想的な準備ラップをこなせず、結果としてプッシュラップに悪影響が及ぶ可能性もある。レースディレクターが定めるデルタタイム(ラップタイム制限)に抵触するリスクも無視できない。
バッテリーを優先すればタイヤが冷え、タイヤを優先すれば電力が不足する。このジレンマが、2026年の予選をより複雑なものにする。
キャデラックの新規参戦による変化
Courtesy Of Pirelli & C. S.p.A.
バーレーン・インターナショナル・サーキットを走行するセルジオ・ペレス(キャデラック)、2026年2月13日(金) F1プレシーズンテスト3日目
変化をもたらすのは、刷新された技術レギュレーションだけではない。キャデラックの新規参戦により、スプリント予選および通常予選のフォーマットも変化する。
今季からは、Q1/SQ1およびQ2/SQ2で脱落するのが5台ではなく6台となる。その分だけ、大番狂わせが起きる可能性も高まる。
さらに22台体制となるため、Q3/SQ3を除いてクリーンラップの確保は一段と難しくなり、トラフィックのリスクもこれまで以上に高まる。加えてQ1/SQ1およびQ2/SQ2のセッション時間は従来から延長されていないため、状況はなおさら厳しい。一方でQ3は、1分延長の13分に変更される。
| セッション名 | 出走台数 | 脱落数 | 時間 |
|---|---|---|---|
| 通常予選 | |||
| Q1 | 22台 | 6台 | 18分 |
| Q2 | 16台 | 6台 | 15分 |
| Q3 | 10台 | – | 13分 |
| スプリント予選 | |||
| SQ1 | 22台 | 6台 | 12分 |
| SQ2 | 16台 | 6台 | 10分 |
| SQ3 | 10台 | – | 8分 |
2026年予選は頭脳戦へ
2026年の予選は、実に複雑だ。タイヤを仕上げるためにアウトラップで攻めるべきか。それとも電力温存を優先すべきか。最終コーナーから全開にするのか、それともあえて我慢するのか。どこで、どれだけリフト・アンド・コーストを入れるのか。その一つ一つがコンマ数秒を左右する。
「予選は全開で走るもの」という常識は、2025年シーズンを以て消滅した。実際に蓋を開けるまで結論は出ない。だが新たな時代の予選が、濃密な頭脳戦の様相を帯びていることは間違いない。