
「大きなショックだった」 ホンダF1新章の内幕、折原GMが語る半年間と反撃への“かなりの自信”の背景
技術規則の刷新に伴い、2026年のF1シーズンは新時代に突入した。ホンダは「アストンマーティン・ホンダ」としてチャンピオンシップ制覇に向けた新たな一歩を踏み出したが、その船出は期待とは大きく異なり、非常に過酷なものとなった。
ホンダ・レーシング(HRC)の折原伸太郎トラックサイド・ゼネラルマネージャー兼チーフエンジニアが、オランダの専門メディア『RacingNews365』とイギリスの専門誌『Autosport』の個別のインタビューに応じ、この半年の舞台裏を詳細に語った。
折原TGMが繰り返し口にした言葉は「大きなショック」だった。
バルセロナで突き付けられた過酷な“現実”
Courtesy Of Honda Motor Co., Ltd
チームスタッフと話すホンダ・レーシング(HRC)の折原伸太郎トラックサイド・ゼネラルマネージャー兼チーフエンジニア、2026年2月13日(金) F1バーレーンテスト3日目(バーレーン・インターナショナル・サーキット)
マックス・フェルスタッペンの4連覇に象徴されるように、ホンダはレッドブルと築いた支配的な数シーズンの実績を携え、この新たなパートナーシップに臨んだ。それだけに、信頼性と競争力を欠く現実は受け入れがたいものだった。
「大きなショックだったと言えます。というのも、我々は競争力を発揮できると期待していたからであり、それこそがF1に復帰した理由だったからです」と折原TGMは語る。
「なので、自分たちのパフォーマンスが十分でないと悟った時は、大きなショックでした。ある程度は予想していたとはいえ、現実として認識した際の衝撃は大きかったです」
折原TGMによれば、2025年末の段階で、開発状況に対するホンダ側の手応えはそれほど悪くなかった。パフォーマンスとドライバビリティに関しては、まだ開発途上にあったものの、問題はなさそうに見えたという。
ところが、その後状況は「徐々に悪化」していった。
「1月になると、いくつかの領域で、問題と呼ぶべきものではないにせよ、性能が上がったり下がったりする状態を繰り返していることに気づきました。性能を引き出せたと思うと、今度は信頼性の問題が見つかる、という状況でした」
信頼性の確保は常に最優先事項だ。そのためホンダは、パフォーマンスよりも信頼性を優先せざるを得ず、開発プロセスに遅れが生じた。
Courtesy Of Aston Martin Lagonda Limited
ガレージで作業に取り組むアストンマーティン・ホンダのメカニック、2026年2月12日F1プレシーズンテスト2日目(バーレーン・インターナショナル・サーキット)
アストンマーティン・ホンダを巡る状況の深刻さが明らかになったのは、1月末のバルセロナ・シェイクダウンだった。
競合チームから4日遅れてコースインしたものの、その初日は技術的なトラブルにより、わずか5周の走行にとどまった。折原TGMは、そこで他メーカーより明確に劣る現実を突きつけられたと明かした。
「1月には、性能と信頼性の両面で、競争力を持てる状態にはないと認識しました。バルセロナで走行を始めると、他のメーカーと比べて自分たちの性能が明らかに劣っていることが分かりました。さらに、バッテリー側にもいくつかの問題が見つかりました」
「昨年末の時点でも十分な競争力がないことは分かっていましたが、これほど悪いとは予想していませんでした」
このバッテリー関連の問題は、状況をさらに悪化させた。プレシーズン・テストで貴重な走行時間を失い、遅れを取り戻すためのデータ収集を必要としていたホンダとアストンマーティンにとって、特に大きな痛手となった。
規則刷新に伴う複合的難題、失われた知見の再構築
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19番手に終わった予選を経てインタビューに応じるフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン・ホンダ)、2026年3月13日(金) F1中国GP(上海インターナショナル・サーキット)
シーズン前半の11戦で、アストンマーティン・ホンダは2台合わせて実質11回のリタイヤを記録し、決勝の平均順位は16位という悪夢のような時期を過ごした。なぜ、これほどの苦戦に陥ったのか。
