勝者の陰に敗者あり「今はルマンが好きになれない」と小林可夢偉…ベストリザルト達成も満面の笑みなきトヨタ

小林可夢偉、ホセ・マリア・ロペス、マイク・コンウェイ、2019年ル・マン24時間レース表彰台にてcopyright TOYOTA MOTOR CORPORATION

「一貴、ゴール後に涙しながらコメントをする君の姿を見ました。チームメイトを想う君の気持ちに感動した。ありがとう。WECのチームは本当に良いチームになってくれたなと思ったよ。可夢偉君には、また悔しい想いをさせてしまった。自分のことのように悔しい…。一貴、可夢偉、2人の気持ちを、しっかりと受け止めて、もっと強いチーム、もっといいクルマを目指すことを誓う」

「セブ、フェルナンド、一貴、マイク、ホセ、可夢偉、6人は本当に素晴らしいチームだったと思う。みんな、2年連続のワンツーフィニッシュをありがとう! 」

15日から16日かけて、WECスーパーシーズン第8戦ル・マン24時間レースが行われ、TOYOTA GAZOO RacingのTS050 HYBRID 8号車が昨年に続き2連勝。7号車が2位でチェッカーを受け、トヨタは1-2フィニッシュというベストリザルトwp達成した。だが、豊田章男社長が先のように語る通り、リザルトとしては最高でも、結末としては最高とは言い難かった。

終始レースをリードしていたのは優勝した8号車ではなく、小林可夢偉、マイク・コンウェイ、ホセ・マリア・ロペスの7号車の方だった。数々のアクシデントやクラッシュに巻き込まれる事なく、23時間に渡って一貫して首位を走行する速さを見せるも、残り1時間というところで突如タイヤがパンク。センサートラブルのために誤ったタイヤを交換してしまい、2周連続でのピットインを強いられ、手中に仕掛けた念願の勝利を失った。

「今は、ルマンが好きになれません」

小林可夢偉は率直だった。いつも明るく陽気な可夢偉とて、チェッカー直後のピットレーンでは口を真一文字に噛み締め、言葉を発することも難しい様子であったが、プレスカンファレンスでは想いの一部を吐露。少しだけいつもの可夢偉節を披露した。

「ル・マンで勝利することは信じ難いほど困難なチャレンジです。セバスチャン(ブエミ)は6回もの挑戦を経てようやく勝利を手にしました。次こそは僕の番だと信じています。多分。全力を尽くし諦めないことが大切だと思っています」

「勝利のために全力でプッシュし続けたレースでした。23時間までは順調に思えていたのですが、結果は受け入れがたいものでした。ですがこれも人生でありレースです」

「夜間に61台ものクルマとレースをしていた時は、まるで弱肉強食のジャングルにいるようでした。この厳しい生存競争を生き残って、怪我なく無事にフィニッシュ出来たことを喜ぶべきなのかもしれません」

「予選後にシャシーを交換する事になってしまいまいましたが、最後までセットアップは上手く機能してくれました。ですが最後はこういう結果に終わりました。でも、僕はこの二人のチームメイトを誇りに思っています」

「8号車と、レース完走を目指して頑張ってきた全ての方々を祝福したいと思います。24時間を走り切ることは簡単なことではありません。誰もが素晴らしい仕事をしたと思います」

村田久武WECチーム代表もまた豊田章男社長と同じ様に7号車の面々に謝罪。再発防止を誓った。

「ル・マン24時間レースの連覇を達成できましたが、優勝に十分値する活躍をしたマイク・コンウェイ、小林可夢偉、ホセ・マリア・ロペスには大変申し訳ないことをしました。そのため気持ちは複雑です。近日中に今回起きたことの真の要因を突き止め再発防止を図ります」


© TOYOTA MOTOR CORPORATION / 勝利した8号車の面々。満面の笑みを浮かべることはなかった

ルマン2度目の栄誉を掴んだだけでなく、中嶋一貴、セバスチャン・ブエミ、フェルナンド・アロンソの8号車の3名は、WECのシリーズチャンピオンを獲得。中嶋一貴としては、日本人初のFIAタイトルホルダーに輝く事となったわけだが、彼の心中もまた複雑だった。

「今年、ル・マンの勝利は実力ではなく運によって決まりました」と中嶋一貴。「とても厳しいレースで、7号車に起きたことはとても信じられません。我々は2016年のル・マンでよく似た状況に遭遇しただけに、チームメイトの彼らがどんな気持ちなのかよく分かります」

7号車の悲劇はデジャブだった。2016年の第84回大会では、悲願の初優勝を99%手中に収めていた中嶋一貴のドライブする5号車が、残り後3分のところでマシンストップ。唖然とする大観衆が立ち尽くすホームストレートで息絶え、ポルシェ2号車が勝利をかっさらった。

それから2年後、中嶋一貴は昨年のルマンで念願の勝利を挙げる事となったが、絶望に突き落とされた2016年も、ようやく掴み取った2018年の時も、決して公に涙を流すことはなかった。だが、今回は違った。クルマを降りてテレビインタビューに応えた中嶋一貴は、7号車の仲間たちが味わっている苦痛な想いに耐えきれなかったようだ。

「僕らがル・マンで勝利して世界チャンピオンを獲得する事が出来たのは、長く厳しいシーズンを通してチームメイトの7号車と切磋琢磨してきたからです。僕はその事を心から誇りに思います」


© TOYOTA MOTOR CORPORATION / 24時間の死闘を終えた7号車の汚れ切った車体表面

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