オコンとガスリー、確執を超えた”郷愁”のF1表彰台「アレ、覚えてる?」50億円の価値を持つサンパウロの奇跡

アルピーヌのガレージ前でトロフィーを手に談笑するピエール・ガスリーとエステバン・オコン、2024年11月3日(日) F1サンパウロGP(インテルラゴス・サーキット)Courtesy Of Alpine Racing

批判と懐疑が寄せられる混乱の組織変更、ワークスにも拘らずカスタマーチームに劣るクルマのパフォーマンス、そして伝統のF1エンジン開発プロジェクトの終焉…明らかに忘れ去りたい1シーズンとなるはずだったアルピーヌにとっての2024年は、サンパウロでの僅か1戦で全てが一変した。

一体、誰が想像し得ただろうか? カート時代の一件をきっかけに、長きに渡って確執を抱えてきたエステバン・オコンとピエール・ガスリーは、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)とともに表彰台に立ち、二人だけが知る郷愁に浸って肩を抱えて笑顔を魅せた。

Courtesy Of Alpine Racing

表彰台の上で肩を組み喜ぶアルピーヌのエステバン・オコン(2位)とピエール・ガスリー(3位)、2024年11月3日(日) F1サンパウロGP(インテルラゴス・サーキット)

”断固”のステイアウトで掴み取った表彰台

オコンはレース後、「これが現実なのか夢なのか、分からないけど、シャンパンの香りがするから現実なんだろうね」と胸の内を語った。

F1第21戦サンパウロGPは雨で波乱の展開となり、通常であれば上位に入るのが難しいチームに貴重なチャンスをもたらした。

予選では角田裕毅とリアム・ローソンが3番手と5番手につけ、RBがこの好機を活かしてコンストラクターズ選手権6位争いで大きなアドバンテージを得るかに思われた。

しかしながらミッドフィールドの勝者は、これまで度々、レースの混乱を好機に変えてきたエンストンのチームだった。

角田裕毅の後方でチャンスを待ち続け、序盤に4番手をキープしたオコンは、天候が悪化するとオーバーテイクを決めて3番手に浮上。バーチャル・セーフティーカー(VSC)のタイミングで、前を行くジョージ・ラッセル(メルセデス)とランド・ノリス(マクラーレン)がピットに入るとトップに立った。ガスリーも堅実にトップ10をキープした。

Courtesy Of Red Bull Content Pool

インテルラゴス・サーキットのターン2でエステバン・オコン(アルピーヌ)から3番手の座を守る角田裕毅(RBフォーミュラ1)、2024年11月3日(日) F1サンパウロGP(インテルラゴス・サーキット)

VSCに際してオコンは、路面コンディションは今履いているインターミディエイトに合っておらず、雨量が多すぎると報告しながらも、断固としてステイアウトするとチームに告げた。

そして、雨脚の悪化に伴いセーフティーカー(SC)が導入された際も、コース上にクルマを留まることは不可能だとしつつも、「赤旗が出るはず」としてステイアウトした。その2周後、フランコ・コラピント(ウィリアムズ)のクラッシュにより赤旗が振られた。

他車がピットストップにより後退した一方、コース上に留まったアルピーヌの2台は、赤旗中にロスタイムなくタイヤを交換する恩恵を受け、オコンはトップ、ガスリーはフェルスタッペンに次ぐ3番手でリスタートに臨んだ。

レース再開後、オコンはフェルスタッペンとの差を一時的に広げたが、カルロス・サインツ(フェラーリ)の事故に伴い導入されたSCが各車のギャップをリセット。オコンは、ターン1で仕掛けてきたフェルスタッペンを無理に抑え込もうとはしなかった。

ガスリーは終盤に向けてジョージ・ラッセル(メルセデス)から激しいプレッシャーを受けたが、それでもラスト25周に渡ってポジションを守り抜き、アルピーヌは2位と3位のダブル表彰台を獲得した。

この日の結果はオコンにとって、F1デビュー以前にまで遡るエンストンチームとの長き歴史における最後の栄光となる可能性が高い。オコンは最終アブダビを以てチームを離れ、2025年にハースへ移籍する。

サンパウロの奇跡の価値~50億円

Courtesy Of Alpine Racing

インテルラゴス・サーキットを駆け抜けるエステバン・オコン(アルピーヌ)、2024年11月3日(日) F1サンパウロGP決勝レース

それまでの今季20戦で僅か14ポイントに留まっていたアルピーヌは、計33ポイントもの大量得点によって、ウィリアムズ、ハース、そしてRBを抜いてコンストラクターズ選手権6位に急浮上した。

