フェルスタッペン、上司中傷のマーシャル訪問…緊迫多忙の連戦終え帰宅するや否やシム参戦のレース愛。王座戦準備を後回しで
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南米と中東を横断する激動の3連戦を終え、レッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンは上司が中傷したマーシャル本人に会い、チェッカーの翌々日には自宅に戻るや否や、友人の求めに応じてサウジアラビアGPへの準備を一時中断してシムレースに参戦した。
本人は「良い結果」と口にしたが、それでもなおカタールGPが理想的な週末にならなかった事は確かだろう。予選Q3では二重黄旗無視によって5グリッド降格を科され、レースではタイトル争いを繰り広げるライバル、ルイス・ハミルトン(メルセデス)にポール・トゥ・ウインの快勝を許した。
ダブルイエローフラッグが振られたのは、姉妹チームのピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)がタイヤのパンクに見舞われホームストレートで停車したためだった。
停車したのは非レーシングラインのピットウォール側だった。コースサイドのライトパネルやクルマのダッシュボードにシグナル警告はなかったが、マーシャルは目の前の状況を鑑みてダブルイエローを振った。最終的な判断は現場のマーシャルに委ねられている。
レースコントロールとマーシャルとの間で判断が食い違い、更にはフェルスタッペンの前を走っていたクルマへの警告がシングルイエローであったり、そもそも警告自体がなかったりといった状況を「一貫性の欠如」と表現して怒りを爆発させたレッドブル・ホンダのクリスチャン・ホーナー代表は、マーシャルが不正に旗を振ったと発言して問題となった。
スチュワードはホーナーを警告処分とした。FIAレースディレクターを務めるマイケル・マシはボランディアで働くマーシャルの存在なくしてF1競技は成立しないとして、ホーナーの中傷は「許されない」と強調した。無給で働くマーシャルはレースコントロールの指示より目の前の状況を第一に考えた。
当のマーシャルがホーナーの発言を知ったかどうかは定かでないが、F1ジャーナリストのジョー・サワードによると、フェルスタッペンは上司が中傷したマーシャル本人に会い行ったようだ。スチュワードによる粋な計らいだった。
The stewards in Qatar organised for Christian Horner’s “rogue” marshal to meet Max, to compensate for his team boss’s rogue remark. A nice touch. pic.twitter.com/SDlLYnxzc0
— Joe Saward (@joesaward) November 22, 2021
次戦で優勝するか2位に甘んじるかで念願の初タイトルの行方が一変しうる緊張感溢れる状況の中、フェルスタッペンは57周のレースを2位でフィニッシュして超多忙のトリプルヘッダーを終えると、自宅のあるモナコへと戻り休む事なく次戦サウジアラビアGPの舞台、ジェッダ市街地コースの予習に取り組んだ。
だが、フェルスタッペンはどういう訳かそれを急遽中断し、チーム・レッドラインの一員としてiRacingをプラットフォームとするVCO ProSIMシリーズのesports最終戦に参戦した。
このシリーズはリアルレーシングドライバーとeスポーツレーサーがペアを組んで競い合うシムレースで、フェルスタッペンは去年もこのシリーズに2度出場した。初戦ではポール・トゥ・ウインを飾ったものの、もう1戦は通信障害によってクラッシュを喫してリタイヤした。
カタールGP決勝翌々日の火曜のイベントでフェルスタッペンはドミニク・ホフマンとタッグを組んだ。オープニングレースで6位を獲得した両者はファイナルレースへの出場権を手にし、その予選でフェルスタッペンはポールポジションを獲得した。
最終レースでフェルスタッペンは、自らが担当するスティントで後続を抑え切りラップリーダの座を守ったが、ホフマンがステアリングを握った終盤に同じチーム・レッドラインのマキシミリアン・ベネッケにオーバーテイクを許して2位でレースを終えた。
フェルスタッペンは何故、タイトル争いが佳境を迎えるこの時期にあってVCO ProSIMシリーズに参加したのだろうか?
フェルスタッペンは「ジェッダ市街地コースをF1マシンで走っていた時に、ドミニクからメッセージを貰ってね」と経緯を語った。”Out Of Office(勤務時間外)”と書かれた白いTシャツを着た24歳のオランダ人は笑いながらそう説明した。
「ペアを組むプロドライバーがいなくて僕に連絡してきたんだ。彼は僕がOKって言うとは思ってなかったみたいだけど、参加しない理由はないし、一旦準備を中断して参加することにしたんだ」
フェルスタッペンは例え今年タイトルが獲れなかったとしても「僕の人生が変わるわけじゃない」と口にしているが、それはハッタリや虚栄心から来るものではなく、嘘偽りのない本心なのだろう。
現実と仮想を問わず、フェルスタッペンが見せるレースへの絶え間ないコミットメントは控えめに言っても驚嘆すべきものがある。実際のコースで走っていない時、彼は常に自宅でシムに取り組む。マックス・フェルスタッペンという男は呼吸するようにレースを楽しみ、生きている。