ガレージで準備をするマクラーレン・ホンダ
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《マクラーレン・ホンダ》ホンダF1がマクラーレンとの決別を採決する可能性を徹底検証

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元F1ドライバーの井上隆智穂氏が「ホンダ社内の役員の間では、マクラーレンとの継続組と”ホンダが違約金を支払って”マクラーレンと離れる組の二つに分かれている。その結果は、3月31日に出るそうだ。」との内容をTwitterに投稿。結局3月31日には何も公開発表されなかったが、内容が内容だけに多くの波紋を呼んだ。

パフォーマンス不足を理由とする両者の決別の噂は絶えない。以前、マクラーレンがホンダと手を切り別のエンジンメーカー(メルセデス等)と手を結ぶ可能性について、マクラーレンの財務状況からその見込を検証したが、今回は井上氏の発言の真偽を分析しながら、”ホンダが自らマクラーレンと手を切る可能性”について検証してみたい。

ホンダF1を巡る4つのポイント

ホンダは、2017年2月27日発行付の株主通信の中で4輪モータースポーツ参戦について「”勝ち”にこだわって戦っていきます」と語っており、F1参戦の目的は”参加すること”ではなく”勝つこと”であると明言している。井上氏の発言の真偽は定かでないが、仮にこれらの情報が正しいと仮定すると次の事が分かる。

  1. ホンダにはマクラーレンと決別する権利がある
  2. マクラーレンと決別する方が好ましいと考える役員がいる
  3. ホンダにF1を撤退する意志はない
  4. ホンダはF1での勝利を目標としている

ホンダにF1撤退の意志はなく、目標は勝利すること

まず確認したいのは「ホンダにF1を撤退する意志はない」という点。もし仮に現時点で撤退を検討しているのであれば「マクラーレン継続組とマクラーレン決別組の2つに分かれる」のではなく、「マクラーレン継続組とマクラーレン決別組とF1撤退組の3つに分かれる」となるはずであるが、氏はこのようには発言していない。そのため、ホンダはF1に参戦し続ける意志をもっておりその目標は勝利することにある、と推測される。これを前提として話を続けよう。

マクラーレンの代替チームは?

次に「マクラーレン決別組」の存在について考えてみる。現在ホンダはマクラーレンにのみエンジンを供給している。もし決別組の存在が確かだとすれば、現時点で他チーム(マクラーレン以外)へのエンジン供給についての確約がある、ということになる。どのチームか?巷ではザウバーが有力候補と言われている。

ホンダの第2チームとなる来季のパワーユニット供給先がザウバーに絞られたことは、開幕戦メルボルンでの取材でほぼ明らかになった。ホンダ側もザウバーの首脳陣も、一応は「まだ何も決まってない」と公には言っている。しかしオーストラリアGP週末の話し合いで事態は大きく進展したようで、ザウバーのモニシャ・カルテンボーン代表に交渉の見通しについて聞くと、満面の笑みで「順調よ!」と答えていた。via : ホンダの2チーム目はザウバー濃厚。来季、日本人F1ドライバー誕生の可能性も

ザウバーと組んで勝利できる可能性は?

以上のことから「マクラーレン決別組は、マクラーレンよりザウバーと組んだ方が勝利の可能性が高いと考えている」と推測できるが、F1ファンのあなたはこれについてどう思われるだろうか?

ノウハウ・資金・技術・キーマン・シャシー、これら勝利へのファクターの内、ザウバーがマクラーレンより勝っているものはあるだろうか?恐らく多くの方が首を横に振るだろう(ザウバーごめんなさい!)。マクラーレンとの契約よりも好条件でのエンジン供給契約は可能かもしれないが、勝利という目標から遠ざかることは明らかではないだろうか。もしホンダ経営陣が近々に決定しなくてはならない事項があるとするならば、マクラーレンとの決別についてではなく、マクラーレンに加えてザウバーにエンジンを供給することについて、だろう。

自発的に決別を選択するための条件

万が一、ホンダがF1での勝利のために自ら進んでマクラーレンと手を切ることがあるとしても、その提携先はレッドブル以外には考えにくい。レッドブルはエイドリアン・ニューウェイが手がける高い性能のシャシーを有しているし、4年連続コンストラクターズチャンピオンを獲得した経験もある。加えてホンダとの関係も良好だ。ホンダは、スーパーバイク世界選手権で今季レッドブルをメインスポンサーに迎えての参戦が決定しているし、スーパーフォーミュラではレッドブルの育成ドライバーであるピエール・ガスリを起用している。

ただし、現在レッドブルはルノーからエンジン供給を受けており、2018年まで契約があると言われている。そのため、交渉が行われている可能性は否定できないものの、現時点で供給の”確約”が取れているとは考えにくい。

ホンダが自発的に決別を申し出る可能性はゼロ

以上のように考えると、マクラーレン決別組の存在事自体に疑問符がついてしまうし、仮に存在していたとしても、井上氏の言うように、3月31日にホンダがマクラーレンとの決別を自発的に決定した可能性は極めて低いと考えられる。仮に何か重要な事が起こったとするならばそれは、ザウバーへのエンジン供給について何らかの決定が下された、といったところが妥当な線ではないだろうか。もしマクラーレン側から決別の提案があったとして、これを決議しなくてはならなかった状況だとすれば「違約金を払って」という氏の発言は出てこないだろう。

ホンダが勝利を目標としてF1に参戦し続ける限り、レッドブルとのワークス体制が確約されずして、マクラーレンに対して自発的に決別を申し出る可能性は今のところゼロに等しいと言える。加えて、現在のハイブリッド・ターボエンジンは載せ換えてすぐパフォーマンスが発揮できるといった類の代物ではない。仮にホンダエンジンが最強の性能を誇っており、レッドブルのシャシーも同様だとしても、最強と最強をつなぎ合わせても最強にはならないのが今のF1の現状だ。そのためレッドブルとの話が進んだとしても、そう簡単にレッドブル・ホンダが誕生することはない。

とは言え、火のないところに煙は立たないと言うし、マクラーレンがメルセデスエンジンへの載せ換えを検討との憶測も度々報道されるのも事実ではある。ただ間違いなく言えることは、マクラーレンとホンダの関係を不安視するファンが大勢いる、ということと、そのことを報道メディアは良く理解している、ということだけだ(汗)。