コンストラクターズ選手権順位はチームに与えられる賞金額に影響する。

アルピーヌのF1エグゼクティブアドバイザーを務めるフラビオ・ブリアトーレによると、9位と6位の賞金額の差は「2,920万ユーロ」、日本円にして約48億4,000万円に達する可能性があるという。

確執を超えて蘇った郷愁と友情

オコンとガスリーはフランスのノルマンディーで育ち、お互いの実家は20分程という近さだった。カート場で知り合い、一時は親友だったが、2008年の国内選手権レースが関係を一変させた。

ガスリーは最終ラップでオコンを交わしたが、この際のオーバーテイクが問題視され失格となった。ガスリーはその後、関係修復に努めたが、オコンはそれを望まず、以来20年近くに渡って不和が続いている。

Courtesy Of Alpine Racing

ピエール・ガスリー(アルファタウリ)とエステバン・オコン(アルピーヌ)、2022年

しかしながら、サンパウロでのレースを終えた二人の間にあったのは、かつての親友時代の雰囲気だった。

オコンをインタビューしていたオランダの放送局ViaPlayのインタビューアーは、メディアペンに現れたガスリーを目にすると、取材に加わるよう招いた。

オコンはガスリーの肩に腕を回して迎え入れると、「アビラでの時のこと、覚えてる?雨の中でレースしたやつ?」と尋ねた。ガスリーは「…あぁ!!あれか!雪も降ったよね?」と笑った。

今日のレースと似たような感じだったのか?と問われると、二人は口を揃えて「殆ど同じような感じだったよ!」と答え、ガスリーは「凍えるような寒さと雨の中、コースに出ていったのは僕らだけだったんだ。まったく同じだよ」と付け加えた。

「一生に一度限りだろうね。幼少の頃から一緒だった僕らが、F1チームのチームメイトとして一緒にやることになるなんて、それ自体、ありえないことなのに、今年みたいなシーズンで、まさか同じ表彰台に上れるなんて…」

「僕らが表彰台に上がるなんて誰も予想だにしていなかった。兎に角、信じられないよ!」

二人のフランス人ドライバーが表彰台に上ったのは、オリビエ・パニスが2位、ジャン・アレジが3位を獲得した1997年のスペインGPにまで遡る。

Courtesy Of Alpine Racing

ガレージ前で3位の僚友ピエール・ガスリー(アルピーヌ)に腕を広げる2位エステバン・オコン、2024年11月3日(日) F1サンパウロGP(インテルラゴス・サーキット)

オコンはクールダウンラップ中、いつの日かF1でレースすることを夢見て切磋琢磨したカート時代のガスリーとの思い出が蘇ってきたと認めた。

「たくさんの思い出がフラッシュバックしたよ。カートで雨の中を走っていた時、まだ幼かった頃、雪の中でスリックタイヤを履いて一緒にレースをして、表彰台や勝利を待ち望んでいた時のことをね」とオコンは語った。

「今日は、その時のことが少し思い出されるような感じだった。キャリアのスタート地点に立った当時から続く美しい物語。それは永遠に僕の心に刻み込まれることになる」

ガスリーも同意した。

「もちろんさ。みんなに理解してもらえるとは思わないけどね。これはエステバンとの個人的な関係の中での話だから」

「彼も言っていたけど、僕らはともに色々なことを経験してきた。外がマイナス5度の冬場に、僕らは唯一、カート場に現れて、雨の中や雪の中をスリックタイヤで走った。9歳、10歳、11歳の時のことだ」

「そういう厳しいコンディションでの練習が、今日の結果に本当に活かされたんだと思う。何周か走った後は凍えるように寒くて、トラックに戻って暖を取ったのを思い出すよ」

「僕らの関係には良い時も悪い時もあったけど、この2年間チームメイトとして一緒にやってきたことには誇りを持っている」

「今シーズンは厳しかったけれど、チームを前に進めようと努力し続け、決して諦めたりはしなかった」

「そして今日のような日には、シーズンを通してクルマが問題を抱えているにも拘らず、全員がベストを尽くしてくれた。本当に歴史的な一日だ。チーム全員を本当に誇らしく思う」

Courtesy Of Alpine Racing

3位のピエール・ガスリーと2位のエステバン・オコンを祝うアルピーヌF1チーム、2024年11月3日(日) F1サンパウロGP(インテルラゴス・サーキット)

F1サンパウロGP特集

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