決別の可能性はゼロ?費用対効果で考えるマクラーレン・ホンダ消滅の見通しcopyright McLarenF1

決別の可能性はゼロ?費用対効果で考えるマクラーレン・ホンダ消滅の見通し

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メルセデスエンジンへの載せ換えを検討、と一部報道されているマクラーレン・ホンダ。レギュレーションでは、競技者はチャンピオンシップ中いつでもエンジンを載せ替えることができる、とされており、マクラーレンがメルセデス等の他のエンジンに載せ換えることを阻害する理由は”ルール上”はない。

では実際上はどうだろうか?マクラーレンがエンジンを載せ替える可能性について客観的な視点から考えてみたい。まずはホンダエンジンを搭載することのメリット・決別した場合のメリットを洗い出す。その後、決別した場合にどの位マクラーレンの売上が増加するかを分析し結論を出してみることにする。

ホンダエンジンを搭載するメリット

現状のままホンダエンジンを搭載することの主なメリットを以下に洗い出してみた。

  • ホンダエンジンは無料
  • ホンダからの多額のスポンサーシップ料
  • エンジンとシャシーを同時開発できる
  • シャシー側の都合でのエンジン開発が可能

財政的利点 ー年間270億円

エンジン供給の対価としてチームはサプライヤーに支払いを行うのが普通であるが、マクラーレンはこれを免除されていると言われる。また、これとは別にホンダからの資金提供があるとされ、マクラーレンは財政面で大きなメリットを享受している。

エンジン1基を2,500万ユーロ(30億円)とした場合、年間5基を購入するとして1億2,500万ユーロ(150億円)、ホンダのスポンサーシップ料は年間1億ユーロ(120億円)と言われているため、単純にこれだけでも年間2億2,500万ユーロ、日本円で270億円程度の資金提供を受けていることになる。後述するがこれはマクラーレンにとってかなり大きな金額である。

競技的利点 ー年間王者の可能性

パワーユニット時代(2014年)以降、メルセデスは圧倒的な強さを見せているが、厳然たる事実として、同じメルセデス製PUを搭載するカスタマーチームがグランプリで優勝したことはただの一度もない。これは、エンジンとシャシーの両方を相互的・並行的に開発しなければ今のF1で勝利をおさめることは不可能であるということを裏付けている。

両者の関係はチャンピオンシップ王者となるために不可欠であることに疑いない。これは、両者が手を組んだ2015年当時のマクラーレンCEOであるロン・デニスが、事ある毎に強調していた内容と重なる。ワークスチームでなければ年間王者はもとよりグランプリで優勝することすら難しい。

他社エンジンに載せ換えるメリット

載せ換えのメリットは多くはない。またホンダエンジンを搭載することのメリットとは逆に、すべて可能性に留まるものである。

  • 長期的に考えた場合に順位が向上する可能性
  • 順位向上に伴う形でのスポンサー料、賞金増額
  • さらなるブランドイメージ低下への歯止め

載せ換えによって考えられる最も成功したシナリオでコンストラクターズランキング2位という結果が得られることになるだろう。

載せ換えた場合の費用対効果を考える

名門マクラーレンとて一介の営利企業にすぎない。ホンダとの契約を終了させ他社エンジンに載せ替えるとすれば、それによって負担する費用よりも得られる利益の方が大きくなければならない。

以下に、載せ替えに際して期待できる収益額と損失額をそれぞれ考えてみる。

見込める収益額は? ー240億円

F1事業での主な収入源となるスポンサー料とコンストラクターズ賞金の試算をしてみよう。

まずはスポンサー料。ボーダフォンがマクラーレンのタイトルスポンサーを務めていた時のスポンサー料は年6,000万ユーロ(73億円)とされる。また、2015年の年間2位であるフェラーリの同年スポンサー料は計2億ユーロ(240億円)であったと言われる。これを考えると、スポンサー料で稼げるのは多くとも250億円程度と思われる。現在のホンダ以外のスポンサー料を50億円すると、スポンサー料の増加期待値は200億円となる。

次に賞金。賞金に関してはコンストラクターズ順位が1つ向上する毎に10億円程度の増加にしかならない。そのため2016年6位のマクラーレンが2位になったとしても、賞金額は40億円増加する程度に留まると考えられる。F1の賞金については、「F1チームは儲かる?賞金だけでは赤字、生々しい賞金金額とその分配方法」をご覧いただきたい。

以上のことから、すべてが理想的に進んだとして年間240億円程度の売上増と考えられる。

発生する損失額は? ー270億円

先に述べたように、マクラーレンがホンダから得ている資金は年間約270億円と想定される。鞍替えとなるとこの金額が一気に失われる。

マクラーレンF1を運営しているのは、Mclaren Racing Limitedという企業である。公開されている財務データを調べた中で最も最近の売上高(2014年)は年間1億7,800万ポンド、日本円にして約250億円であった。マクラーレンの市販車を担当しているのはMcLaren Automotiveという企業であるが、こちらは2016年売上高が3億2500万ポンド、日本円にして約365億円となっている。

また、これは少しばかり古いデータだが、2013年のマクラーレングループ全体の営業利益は22.5百万ポンド、日本円で約32億円程度と公表されているので、グループ全体の年間利益がガッツリ吹き飛ぶほどの費用負担が発生することになると考えられる。

鞍替えの場合マクラーレンは30億円減

以上のことから、ホンダと手を切って他社エンジンに載せ換えた場合、最も成功したとして年間40億円の損失になると考えられる。成功シナリオではコンストラクターズ2位を獲得することを想定しているが、載せ換えて即マシンの戦闘力が上がるかと言えばその可能性はほぼゼロであり、載せ換えのためのマシン再設計に半年、実戦投入して期待のパフォーマンスが発揮できるまでに1年としても、最低1年半の準備期間が必要となる。その間は大幅な戦闘力向上は難しいであろうから、賞金もスポンサー料もほぼ横ばい程度と思われる。

無論、フェラーリやレッドブルといった競合にも打ち勝つ前提での話だ。

逆にホンダとのパートナーシップを継続すれば、”確実に”年270億円相当の資金提供が受けられ、かつ年間王者への挑戦権を得られる可能性があるのに対して、鞍替えした場合は成功したとしても年30億円の支出増であるのに加えて年間王者を諦めなければならないし、結果が出てくるのは早くて1年半後。しかも”確実”ではなく”可能性がある”に留まる。

結論 : 決別は現実的ではない

折角なので結論を出そう。現状においてはF1単体での採算性と将来性を考えた場合、ホンダとのパートナーシップ解除は合理的な選択ではない

ただし、マクラーレンには市販車部門やテクノロジー部門といったF1以外での事業も所有しており、何もF1事業単体で黒字化する必要はない。また、現実にはグッズなどの販売の売上もあるし、エンジンの価格交渉等によってコストを削減できる余地もある。レッドブルのように巧妙かつ戦略的にスポンサーを獲得すれば、より大きな売上増も不可能ではない。そのため、鞍替えの可能性はゼロではない。

とは言え、我々が手に入れうる客観的データから考えれば、マクラーレンが今すぐにホンダとのパートナーシップを解消する可能性は極めて低いと考えるのが妥当と言えるのではないだろうか。

アロンソの不満爆発マクラーレン公式Twitterの炎上など、まだ開幕すらしていない状況でマクラーレン・ホンダの動向に注目が集まってしまっているが、是非ともグランプリのレース結果で注目したいものである。