メルセデスF1エンジン PU106A Hybrid (2014)
Courtesy Of Mercedes-Benz Grand Prix Ltd.

F1レギュレーション解説「パワーユニット & ERS編」

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2014年のレギュレーション改訂によって、F1には1.6リッターV型6気筒エンジンにターボチャージャーとハイブリッドシステムを組み合わせた、通称パワーユニット(Power Unit = PU)が導入された。

ハイブリッドは運動エネルギーと熱エネルギーの2種類を回生してプラスαの動力とする仕組みで、システム全体で1000馬力以上を誇る。

パワーユニットの構成要素

パワーユニットは以下の7つのコンポーネントで構成される。

最大回転数は1万5000rpm、バンク角90度、最大燃料流量110kg/h、重量150kg以上(2020年までは145kg以上)と規定されており、1レースで使用可能な燃料量は110kgとなっている。

現時点では現行仕様が2025年末まで継続される事となっており、2026年にはMGU-Hを廃し、100%持続可能な燃料を使用する次世代パワーユニットが導入される。

パワーユニット交換のペナルティ

コスト削減の一環としてパワーユニットの各コンポーネントは年間の使用上限基数が設定されており、これを超えて新しいコンポーネントを投入するとグリッド降格ペナルティが科せられる。降格グリッドは累積計算され、週末のスターティンググリッドに影響する。

ICE、ターボ、MGU-H、MGU-Kは年間3基(2023年は4基)まで、CE、ESは2基まで、エキゾーストは8セットに制限される。参戦初年度を迎えたばかりの新参サプライヤーのPUを使用している場合は、これにプラス1基が使用可能となる。

規定数を上回る最初の投入時は10グリッド、それ以降は5グリッド降格となる。

例えば4基目のICEを投入した競技会では10グリッド降格が科され、5基目のICEを投入した競技会では5グリッド降格が科される。

4基目のICEと4基目のターボを同時に投入した場合は計20グリッドとなるが、計15グリッド降格以上の場合は、自動的にグリッド最後尾スタート(18年より新設 / 参考)が言い渡される。

シーズン中にドライバーが交代した場合、あるいはコロナ感染などで代役ドライバーが参戦する場合、タイヤやギアボックスなど同じ様に、元のドライバーの使用基数が引き継がれて計算される。

パワーユニットの開発凍結

2026年の次世代ハイブリッドPUの導入が決定した事で、2022年にパワーユニット開発が凍結される事が決まった。現行PUは既に成熟期を迎えており、開発の費用対効果は低下しつつある。

凍結のメリットはカスタマーチームの金銭的負担の低減だけではない。メーカーは新たな時代のエンジン開発にリソースを回す事ができる。

開発が凍結される9種と期限

ホモロゲーションが必要なのはPUの各コンポーネントに燃料とエンジンオイルを加えた9種類だ。いずれも2022年中に1度限りのアップグレードが認められているが、以下のように2段階のデッドラインが設定されており、以降は開発が完全に凍結される。

各PUコンポーネントの凍結期限
コンポーネント 凍結期限
ICE 2022年3月1日
ターボチャージャー 2022年3月1日
MGU-H 2022年3月1日
MGU-K 2022年9月1日
ES 2022年9月1日
CE 2022年9月1日
エキゾースト 2022年3月1日
燃料 2022年3月1日
オイル 2022年3月1日

パワーユニット・メーカーは国際自動車連盟(FIA)に対して「ホモロゲーション・ドシエ」と呼ばれる資料を提出する。FIAは審査を経て14日以内に承認を行う。

例外措置

技術規定は「信頼性、安全性、コスト削減、または最小限の付随的な変更のみを目的とした」変更を認めている。一旦信頼性に関わる問題が発生すれば、そのメーカーのPUを使うチームは以降4シーズンに渡ってその問題に悩まされ続ける事になる。

変更の申請はFIAテクニカル部門にて書面で受け付ける。メーカーは必要に応じて問題が発生しているという明確な証拠を出さなければならない。妥当性を判断するためにFIAは、提出された書面を全メーカーに配布し見解を募り、変更の可否を判断する。

ホンダが2019年シーズンのFIA-F1世界選手権に投入し、レッドブル・レーシングとスクーデリア・トロロッソが搭載したパワーユニット「RA619H」、2021年3月22日撮影 (4)Courtesy Of Honda Motor Co., Ltd

ホンダが2019年シーズンのFIA-F1世界選手権に投入したパワーユニット「RA619H」

なお、排気系や各種配線、ターボ/コンプレッサー/ウェイストゲートの位置など、シャシーに搭載するに際して調整が必要な部位も存在する。これらに関してはFIAの承認を得た上で「最小限の変更」が認められている。

更に燃料とオイルに関しても、性能の追求を目的としたものではなく商業的な目的であれば変更が認められる。

加えて、上記に関わらずバラスト、フライホイールやPU/オリフィス間のブリーザー・システム・ダクト、ヒートシールドとその取り付け金具、ヘッダータンク、熱交換器関連、一部の燃料供給ポンプ等は2023年以降も引き続き変更する事が可能だ。

使用に関するルール

  • ピットレーンスタート時を除き、時速100kmに達しない場合レーンでのMGU-K使用は禁止
  • 部品不正交換防止の為、各イベントの最初にPU内部品を封印
  • 過去のシーズンのパワーユニットを使用しても良い
  • 同一大会で降格対象となる同一PU要素を2基以上導入した場合、最後の要素のみペナルティなく次戦で使用可

運用・使用に関するルール

  • エンジンへの燃料流量は一時間あたり110キログラム
  • ドライバーが加速トルクを制御する唯一の手段はアクセルペダルのみ
  • ESからMGU-Kへの1周あたりのエネルギー転送量は最大4MJ
  • MGU-KからESへの1周あたりのエネルギー転送量は最大2MJ
  • MGU-HとES間、またはMGU-HとMGU-K間でのエネルギー転送量は無制限
  • PU供給者は、前年5月15日までに来季供給先チーム名をFIAに申告

燃料流量規定は年々増えており、2019シーズンに105kgから110kgへと増加された。

製造・素材に関するルール

  • 内燃機関は1.6リットル、回転数は15,000rpmまでに制限
  • 1気筒当たり2つの吸気口と2つの排気バルブ、1つのターボチャージャーを備える事
  • 各気筒は90度に配置すること
  • 排気は、タービン用の単一排気管と1つか2つのウェストゲート用排気管を備える事
  • エンジンとMGU-K以外の動力装置はNG
  • パワーユニットの全体重量は最低145kgであること
  • クランクケースとシリンダーブロックは鍛造アルミニウム合金製、複合材料の使用は禁止
  • MGU-Hは圧力充填システムの排気タービンに機械的に接続されていること
  • MGU-Kはパワートレインに機械的に連結されていること

手短に2023年のF1レギュレーションを知りたい方は「F1ルール主要変更点のまとめ」を、より詳しくルールの全体像を知りたい方は「F1ルール完全網羅版」を参照されたい。