「1+1」の裏にある力学 ― ラッセル、フェルスタッペン加入に備えて”自衛策”を確保。メルセデス新契約の一部が明らかに

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メルセデスがマックス・フェルスタッペンと契約するシナリオを想定し、ジョージ・ラッセルは、自らのシートを維持するための”自衛策”を確保した。従来の「チーム主導型」契約から「ドライバー主導型」契約へ――ラッセルが設定された基準を満たせば、メルセデスは彼を契約上外せない。

ポールポジションを獲得してパルクフェルメでガッツポーズを取るジョージ・ラッセル(メルセデス)、2025年10月4日(土) F1シンガポールGP予選(マリーナベイ市街地コース)Courtesy Of Mercedes-Benz Grand Prix Ltd.

ポールポジションを獲得してパルクフェルメでガッツポーズを取るジョージ・ラッセル(メルセデス)、2025年10月4日(土) F1シンガポールGP予選(マリーナベイ市街地コース)

「1+1」契約の真相―主導権を引き寄せたラッセル

メルセデスは長い沈黙の末、ラッセルとアンドレア・キミ・アントネッリを2026年シーズンのドライバーとして発表した。ただし、契約期間の詳細は意図的に伏せられている。年俸は約3,000万ポンド(約60億円)とも噂される。

とはいえ、注目されるのは契約の「中身」だ。今回、英紙『The Telegraph』のインタビューで、ラッセル自身が「1+1」方式の契約であることを認めた。その中にはパフォーマンス条項が盛り込まれているという。

もっとも、この条項は、マシンの競争力が一定基準を満たさなかった場合に備えてトップドライバーが移籍手段を確保するという、しばしば話題に挙がるタイプのものとは根本的に異なる。むしろ逆だ。

「これまで公には言ってこなかったけど、契約にはこういう条項がある。(来年)きちんとした結果を出して(特定の基準を)達成した場合、2027年まで自動的に契約が延長されるんだ」

「つまり、2027年のシートは自分の手の中にある」

契約の構造はこうだ。2026年が基本契約で、ラッセルがある特定のパフォーマンス基準をクリアすれば、メルセデス側の意向に関わらず2027年も自動的に契約が継続される。若手ドライバーの契約にありがちな条項とは対象的に、条件付きながらも、チームではなくドライバー側が延長の可否を握る形だ。

契約交渉が本格化した段階で、市場にはラッセルを上回る魅力的な選択肢は残っておらず、交渉のテーブルではラッセルが明らかに優位だった。一方で、メルセデス側はラッセルとは異なり、単年契約を希望していたと見られている。

そのため、ラッセル陣営は単年契約を受け入れる代わりに、パフォーマンス条項を盛り込むことを条件として提示し、メルセデスにそれを受け入れさせたと考えられる。

フェルスタッペン獲得への「自衛策」

この契約内容は、明らかに特定の状況を見据えたものだ。現役最強と評され、史上最強との呼び声も高いフェルスタッペンが、2027年に向けてメルセデスに加入する可能性は依然として残されている。

もしフェルスタッペンがメルセデス入りを決断した場合、メルセデスは現行ドライバーのいずれか1名を放出することになる。その際、ラッセルのパフォーマンス条項は、彼自身のシートを守る”自衛策”として機能する。

メルセデスのチーム代表トト・ウォルフは、今夏にかけて公然とフェルスタッペンを口説き、ラッセルの契約交渉は事実上「棚上げ」されていた。フェルスタッペンの契約にもパフォーマンス条項があり、夏休み時点でランキング4位以下であれば離脱可能と見られていた。

実際には3位となり条件は成立しなかったが、2026年以降の契約にも同様の、さらに容易に離脱可能な条項があるとも噂されている。レッドブルが来季から投入する初の自社製パワーユニットが不発に終わった場合に備え、フェルスタッペン側が脱出手段を用意していることは疑いない。

