「非常に深刻」――ホンダ経営陣はいまアストンマーティンF1をどう見ているのか、HRC社長が明かす現状認識

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アストンマーティン・ホンダが2026年シーズンの開幕から苦戦を続け、7戦終了時点で11チーム中10位に沈む中、ホンダの経営陣はこのプロジェクトをどう受け止めているのか。

ホンダ・レーシング(HRC)の渡辺康治社長はF1公式サイトの独占インタビューに応じ、ホンダ経営陣が「現状を非常に深刻に受け止めている」と認める一方、長期的なコミットメントに揺るぎはないと強調。本社の支援を受けながら、目標に掲げるタイトル争いへの復帰に向けて一歩ずつ前進していく考えを示した。

2021年末のF1撤退から復帰決定までの約18カ月間の空白期間により、ホンダは開発のスタートで既に出遅れていた。一方で、苦戦の要因はパワーユニット(PU)単体にとどまらず、アラムコ(燃料)やバルボリン(潤滑油)といった新たなパートナーとの協業、そしてアストンマーティン側にも及ぶ。

2026年シーズンの開幕戦まで1年を切ったタイミングでのエイドリアン・ニューウェイの合流、2004年以来初となる自社製ギアボックス、知見の乏しい新たな風洞、急増する人材の管理など、広範かつ複合的な要因が挙げられる。

深刻な現状認識と中長期的視点での評価

取材に応じる渡辺康治(ホンダ・レーシング代表取締役社長)、2026年6月12日(金) F1スペインGP(カタロニア・サーキット)Courtesy Of Honda Motor Co., Ltd

取材に応じる渡辺康治(ホンダ・レーシング代表取締役社長)、2026年6月12日(金) F1スペインGP(カタロニア・サーキット)

渡辺社長は、ホンダ経営陣の現状認識をこう明かす。

「ホンダの経営陣は現状を非常に深刻に受け止めており、現在の結果に満足していません。改善が必要であるという共通認識を持っています」

レッドブルと共に頂点に駆け上がった時代とは異なり、今はコストキャップがPUメーカーの迅速な巻き返しを阻む。パフォーマンスの追求ではなく問題の解消にリソースを充てざるを得なかったがゆえに、短期的に見ればホンダの現状は当然に厳しいが、それでも経営陣の視線は、結果そのものよりも過程に向けられている。

「ただ同時に、このプロジェクトは今年だけでなく中長期的に評価すべきであるという明確な理解もあります」と渡辺社長は語る。

「経営陣は、我々が直面する課題を解決していく過程に焦点を当て、力強い支援と期待を寄せ続けてくれています」

ホンダはシーズン序盤の大半をトラブルへの対処に費やしてきたが、振動を含む幾つかの信頼性に関する問題を着実に抑え込み、ようやくパフォーマンス追求に乗り出せるところにまでたどり着いた。

一夜の奇跡は望まず…夏のPU改良で反攻へ

コース上に差し込む光と影の間を駆け抜けるフェルナンド・アロンソのアストンマーティン・ホンダAMR26、2026年6月12日(金) F1バルセロナ・カタロニアGPフリー走行(カタロニア・サーキット)Courtesy Of Aston Martin Lagonda Limited

コース上に差し込む光と影の間を駆け抜けるフェルナンド・アロンソのアストンマーティン・ホンダAMR26、2026年6月12日(金) F1バルセロナ・カタロニアGPフリー走行(カタロニア・サーキット)

その第一歩が、追加開発・アップグレード機会制度(ADUO)を活用したPUのアップグレードだ。現時点でFIAから正式な発表はないものの、ホンダは今季に2回、来季に2回のアップグレードが許可される見通しとなっている。

ホンダは、指標エンジンと判断されたレッドブル・フォードの内燃機関(ICE)に対して6〜8%程度遅れているとされ、現在は燃焼効率の改善とフリクションの低減に取り組んでいる。今夏には最初のアップグレードを投入する計画だ。

