F1解説:チームはフリー走行で何をしている?存在意義と見方、各エンジニアの役割
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絶え間ない開発競争、そしてカレンダーに並ぶ個性的な23のサーキットへの対処という点で、F1マシンは常に1回限りのワンオフだと言える。それは”グランプリ毎”という以上に、セッションにおいてすらそうである。
第4戦アゼルバイジャンGPでの新フォーマット採用を巡り、プラクティスの更なる削減が注目されているが、そもそもF1チームはフリー走行を通して何をしているのだろうか? どういった観点から見ればよいのだろうか?
プラクティスの存在意義とルール
現在のF1(2022年以降)では一つの週末に3回、つまり初日金曜に60分×2回、2日目土曜に60分×1回のプラクティス・セッションが行われている。
世間一般的に言えば週末のハイライトは土曜の予選と日曜の決勝であり、計3時間の練習走行は高い関心事ではないものの、チームにとってはむしろプラクティスの方が緊張感溢れる時間と言えるかもしれない。
クルマの性能、ポテンシャルはファクトリーでの開発次第だが、それを引き出せるかどうかは主に現場チームとドライバーの腕の見せ所であり、その主戦場がプラクティスなのだ。
例えばFP1から予選に向けては大抵の場合、同じコンパウンドであっても数秒程度のタイムアップが生じるが、これはタイヤのラバーが路面に載る事によるトラック・エボリューションやエンジンモードの違い、余計なセンサー類の取り外しによる軽量化というだけでなく、マシンの調整やドライビングスタイルの適応の結果である。
タイヤセット数
1台のマシンが週末に使用可能なスリックタイヤ(晴れ用タイヤ)は13セットに制限されている。代替タイヤ配分方式(ATA)が採用される週末は11セットと更に少ない。
セッション毎にその一部を返却する義務があるため、週末を経る毎に手持ちのタイヤは減っていく。つまり無尽蔵に使用できるわけではない。ロックアップさせてフラットスポットを作ってしまうと計画されていたプログラムに障害が出てしまう。
ピレリは全6種類のスリックコンパウンドを製造しているが、週末に持ち込まれるのはその内の3種類。コース路面や気温などの特性を考慮の上、都度、決定し、硬い方から順に「ソフト」「ミディアム」「ハード」の名称で呼ばれる。
開幕以前から始まるグランプリ
チームにとってのグランプリはFP1開始時刻の遥か前から始まっている。
まずは週末に先立ち、各コースで最高のパフォーマンスを発揮するためにどのようなクルマに仕上げるべきかを検討する。直近のレースや同じシーズン中に訪れた似たタイプのサーキットで得た知見やデータ、もし技術規定の変化が些細であれば前年のデータ等を参考にその方向性を決める。
このプロセスにおける有益なツールの一つはシミュレーターだ。実際の週末にウイングやアンチロールバーを物理的に変更する場合は20分程度を失う事になるが、シミュレーターでは一瞬で完了する。チームはドライバーからのフィードバックを得ながら最適なセットアップを模索する。
FP1ではまず先に、持ち込んだイニシャル・セットアップに大きな問題がないかどうかを確認する。変更を含めた対処にかなりの時間がかかるためだ。その上でライドハイトやリアウィングを調整してダウンフォース・レベルを見極めていく。
アップグレードがある場合はフロービズやエアロレイクを使って空力テストにも時間を割く。ドライバーのコース習熟が決定的に重要な市街地、初開催のグランプリの場合はこの限りではない。
FP1の段階で残りのセッションに向けて積み上げていくためのベースが確立できない場合、エンジニアには大きなプレッシャーがかかる事になる。相関性の欠如や思わぬ突風、予想外のタイヤの挙動など、飛躍的に向上しているとは言えシミュレーターは決して完璧ではない。
エンジニアの役割
各チームが週末に連れ出すエンジニアは概ね15~20名程度で、1台のマシンには5名ほどの専属エンジニアがつく。一般的にドライバーはレースエンジニア、パフォーマンスエンジニアと共に作業に取り組む。
前者はプラクティスを通して主にメカニックと連携してセットアップ作業を進め、後者はテレメトリーデータの分析等を通して、ドライビングスタイルやデフ、ブレーキバランス等、パフォーマンスを絞り出す方法をドライバーにアドバイスする。
コントロールエンジニアはギアボックスの電子制御を担当し、エンジン・パフォーマンス・エンジニアはパワーユニット(PU)の性能を最大限に引き出すために、エンジン・システム・エンジニアはPUの信頼性管理のために尽力する。
ライバルに余計な情報を与えないよう、作業の詳細が無線で語られる事はあまりない。セッション後に行われる報告会では、ファクトリーにいるエンジニアも遠隔参加し、掘り下げた議論が行われる。
シミュレーション
FP1の検証を経てチームはFP2に向けて必要な変更を施し、それが適切であったかどうかを確認。その後、2日目以降に向けての本格的なシミュレーション作業を実施する。
まずはソフトコンパウンド履いて予選シミュレーションを行った後、クルマに燃料を積み込み、レースの各スティントを念頭に置いたレースシミュレーションに取り組むのが一般的だ。
レースシミュレーションでは多くの場合、2台のマシンでプログラムを分ける。これにより2種類の異なるコンパウンドのデータを収集する事ができる。集めたデータを元に決勝に向けて最適なタイヤ戦略を検討していく。
アブダビGPやバーレーンGP等、ナイトレースやトワイライトレースが行われる週末のFP2は他の2回とは比較にならないほど重要なプラクティスとなる。予選・決勝と同時刻帯に行われる唯一のセッションであり、気温や路面温度といったコンディションが近似するためだ。
初日セッションが終わるとメカニックはクルマを分解し、レース用のギアボックスやパワーユニットを取り付け、必要に応じてセットアップを変更する。F1ではシーズン中に使用可能なユニット数に制限が科されているため、初日はスペアを使用している。
現場チームが就寝した後も舞台裏では作業が続けられている。ファクトリーではテストドライバーがシミュレーター作業を通して改善点を追求する。FP2終了後から翌日のFP3開始まで昼夜を問わず作業が続けられる事もある。
FP3は最終確認の場に留めるのが理想的だ。予選に向けての調整は僅かに抑えたい。