ロイター報道「ホンダとマクラーレンの危機的状況」の裏に隠された”本当の意味”copyright McLarenF1

ロイター報道「ホンダとマクラーレンの危機的状況」の裏に隠された”本当の意味”

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日本時間6月8日(水)00:39、「独占:分岐点に差し掛かるマクラーレンとホンダ」と題したニュースがロイター通信から報じられた。F1エンジン開発に苦戦するホンダをマクラーレンが見限る時期が近づいてきている、といった趣旨の記事だ。

これは、ホンダF1がカナダで導入を予定していたエンジンアップグレードが投入見送りになった事を受けて、マクラーレンのエグゼクティブ・ディレクターを務めるザク・ブラウンが、ロイターの独占インタビューに応える内容となっている。

ニュース内で語られた内容をまとめると以下のようになる。

  • 努力は認めるがホンダが苦戦しているのは事実
  • 経営委員会から前進命令が出ており、今年と同じような状況をもう一年は過ごせない
  • ホンダとのタイトル獲得を望んでいるが、あるタイミングで関係を再評価する必要がある
  • アロンソ確保のために今後90日の間に、来季の新車計画をたて大きな決断を下す必要がある
  • カスタマーエンジンでもタイトルを取ることは可能
  • ホンダからの資金提供に大きな商業的メリットはない

インタビューは、ロイターUKのF1特派員アラン・ボールドウィンがブラウンのオフィスに出向き行われたものだとされる。囲み会見や記者会見など多くの報道陣を前にしてのインタビューではなく、なぜ密室の中で行われたのだろうか?F1ないしはスポーツ系メディアは数多く存在しているのに、何故今回の報道はロイターの独占で報じられたのであろうか?

一見すると、今回の報道は「マクラーレンがホンダに対してしびれを切らしており、決別を真剣に検討している」かのように受け取れるのだが、表面上の表現とは裏腹に、この報道が意味する本質はそこにない可能性が高い。

ロイターの読者層は投資家や経営者

興味深いのは、このニュースが、報道機関というよりも金融情報サービス提供機関であるロイターから報じられた点にある。ロイターの売上の90%以上は、マーケット・為替・株式市場などの金融情報に支えられている。例えば、日本におけるロイターの読者層には投資家や経営者が多いとされ、大手新聞社の中で最も高い比率を誇っている。(参考:REUTERES Competitors Analysis

ブラウンは、世界で最も規模の大きなモータースポーツ広告代理店の一つである”ジャスト・マーケティング・インターナショナル(JMI)”の創業者として知られている(参考:ザク・ブラウンとは?。各情報媒体が持つ特性や読者層について知り尽くすプロ中のプロである。ロイターのみにこの情報を提供したのは意図的と考えるのが妥当だろう。

傍から見ると危機的状況に見えるかもしれないが、現状打破に向けて邁進しており、万が一ホンダと決別しても損失はなく、タイトルすら可能

ブラウンは上記のメッセージを、F1ファンに対してではなく、投資家や経営者らビジネスパートナーに対して発したのだ。そうなると今回の報道が真に意味するものは、額面通りのものとは少々毛色が異なってくる。

マクラーレンの真意は?

情報が限定的であるため、あらゆる可能性が考えられる。現時点でそれを絞り込むのは困難だ。出資検討者へ安心材料を提供するため、ホンダからの資金提供額の上乗せを間接的に要求するため、ホンダとの決別を決定した場合の市場の反応を予期するための材料集め等など。出資と言えば、以前米アップルからの出資話がささやかれていたのは記憶に新しい。

「ホンダからの資金提供に大きな商業的メリットはない」と語るブラウンだが、これがポジショントークであるのは彼らの財務状況を見れば一目瞭然だ(参考:財務状況からみるマクラーレンの実態。資金面での問題がクリアされない限り、マクラーレンがホンダと手を切る事は不可能である。

ブラウンは「カスタマーエンジンでもタイトルを取ることは可能」と述べているが、それが不可能な事くらいブラウンは重々承知の上だろう。現在の1.6リッターV6ターボハイブリッドは、シャシーにポン付けしてどうにかなるような代物ではない。

もしカスタマーエンジンでタイトルが取れるとすれば、最強メルセデスがワークスを解除し、エンジンサプライヤーとしてF1に留まり、かつどこのチームともワークス体制を結ばない、というシナリオが必要となる。…なるほど、可能性は無限大の状態と言える。絞り込むのは容易ではない。

ホンダへの徹底した配慮?

なお、配信から18時間ちかく経過した当記事執筆時点では、ロイター日本語版(jp.reuters.com)にこのニュースは確認できていない。多くのPVが期待できるのは明らかであろうはずなのに、何故かホンダのお膝元である日本のロイターでは報道されていない。

インタビューの中で、ブラウンが可能な限りホンダへの配慮を示しているのも注目に値する。「ホンダは極めて懸命」「ホンダと世界タイトルを獲得したい」「ホンダとの契約は100%正しかった」など。「ホンダとの関係をこじらせたくはないが、”メッセージ”を発表せざるを得ない」今回の報道の裏にはそんなマクラーレンの裏事情が透けて見える、と言うのは言い過ぎだろうか。

今週末はF1カナダGPが開催される。この場にブラウンが登場するのかどうか、登場したとすれば多くのF1報道機関の質問が集中する事になるだろうが、それに対してどのような受け答えをするのか、また、その受け答えはロイターが報じた内容と比べてどのような差異があるのか、このあたりが絞込のための材料を提供してくれる事になるだろう。