常識を覆す新型DILシミュレーター「Delta T1 Sport」、スーパーフォーミュラやF2の開発競争を変えるか

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F1を含む現代のモータースポーツにおいて、高性能なドライビング・シミュレーター、いわゆるDIL(Driver-in-the-Loop)は、マシン開発やレース準備に欠かせない重要なツールの一つとなっている。だが、大規模な設備や高額なコスト、複雑なシステム構成は、多くのレーシングチームにとって高いハードルだった。

そうした中、DILシミュレーターを手がける2009年創業のアンシブル・モーション社が、新型モータースポーツ用DILシミュレーター『Delta T1 Sport』を発表した。

Delta T1 Sportは、スーパーフォーミュラ、LMP2やLMH/LMDh、フォーミュラE、F2、F3、F4、フォーミュラ・リージョナルなど、シングルシーターからプロトタイプまで幅広いカテゴリーを想定したモデルだ。

同社の狙いは、これまでスペースやコストの面から本格的なDIL環境の導入に課題を抱えていたチームに対し、高精度なシミュレーション環境をより現実的な選択肢として提供することにある。

コンパクトな筐体に6自由度を凝縮

アンシブル・モーション社の新型モータースポーツ用DILシミュレーター「Delta T1 Sport」のレンダリング、2026年5月6日Courtesy Of Ansible Motion

アンシブル・モーション社の新型モータースポーツ用DILシミュレーター「Delta T1 Sport」のレンダリング、2026年5月6日

Delta T1 Sportの大きな特徴は、コンパクトな設計と高い性能を両立している点にある。特に注目されるのは、機械的剛性の高さと可動部の軽さを両立させ、精緻な挙動を生み出すとされる新開発の特許技術「Triformモーションシステム」だ。

これにより、ドライバーとコックピットを含めて最大300kgの積載能力を有しつつも、床面積わずか2.4メートル四方、畳でいえば3畳強ほどのスペースに、前後方向1メートル、左右方向1.2メートル、ヨー120度、上下動0.2メートル、ロール22度、ピッチ16度を含む6自由度のモーション領域を実現する。

このシステムには、アンシブル・モーションが17年にわたり培ってきた技術が投入されており、限界域でのマシンバランス、路面からの入力、垂直方向の挙動など、ドライバーが走行中に必要とする繊細な情報を、極めて低いレイテンシー(遅延)で再現するという。

特別な施設や床面の補強工事を必要とせず、導入や運用にかかる負担を抑えられる点も大きな特徴だ。

納入先第一号はヤマハと組む名門ローラ

アンシブル・モーションのマネージングディレクター、ダン・クラーク氏とローラ・カーズのティル・ベヒトルスハイマー会長、2026年5月6日シルバーストンCourtesy Of Ansible Motion

アンシブル・モーションのマネージングディレクター、ダン・クラーク氏とローラ・カーズのティル・ベヒトルスハイマー会長、2026年5月6日シルバーストン

この新型シミュレーターの納入先第一号となるのがローラ・カーズだ。英国シルバーストンの本拠地に設置され、フォーミュラEの第4世代マシン「GEN4」を含むマシン開発に活用される。

1958年創業の同社は、顧客向けレーシングカーの製造で史上最も成功したコンストラクターだ。一度は表舞台から姿を消したものの、2022年に再始動。日本のヤマハとパートナーシップを結んでシーズン11(2024/2025年)よりフォーミュラEに参戦している。

ローラ・カーズのティル・ベヒトルスハイマー会長は、導入の意義について「既存のワークフローに効率的に統合でき、エンジニアリングプロセスを加速させ、開発の質を高める理想的なシステムだ」と語る。

開発システム全体と連携する拡張性

現代のシミュレーターには、単体で完結する装置としてではなく、マシン開発システム全体の一部として機能することが求められている。

Delta T1 Sportは、外部のソフトウェア・イン・ザ・ループ(SIL)やハードウェア・イン・ザ・ループ(HIL)環境と連携できるツールチェーンを備える。姉妹会社「rFpro」のリアルタイム可視化、路面モデリング、仮想サーキットライブラリとも組み合わせられる。

さらに、プロジェクターやLEDウォール、XR(拡張現実)、VR(仮想現実)といった表示環境にも対応し、ステアリングのトルクフィードバックやシートベルト荷重システムなどと組み合わせることで、用途や予算に応じた本格的なドライビング環境を可能とする。

これまで資金力のある一部チームに限られがちだった高度なDILシミュレーション技術を、よりコンパクトで導入しやすい形にしたのがDelta T1 Sportだ。普及が進めば、幅広いカテゴリーにおいて、マシン開発とレース準備を支える重要な存在になりそうだ。

アンシブル・モーション社のDILシミュレーター「Delta S2」Courtesy Of Ansible Motion

アンシブル・モーション社のDILシミュレーター「Delta S2」