マックス「謙虚すぎる」―メキーズへの反論が照らす”レッドブル再生の核心”と、新たなファシリテーター型リーダー像

  • Published:
  • Googleで優先するソースとして追加する

2025年F1第18戦シンガポールGPでマックス・フェルスタッペン(レッドブル)は2位表彰台を獲得した。今季最強最速マシンと評されるマクラーレンを過去3戦連続で打ち破った形だ。

一連のパフォーマンス改善の背後には、今年7月にクリスチャン・ホーナーの後任として新たなチーム代表に就任したローラン・メキーズの改革がある。だが当のメキーズは、「私の成果ではない。マックスこそが推進力だ」と謙遜する。

レース後の記者会見で、この発言について問われたフェルスタッペンは即座に反論した。

「思うにローランは謙虚すぎる」

モータースポーツ・アドバイザーを務めるヘルムート・マルコも同じ見解で、二人の評価は一致している。メキーズがもたらしたのは単なる技術的な改善ではなく、チームの思考プロセスそのものを変える組織的進化だった。

「適切な質問」から始まった変革

フェルスタッペンが強調するのは、メキーズがもたらした新しいアプローチだ。

「最も重要なのは、僕らが一つの真のチームとしてアプローチしていることだ。常に細部まで見て、弱点を理解しようとしている。ローランが加わって、適切な質問を投げかけることで、チームがうまく機能しているんだ」

“適切な質問をする”――技術開発の現場では、これは極めて重要だ。誤った問いからは、どれだけ努力しても正しい答えは導けない。メキーズは、問題の本質を見抜く「問いの立て方」でレッドブルに新たな視点をもたらした。

ピットウォールに座るローラン・メキーズ(レッドブル代表)、2025年10月3日(金) F1シンガポールGPフリー走行(マリーナベイ市街地コース)Courtesy Of Red Bull Content Pool

ピットウォールに座るローラン・メキーズ(レッドブル代表)、2025年10月3日(金) F1シンガポールGPフリー走行(マリーナベイ市街地コース)

その効果は、フェルスタッペンの次の言葉に表れている。

「時々、レース後に少し迷子になることがある。なぜそうなったのか、どう改善すればいいのか分からない状態だ。でも今は違う。なぜそうなったのか、どうすれば良くなるのか理解できている」

これこそが変革の核心だ。かつてのレッドブルは、問題の原因を正確に突き止められず、対症療法のような試行錯誤を繰り返していた。だがメキーズ体制の下で、チームは問題を論理的に分解し、原因を理解した上で明確な改善策を導き出す組織へと進化した。偶然ではなく、再現性と確実性を備えた進化が、今のレッドブルを支えている。

RB21の進化と課題―シンガポールで見えた現在地

その成果は数字が物語っている。フェルスタッペンは3連勝こそ逃したものの、過去3戦すべてでタイトルの主役二人より上位でフィニッシュした。さらにシンガポールのマリーナベイ市街地コースは、レッドブルが伝統的に苦戦してきたサーキットだった。

予選では、ランド・ノリスのダーティーエアーに阻まれなければポールポジションに足るだけのペースがあった。さらに、決勝ではマクラーレン勢を抑え、ジョージ・ラッセル(メルセデス)に次ぐ2位表彰台を確保した。

「ここ数レースで、僕らが大きく改善したのは間違いない」とフェルスタッペンは認める。

決勝後の記者会見に臨む2位マックス・フェルスタッペン(レッドブル)、2025年10月5日(日) F1シンガポールGP決勝(マリーナベイ市街地コース)Courtesy Of Red Bull Content Pool

決勝後の記者会見に臨む2位マックス・フェルスタッペン(レッドブル)、2025年10月5日(日) F1シンガポールGP決勝(マリーナベイ市街地コース)

ただし、フェルスタッペンは完璧主義者であり、目指すのは”グランドスラム”を達成した前戦アゼルバイジャンGPのような、文字通りの「完勝」を全てのレースでやり抜くことだ。シンガポールでの2位に満足してはいない。

「前回のレースほど良くはなかった。週末を通じて行った調整の一部が、期待したペースを少し失わせた可能性がある」

レース中、フェルスタッペンはシフト不調、リアタイヤのデグラデーション、マシンバランスの問題に悩まされた。スタートではソフトタイヤでラッセルに挑んだが、ダーティグリッド(偶数列)のグリップ不足により、ターン1での逆転に失敗。その後は完全なタイヤマネジメントレースとなり、ラッセルやノリスより6〜7周古いタイヤでの後半戦を強いられた。

それでも、フェルスタッペンの表情は明るい。

「でも、何もショッキングなことはないし、迷っているわけでもない。分析すべき点は明確だ。次の週末では、もう少し上手くやれると思う」

これがメキーズ効果だ。問題に直面しても、その原因を理解するために必要な質問をエンジニアに投げかけ、解決策へと導く。そのアプローチに対する信頼が、フェルスタッペンの確信に繋がっている。

熾烈な2位争い―35点差からの逆転シナリオ

フェルスタッペンの活躍とは対照的に、コンストラクターズ選手権でレッドブルは厳しい状況に置かれている。シンガポールではマクラーレンが連覇を確定。残り6戦でランキング2位を争う。

