
冷却ベストは救世主か、それとも足かせか ― F1初のヒートハザードで浮かぶ”2つの懸念”
2025年F1第18戦シンガポールGPに向けて、F1史上初の「ヒートハザード」が発令された。気温と湿度を組み合わせた体感指数が31度を超える見込みで、全車にドライバー冷却システムの搭載が義務付けられた。
そのひとつである冷却ベストは、内蔵チューブに冷却液を循環させる仕組みを持つ。着用は任意だが、使用しない場合には公平性を保つため、マシンに0.5kgのバラストを搭載することが義務付けられている。
効果は持続するのか?
懸念されるのは、レース全体を通じてベストの冷却効果が維持されるかどうかだ。カルロス・サインツ(ウィリアムズ)は「当初は30分程度しか持たなかったが改善されている。今は1時間は期待できる」「途中で壊れたとしても、いつも通りやるだけ。でも機能すれば、少しは楽になる」と説明する。
フェルナンド・アロンソ(アストンマーチン)も「1時間のフリー走行では機能していた」とし、レースが終わる前に効果が切れる可能性は低いとの見解を示した。
一方でオリバー・ベアマン(ハース)は「早く溶ければ熱い水が循環するだけで、逆効果になりかねない」と語り、冷却源が短時間で熱を吸収し尽くしてしまい、液体が温水化してしまう現象に警鐘を鳴らした。
快適性に課題も…
もうひとつの懸念点は装着時の快適性だ。アロンソはシートベルトとの干渉を指摘し、エステバン・オコン(ハース)は「腰にテニスボールがあるような感じ」と不快感を表現した。
今年のバーレーンGPで実際に使用したジョージ・ラッセル(メルセデス)も「高速コーナーでGフォースがかかるとチューブが肋骨に当たって不快だった」と打ち明ける。
ただし改良は進んでおり、加えてマリーナベイ市街地コースは横Gの強い高速コーナーが少ないため、ラッセルは「大きな支障はない」との見通しを示した。
現実的には使うしかない?
ニコ・ヒュルケンベルグ(ザウバー)は「バラストを積む必要があるなら、使った方が合理的だ」と語り、冷却ベストを着用する意向を示した。実際、多くのドライバーが使用するものと見られる。
ランス・ストロール(アストンマーチン)は「もしかしたら5周しか機能せず、その後の50周の苦行になるかもしれないけど試してみるつもりだ」と話し、アレックス・アルボン(ウィリアムズ)も「多分、使うと思う」と明かした。
一方、シャルル・ルクレール(フェラーリ)は「フリー走行を通じて検討し続けることになるだろうね」と述べ、最終的な判断を持ち越した。
改良の余地を残す初年度
スポーツカーレースでは既に実績のある技術だが、狭く高温なF1のコックピットには独自の課題がある。
サインツは「導入初年度から完璧に機能するとは思っていない。それでも改良を進め、解決策を見つけて仕上げていくはずだ。それがF1だからね」と語り、今後の進化に期待を寄せた。
史上初の「ヒートハザード」下で行われるシンガポールGPは、シーズン終盤に向けたチャンピオンシップ争いに加え、新技術の有効性が試される重要な舞台となる。まずは初日のフリー走行での成果と課題に注目が集まる。