渡辺社長は、アップグレードによる前進を期待しつつも、それが奇跡をもたらすわけではないと現実的な見方を示した。

「一夜にして状況が劇的に変わることはありません。ですから我々のアプローチは変わらず、長期的な視点で取り組み続けます」

ホンダは単にICE性能でのみ遅れを取っているわけではなく、エネルギー回生システム(ERS)側でもライバルに対して劣っているとみられている。

アストン側からの求めに応じた特徴的な2段構成のバッテリーなど、一部でERS側の足かせになっているとの指摘もある要素がAMR26には設計レベルで組み込まれている。その指摘が正しいかどうかはさておき、この手の部分はシーズン中に変更できるものではない。

こうした背景もあり、今季中に投入できるアップグレードだけで競争力を大幅に改善するのは容易ではないとの見方も多い。

一方でアストン側も、サマーブレイク前後の投入が見込まれている今季初の大規模空力アップグレードに時間とリソースを集中させており、両者の強化策が重なる今夏が、巻き返しに向けた最初の節目になる見通しだ。

ストロールとの忌憚のない対話が支える結束

鈴鹿サーキットのグリッド上で撮影に応じるローレンス・ストロール(アストンマーティンF1チームオーナー)と渡辺康治(ホンダ・レーシング代表取締役社長)、2026年3月29日(日) F1日本GP決勝Courtesy Of Honda Motor Co., Ltd

鈴鹿サーキットのグリッド上で撮影に応じるローレンス・ストロール(アストンマーティンF1チームオーナー)と渡辺康治(ホンダ・レーシング代表取締役社長)、2026年3月29日(日) F1日本GP決勝

ホンダ経営陣の姿勢を支えるのは、パートナーであるアストンマーティンとの関係だ。

「アストンマーティンとのパートナーシップはまだ始まったばかりであり、強固な関係を築くには時間がかかると思います」と渡辺社長は語る。

「我々はアストンマーティンと、強固で建設的なパートナーシップを築く途上にあります。ローレンス・ストロールとは頻繁に連絡を取り合っていて、その忌憚のないやり取りが我々の関係をより強くしています。彼はホンダの能力を強く信じてくれています」

渡辺社長は、互いに現状には満足していないと認めつつ、その不満は両陣営間の対立ではなく建設的な議論に繋がっていると強調する。

「もちろん彼も私も現状には満足していませんが、PU性能、車体性能、チーム運営、その他あらゆる面で、目指す位置に戻るためにどうすれば現状を立て直せるかを頻繁に話し合っています」

F1はホンダのDNA…揺るぎない誓い

ホンダ・レーシングのブース前で親指を立てるファン、2026年3月28日(土) F1日本GP(鈴鹿サーキット)Courtesy Of Honda Motor Co., Ltd

ホンダ・レーシングのブース前で親指を立てるファン、2026年3月28日(土) F1日本GP(鈴鹿サーキット)

渡辺社長は、ホンダ経営陣のコミットメントについても踏み込み、F1への挑戦はホンダのDNAそのものであり、一時的な成績不振によってHRCへの評価やF1へのコミットメントが変わることはないと強調する。

「現段階で、HRCやモータースポーツ活動に対する我々の評価やコミットメントに変化はありません。F1への挑戦は今もホンダのDNAの一部であり、それは変わっていません。我々には長期的なコミットメントがあります」

2015年にマクラーレンと組んで復帰した当初の不振と信頼性不足は、今回のアストンマーティンとの船出と驚くほど似ている。だがホンダはその後、レッドブルとの提携を通じて最高峰のPUを作り上げ、マックス・フェルスタッペンとともに勝利と王座を手にした。

一時は屈辱的な立場に甘んじながらも、チャンピオンシップを制覇できる力があることを自ら証明してきたという事実は、ホンダ経営陣の姿勢を読み解くうえで軽視できない要素だ。

アストンとのパートナーシップが最終的に栄光へと結実するかどうかは、広範かつ複合的な要因に左右されるだろう。だが、その成否が両者の忍耐と意思の強さに大きく依存するであろうことは疑いない。