メルセデスのトト・ウォルフ代表とマックス・フェルスタッペン(レッドブル)、2025年Courtesy Of Mercedes-Benz / Red Bull

メルセデスのトト・ウォルフ代表とマックス・フェルスタッペン(レッドブル)、2025年

ラッセルは、ウォルフがフェルスタッペンに接触していた時期を振り返り、「6か月前のような状況にはもうならない。詳細は言わないけど、結果を残せば100%、僕は残留する」と強調した。

フェルスタッペンがメルセデスに加入したとしても、ラッセルが基準をクリアしていれば、メルセデスは彼を外すことができない。この場合、シートを失うのはアントネッリということになる。

皮肉なことに、契約交渉が長引いたことは、結果的にラッセルにとってプラスに働いた。

「実は2024年10月に契約を結びたかったんだけど、最終的には、今回の契約の方があの時の条件よりかなり良い」とラッセルは語る。

メルセデスがフェルスタッペン獲得に傾注した時間が、ラッセルに交渉上の優位性をもたらしたのだ。

冷え切った関係、それでも認める実力

ジョージ・ラッセル(メルセデス)とマックス・フェルスタッペン(レッドブル)、2025年F1スペインGPCourtesy Of Mercedes-Benz Grand Prix Ltd. / Red Bull Content Pool

ジョージ・ラッセル(メルセデス)とマックス・フェルスタッペン(レッドブル)、2025年F1スペインGP

ラッセルとフェルスタッペンの関係は冷え込んでいることで知られる。昨年のアブダビGPに先立ち、ラッセルはフェルスタッペンを公然と批判し「いじめっ子」と呼んだ。フェルスタッペンは「負け犬」と返した。

「挨拶はするよ。でもそれ以上は話さない。無視もしないけど」――ラッセルはフェルスタッペンとの関係について、淡々と語る。

「そのことで眠れない夜を過ごすこともないし、彼もそうだろう。だから全く気にならない」

だが、ラッセルは個人的な感情とは別に、ドライバーとしてのフェルスタッペンを高く評価する。

「人生は短い。それにみんな大人だし、経験から学ぶ。チームメイトが親友である必要はない。マックスは信じられないほど素晴らしいドライバーだ。それは否定できない。だからこそ、彼と戦うことを楽しみにしているんだ」

2026年王座奪還へ、次世代PUへの強い自負

英国ブラックリーの本拠地でF1世界選手権ダブルタイトル6連覇を祝うメルセデスのチームメンバーcopyright Mercedes-Benz Grand Prix Ltd.

英国ブラックリーの本拠地でF1世界選手権ダブルタイトル6連覇を祝うメルセデスのチームメンバー

ラッセルは2022年にメルセデスに加入したが、それはチームの黄金時代が終わりを告げた時期と重なった。2014年から2021年まで8年連続でコンストラクターズタイトルを制した“シルバーアロー”は、2022年以降、マクラーレンやレッドブルの後塵を拝している。

だが、ラッセルとメルセデスは、2026年を”チャンピオンシップ争いへの再出発の年”と位置づけている。この年、F1は新たなパワーユニット規則を導入する。メルセデスは自社製エンジンの開発に全力を注いでおり、ラッセルもその進捗に強い自信を見せている。

先月のシンガポールGPで優勝した後、ラッセルはタイトル争いに挑む準備が整っていると語った。新しいメルセデスエンジンへの期待について、彼は意味深な言葉を残している。

「これは単なる宣伝文句じゃない。たぶんチームを替わりたくないと思ってるのは、(同じメルセデス製パワーユニットを使ってる)マクラーレンのドライバーたちくらいだろうね」

少なくともラッセルは、メルセデスの2026年型パワーユニットが他メーカーを圧倒する可能性を強く信じている。もしそれが現実となれば、彼が契約に組み込んだ「パフォーマンス条項」は、さらに大きな意味を持つことになるだろう。

2026年のメルセデスの競争力、そして翌2027年のドライバーラインナップがどうなるかはまだ分からない。確かなのは、ラッセルが自らの運命を、これまでになく自分の手で握っているということだ。