その理由について折原TGMは、単一のコンポーネントや設計上の判断に原因を求めるのは難しいと指摘する。2026年の技術規則では、パワーユニット(PU)の複数の領域が同時に変更されており、その各々が相互に影響を与えているためだ。
「今回の規則では、あらゆるものが大きく変わっているため、パワーユニットのどのコンポーネントが最も難しかったかを挙げるのは困難です。たとえばMGU-Kの出力は、120kWから350kWへと変わりました。これは大きな変化です」
MGU-Kは運動エネルギーを回生・放出するモーターで、その出力は従来の約3倍に引き上げられた。さらに、内燃エンジン(ICE)側でも燃料流量が変更された。2026年F1第12戦オランダGPで投入される待望のアップグレードは、ICEの出力不足を補う最初の一歩と位置づけられている。
「ホンダにとっての障害は、まさに同時に数多くの変更が重なった点にあります」
Courtesy Of Aston Martin Lagonda Limited
スケッチブックを手にガレージ内でアストンマーティン・ホンダ「AMR26」を見つめるチーム代表兼マネージング・テクニカル・パートナーを務めるエイドリアン・ニューウェイ、2026年2月12日F1プレシーズンテスト2日目(バーレーン・インターナショナル・サーキット)
苦戦の背景には、技術面以外の要因もあった。エイドリアン・ニューウェイは開幕戦の舞台となったオーストラリアで、2021年にレッドブルとともに頂点に登り詰めた当時のホンダの開発メンバーは、「30%程度しか残っていないのではないか」との見方を示していた。
経験豊富なF1エンジニアの異動に伴い、蓄積された知見も少なからず失われた。ホンダは、体制の強化でこれに対応した。
「今年、我々は過去のF1プロジェクトで働いた経験を持つ専門家を何人か呼び戻しました」と折原TGMは説明する。
「また、このプロジェクトでF1キャリアを始めた若手エンジニアたちも、冬季テストと今季前半戦を通して多くの経験を積んできました。したがって、パフォーマンスと信頼性を取り戻していくうえで、現在の体制は良い状態にあると考えています」
操縦性問題の裏にあったMGU-Hの廃止
アロンソとストロールはシーズン序盤、ドライバビリティへの不満を繰り返し表明していた。折原TGMによれば、その主因はMGU-Hの廃止にあった。MGU-Hは、排気ガスを利用してエネルギーを回生する装置で、ターボの応答性を補う役割も担っていた。
「MGU-Hの廃止も、パワーユニット側にとって非常に大きな課題でした。おそらく、そこはパワーユニット・メーカーにとって最も技術的に興味深い部分でもあります」
「私は以前からドライバビリティについて繰り返し話してきました。その問題のすべてではありませんが、大部分はMGU-Hが廃止されたことに起因しています」
MGU-Hが失われたことで、PUメーカーはターボの過給圧を適正値に制御することが難しくなった。これにより、アクセル操作に対するトルク応答が不規則となり、ドライバーたちのフラストレーションを招いた。
課題克服で生まれた反撃への「かなりの自信」
一方で、ようやく改善の兆しも見え始めた。サマーブレイク直前の第11戦ハンガリーGPでは、今季初の大規模なアップグレードにより車体の空力性能が改善され、軽量化と相まって、最下位争いから一転して中団争いに復帰した。
次はホンダの番だ。ザントフォールトで投入される新たなPUは、追加開発・アップグレード機会制度(ADUO)を活用した今季最初にして唯一のアップグレードとなる。折原TGMは、これまでに成し遂げた前進が今後への自信を支えていると語った。
「冬季テストから現在に至るまで、自分たちが成し遂げてきたこと、そしてファクトリーのメンバーが成し遂げてきたことを誇りに思っています」
「我々は振動に関する問題を解決し、耐久性とエネルギー・マネジメントの両面で大きく前進しました。今年ここまでに達成してきたことを踏まえ、私は今後成し遂げられることにかなり自信を持っています」
Courtesy Of Honda Motor Co., Ltd
取材に応じる折原慎太郎(ホンダ・レーシング トラックサイドゼネラルマネージャー兼チーフエンジニア)、2026年7月2日(木) F1イギリスGPメディアデー(シルバーストン・サーキット)