メルセデスはラッセルの優勝に加え、アンドレア・キミ・アントネッリが5位に入り、全チーム最多の35ポイントを稼いだ。結果、4位レッドブルは35ポイントまで引き離された。

「35点差はかなり大きい。理想的を言えば今日は勝ちたかった。今日はメルセデスが勝って、もう1台もポイントを獲得した」

パルクフェルメでアンドレア・ステラ(マクラーレン代表)から祝福を受けるマックス・フェルスタッペン(レッドブル)、2025年10月5日(日) F1シンガポールGP決勝(マリーナベイ市街地コース)Courtesy Of Red Bull Content Pool

パルクフェルメでアンドレア・ステラ(マクラーレン代表)から祝福を受けるマックス・フェルスタッペン(レッドブル)、2025年10月5日(日) F1シンガポールGP決勝(マリーナベイ市街地コース)

フェルスタッペンが安定して上位を争う一方、角田裕毅のパフォーマンスが伸び悩み、レッドブルは2台体制が機能していない。メルセデスはラッセルとアントネッリの両輪、フェラーリも2台揃ってポイントを稼ぐ。コンストラクターズ選手権は、チームの総力戦だ。

それでも、フェルスタッペンは戦いを諦めない。

「もちろん挑むよ。ガチの戦いになるだろうね。楽じゃないけど、全力を尽くす」

35点差は大きいが、逆転は決して不可能ではない。メキーズ体制下でのRB21のペースと角田の改善が続けば、残りレースで十分に戦える競争力を手に入れる可能性がある。

ファシリテーターとしてのメキーズ

カーライル・グローバル・インベスター・カンファレンスで握手を交わすローラン・メキーズ(レッドブル代表)とハーヴェイ・シュワルツ(カーライルCEO)、2025年9月9日(火)(ワシントンD.C. ウォルドーフ・アストリア)Courtesy Of Red Bull Content Pool

カーライル・グローバル・インベスター・カンファレンスで握手を交わすローラン・メキーズ(レッドブル代表)とハーヴェイ・シュワルツ(カーライルCEO)、2025年9月9日(火)(ワシントンD.C. ウォルドーフ・アストリア)

メキーズが自身の貢献度を「ゼロ」と評価する理由は、おそらく彼のリーダーシップ哲学にある。

優れたリーダーに求められる要素の一つは、指示を一方的に出すことではなく、チーム全体が自律的に最高のパフォーマンスを発揮できる環境を整えることだ。メキーズは権威を振りかざすタイプではなく、チームの潜在能力を引き出す“ファシリテーター”として振る舞っている。

フェルスタッペンが「チームとして」アプローチすることの重要性を強調し、メキーズが「適切な質問」を投げかけることでチームが機能していると指摘するのは、まさにこの点を示している。メキーズは自ら答えを提示するのではなく、チーム全員が自ら考え、最善の答えを導き出せるよう導いている。

エンジニアとしてキャリアを積み、フェラーリのスポーティングディレクター、そしてレーシング・ブルズのチーム代表を歴任したメキーズの豊富な経験は、レッドブルに新たな視点と柔軟な方法論をもたらした。

メキーズは自らを前面に出すことなく、周囲に考え、決断し、行動させる。その姿勢こそが、今のレッドブルににとって最も効果的なリーダーシップの形なのかもしれない。

進化は続く―確信に満ちた次戦への改善

シンガポールGPで行われた62周の戦いは、RB21が依然として最速マシンではないことを浮き彫りにした。

終盤、ラッセルはバックマーカーに接近しながらも、ブルーフラッグが提示される1.2秒以内の距離に中々近づけずにいた。最大の勝因は、ポールシッターだけが享受できるクリーンエアーにあった。逆に言えば、ダーティーエアーの中では中団勢にすら接近できなかったということだ。

一方でノリスは、ウイング翼端板を損傷しながらも、フェルスタッペンのDRS圏内=1秒以内を何周も維持していた。マクラーレンがこの夜の最速マシンであったことは、疑いようがない。

完璧ではない。だが確実に進化している。そして何より、レッドブルは問題を正確に把握し、解決へと導くための明確なプロセスを手にしている。

「来週末には、もう少し良くできる」

フェルスタッペンの言葉は、単なる希望ではない。メキーズ体制の下で築かれた分析力と改善の改善サイクルへの、揺るぎない信頼と確信だ。

チーム変革の真価は、これからの戦いの中でさらに明らかになるだろう。レッドブルの逆襲は、まだ序章にすぎない。

ガレージ内でチームミーティングを行うローラン・メキーズ(レッドブル代表)、2025年10月2日(木) F1シンガポールGP(マリーナベイ市街地コース)Courtesy Of Red Bull Content Pool

ガレージ内でチームミーティングを行うローラン・メキーズ(レッドブル代表)、2025年10月2日(木) F1シンガポールGP(マリーナベイ市街地コース)


2025年F1第18戦シンガポールGP決勝レースは、ジョージ・ラッセル(メルセデス)がポール・トゥ・ウインを飾り、2位にマックス・フェルスタッペン(レッドブル)、3位にランド・ノリス(マクラーレン)が続く結果となった。

サーキット・オブ・ジ・アメリカズ(COTA)を舞台とする次戦アメリカGPは10月17日のフリー走行1で幕を開ける。

F1シンガポールGP特集