F1解説:シャットダウンとは何か? 許可される作業と禁止される作業
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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行の影響で、従来の8月から3・4月へと前倒しされたシャットダウン期間。突如として主役級の扱いを受ける事となったものの「シャットダウン」は分かっているようで分からないルールの典型と言えよう。一体何を意味し、何が許可され何が禁止されるのか?
シャットダウンとは何か?
F1では毎シーズン2週間に渡って、F1マシンの製造拠点であるファクトリーがゴーストタウンと化す。製造機械への給電は停止され、オフィスの大部分は空っぽとなり、設計や開発に従事する裏方のスタッフ達はこぞってバカンスを楽しむ。これが「シャットダウン(英:shutdown period)」だ。
とは言え、全ての活動が禁止されているわけではない。従業員への給与の支払いは行わねばならないし、請求書への支払いも同様だ。この決まり事はF1スポーティングレギュレーションで規定されているれっきとしたルールであり、シャットダウン期間中に禁止される作業と除外される作業は明確に線引されている。
© Mercedes-Benz Grand Prix Ltd、メルセデスのシャシー開発拠点ブラックリー
シャットダウン規約は、7・8月中においてグランプリ間のインターバルが24日間以上離れている場合に、連続した14日間のファクトリー閉鎖を義務付けている。インターバルが17日間の場合は1日少ない13日の閉鎖となる。チームはいつからいつまでシャットダウンを行うかについて、シーズン開幕から30日以内に統括団体の国際自動車連盟(FIA)に通知しなければならない。
新型肺炎を巡る状況の見通しがつかない事ならびに、更なるコスト削減を実現するために、2020年シーズンは従来の14日間ではなく21日間へと閉鎖期間が拡大され、3月19日から4月末までの間にこれを消化するようルールが変更された。
シャットダウンという仕組みがF1に導入された理由は2つある。
1つ目はコスト削減。導入によって参戦に必要となる費用を抑える事ができるかも…との考えがあった。もう1つは、勤勉で情熱的なF1チームのメンバー達に充電のチャンスを与えるためだ。傾向としてシーズンは年々長くなっており、強制的な休暇の重要性は高まっている。
禁止されるものと許可されるもの
マシンの設計・製造に携わる業務を受け持つ従業員はもちろん、マシン開発のためのインフラ管理業務に携わるスタッフやサプライヤーまでもがシャットダウンの影響を受けることになる。シャットダウン期間中のマシンショップや設計オフィス、テスト開発室は静まり返るそうだ。禁止される作業は以下の通り。
- 風洞の使用
- CFDシミュレーション
- 風洞・車両・テストパーツ・工具の製作及び開発
- 車両の組み立て作業
- 設計・開発に従事する従業員や外注による作業全て
ファクトリーの大部分のエリアやオフィスは空っぽになるものの、一部の部署は影響を受けずに活動を続ける。例えばマーケティングや財務、法務と言ったマシンの製造開発に直接影響を及ぼさない部署のメンバーはファクトリー内に留まる事が許可されている。以下が違反に該当しない作業の一覧だ。
- F1とは無関係の作業
- シャットダウン前のレースで破損したマシンの修復作業
- ショーカーの組み立てや整備
- 受託仕事でのCFD作業
- パワーユニット関連の作業
監視体制は? 本当に守られている?
指示があれば風洞内の写真提出の必要がある等、全く対策を取っていないわけではないようだが、監視機関や体制と呼べるようなものはなく、このルールは各チームに対する漠然とした信頼という不確かな道徳に依拠しているようだ。
仮にファクトリーで抜き打ち検査があったとしても、従業員が自宅で仕事を続けていないとは断定できず、ルールが守られている事を証明する事は現実的に難しい。
ただし、F1は専門性が高い業態であるためチーム間での人材の流動性が非常に高く、内部告発という形で露呈するリスクがある。外注先の会社に漏れることで、ひいては他チームやFIAにバレる可能性もあるだけに、シャットダウン規約を全面的に無視する事は考えにくい。