興隆するアストン、億万長者ストロールを逃し「発狂しそう」と元ウィリアムズF1副代表…1年の違いで強いられたチーム売却と後悔

ウィリアムズ・レーシング副チーム代表を務めるクレア・ウィリアムズ、2020年9月6日(日) F1イタリアGP(モンツァ・サーキット)Courtesy Of Williams

かつてのウィリアムズF1チームの副代表、クレア・ウィリアムズは、トップチームへと脱皮しつつあるアストンマーチンの興隆を目にして、億万長者として知られるローレンス・ストロールからの投資機会を逃したことを後悔していると明かした。

父、フランク・ウィリアムズ卿が創設した英国グローブのチームを引き継いだのは2013年のことだった。支配的な強さを誇ったメルセデス製パワーユニットを搭載した2014年以降、チームはトップ3を争う成績を収めていた。

ウィリアムズが、ローレンス・ストロールの財政支援を受けるランス・ストロールと契約したのは2017年のことだった。しかしながら、2018年以降にチームは一転、コンストラクター選手権最下位に転落し、ローレンス・ストロールは財政難に陥ったフォース・インディアを買収し、2019年に息子を移籍させた。

Courtesy Of Williams F1

ヤス・マリーナ・サーキットのグリッドに立つウィリアムズのランス・ストロール、F1アブダビGP 2018年11月25日

その後、英国シルバーストンのチームには莫大な資金が投じられた。

2021年に「アストンマーチンF1チーム」へと改称され、最新鋭のファクトリーを含むトップチーム水準のインフラが整備された。また、ライバルチームから無数の有能な人材を引き抜き、2度のF1ワールドチャンピオン、フェルナンド・アロンソや、2021年以降の選手権をリードするエンジンサプライヤー、ホンダを惹きつけた。

そして2025年に向けてローレンス・ストロールは、F1史上最も成功したデザイナー、エイドリアン・ニューウェイとの契約をまとめた。

Courtesy Of Aston Martin Lagonda Limited

エイドリアン・ニューウェイとローレンス・ストロール、アストンマーチンF1チームのファクトリーにて、2024年9月10日

クレア・ウィリアムズはポッドキャスト、ビジネス・オブ・スポーツとのインタビューの中で、ニューウェイを「絶対的な天才」と呼び、契約をまとめたローレンス・ストロールを「天才的」と称し、アストンマーチンはタイトルを獲得するクルマを手に入れるだろうとして、「ローレンスが私達と一緒にいたことを思うと、発狂しそうになります」と胸の内を明かした。

成績低迷によりスポンサー収益が減少する中、コロナの影響でシーズン開始が遅れた2020年シーズンの開幕を前にウィリアムズは、タイトルスポンサーのROKiTを失い、資金難から同年8月にドリルトン・キャピタルにチームを売約した。

「率直に言えば、資金が底をついてしまったのです」とクレア・ウィリアムズは語った。

「2019年にはタイトルスポンサーがいましたが、その年の後半に2020年の支払いについて話し合ったものの、契約があったにもかかわらず、資金が振り込まれなかったのです」

「タイトルスポンサーを失い、資金が振り込まれなかったことで、私達は彼らを法廷に訴え、そして勝訴しました。3000万ポンド余りの支払いが命じられましたが、それは実際に彼らが支払うべき金額の半分に過ぎませんでした」

「彼らが支払わなかったため、2020年に向けた予算に大きな穴が開いてしまいました。ただ幸運にも、その穴を埋めてくれる人物が現れたため、シーズンの開幕に向けての目処が立ちました」

「ところが、メルボルン(開幕戦の地)に到着すると、コロナが猛威を振るってレースが中止となり、7月までレースが行われない状態になりました。レースをしなければ、当然、収益はありません。これが私達にとどめを刺すことになりました。残念ながら、手に負えない状況でした」

Courtesy Of Williams

ROKiTのロゴが掲げられたウィリアムズ「FW42」のエンジンカバー、2019年12月4日にヤス・マリーナ・サーキットで行われたF1ポストシーズンテストにて

「ウィリアムズを売却してよかったと思ったことは一度もありません」とクレア・ウィリアムズは強調する。

「一度もです。そんな風に思ったことは一度もありません」

「誰もが『大げさだ』などと言うかもしれませんが、私は日々、チームを失った喪失感を背負って生きています。F1に飽きたからとか、現金化したいからといった理由で、家族としてチームを売却するという決断をしたわけではないのですから」

「私達はずっとF1に関わり続けるつもりでしたし、それが私達の人生であり、計画でした。私は息子や甥っ子たちのためにチーム運営を続けたいと思っていました」

2019年に初の配信を迎えたNetflixの人気F1ドキュメンタリーシリーズ「Drive to Survive(邦題:栄光のグランプリ)」によりF1人気は一気に高まり、2021年にはチームが年間に費やせる予算の上限を定めたコストキャップ規則が導入された。

「Drive to SurviveのおかげでF1に対する関心は、爆発的に高まりました。もし2020年を乗り切っていたら、私達は今でも間違いなくレースを続けていたでしょう」とクレア・ウィリアムズは主張する。

「コストキャップの素晴らしいところは、確実に利益を上げられる点にあります。使えるのは1億4千万ドルで、今ではF1に莫大な資金が流れ込んでいます。残念なことに私達は、50年近くに渡ってF1に関わってきたにもかかわらず、たった1年の差でそれを逃してしまいました」

Courtesy Of Daniel Vojtech

F1マシンを撮影するNetflixのカメラマン、Formula 1: 栄光のグランプリ – プロダクションスチール

ドリルトン・キャピタルへの売却額は1億5,200万ユーロ(当時のレートで約220億円)だった。F1チームの価値は、今では当時の10倍近くにまで達しているが、「そんなことは気にしていません」とクレア・ウィリアムズは言う。

「本当に幸運だったのは、ウィリアムズを買いたいと申し出てくれた人たちが、私達が売りたいと思えるような人たちだったことです」

「良い人たちであり、チームやその遺産、そして私達が愛し、家族同然だった人々を大切にしてくれる人たちでした。本当に運が良かったと思います。2020年は誰にとっても苦しい時期で、事業を買おうとする人は殆どおらず、ましてや低迷するF1チームなど誰も絶対に買おうとしませんでした」

一方で、株式の全てを手放したことに対する後悔を認めた。

「取引の一環として5%でも保持しておけばよかったと、かなり後悔しています」とクレア・ウィリアムズは笑った。

この記事をシェアする

関連記事

モバイルバージョンを終了