謎めく決定の背景に何が?不調真っ只中のペレスとレッドブルとのF1契約延長を巡る考察
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史上稀に見る早期活性のF1ドライバーズ・マーケットにおいて、フェラーリに続いて憶測に終止符を打ったのはレッドブル・レーシングだった。
交渉が進展している事が明白であったとは言え、英国ミルトンキーンズのチームは驚くべきことに、開幕序盤の好調から一転、結果を残せずに苦しむセルジオ・ペレスとの2年の契約延長を発表した。
不可解な時期の契約更新
最大の疑問は何故、今なのか?という点だろう。ペレスが開幕5戦で4度の表彰台に上がったアジアラウンドでの発表であれば腑に落ちる部分もあるが、今回の発表は2度に渡って予選Q3を逃したイモラとモナコを経て行われた。
そもそもクリスチャン・ホーナー代表やヘルムート・マルコら首脳陣は、サマーブレイクが最終決定の一つのタイミングだとしていた。
ラインナップが確定しているフェラーリ、マクラーレンに加え、メルセデスはアンドレア・キミ・アントネッリの起用が濃厚と見られており、少なくともレッドブルが決定を早めなければならない理由は表面上、見当たらない。
故に、ペレスが今後、調子を取り戻すかどうかを見極めた上で判断を下すのが最善のように見えるだけに、コース上でのパフォーマンス以外の要因が決定に大きな影響を与えた可能性が強く疑われる。
米重視か、混乱回避か、それとも…
最近のペレスの不調により、レッドブルのコンストラクターズ選手権3連覇の野望は脅かされつつある。序盤こそランキング2位を維持していたペレスだが、モナコを経て5位にまで後退した。
レッドブルはペレスでタイトル争いを勝ち抜けると考えているのだろうか? 過去数ヶ月間に渡る内部抗争を経て逆に、自らの立場を強化したとも噂されるホーナーとの良好な関係がペレスにとってレッドブルでの初となる複数年契約に繋がったのだろうか?
それとも、チームのタイトルスポンサーであるオラクルや、2026年以降のエンジンパートナーであるフォードの本拠、アメリカ大陸で高い人気を誇る事が決定を左右したのだろうか? マイアミ、オースティン、ラスベガスの全てのイベントでスペシャルリバリーを採用するなど、レッドブルは米国を際立って重視している。
ホーナーが主張するように、勝手知ったるチェコを選んだ理由の一つがラインナップの安定性と継続性である事は確かだろう。
特にピエール・ガスリーとアレックス・アルボンの昇格人事が失敗に終わった事が未だ、首脳陣の脳裏にある事は疑いなく、ましてや2026年はレギュレーションが刷新され、新たな戦国時代が到来する。
ペレスは今や、マックス・フェルスタッペンの明白なウイングマンであり、それを受け入れ、時にそのパフォーマンスが批判されようとも結果を残している。V6ハイブリッド時代前期を支配したメルセデスが、ハミルトンのナンバー2ドライバーとしてバルテリ・ボッタスに固執し続けたように、従順なチームメイトはナンバー1ドライバーにとって多くの場合有益だ。
一方でトロロッソ時代にフェルスタッペンと緊張関係にあったカルロス・サインツ(フェラーリ)を採用した場合、ただでさえ混乱しているチーム内部の状況が更に悪化する可能性もある。
ペレスは決して悪いドライバーではない。2023年はドライバーズ・チャンピオンシップを2位で締め括り、レッドブルに初のチャンピオンシップ1-2を献上した。
相対するチームメイトとしてのフェルスタッペンは、あまりに強力で、ペレスでなくとも同じように圧倒的な力の差を見せつけられる可能性は決して少なくない。「メキシコ国防大臣」とも呼ばれるチェコがF1史上最も成功したメキシコ人ドライバーである事は確かだ。
しかしながら、だからと言って、RB20でのQ1敗退をあってはならない失態と呼ぶ事はアンフェアではないであろう。また、フェルスタッペンとペレスの組み合わせがグリッド最高のラインナップかと言えば、おそらくそうではないだろう。ある段階でレッドブルはフェルナンド・アロンソを選ぶ事もできたはずだが、首脳陣はそれを選択しなかった。
不確かなフェルスタッペンの将来
チームはペレスとの契約更新を告げるプレスリリースでチームの安定性を強調したが、それとは裏腹にリードドライバーを巡る状況は不安定に見える。
フェルスタッペンとレッドブルとの契約は2028年シーズン終了までとなっているが、メルセデスのトト・ウォルフ代表はオランダ人ドライバーとの契約を熱望しており、3度のF1王者に関しては依然として早期離脱の憶測が囁かれている。
少なくとも2025年は残留が濃厚だろうが、2026年の新時代到来を機にライバルチームに移籍する可能性は決して否定できない。
メルセデスが2014年以降の世界選手権を支配したように、次世代パワーユニットの出来がチャンピオンシップを大きく左右する可能性があるのが2026年だ。
フォードの全面的なバックアップがあるとは言え、レッドブルは実績あるホンダエンジンを失い、初の自社製パワーユニットを搭載する。フォードを含め首脳陣は開発が順調であると主張しているが、経験という点では他メーカーに大きく劣る。その競争力はどのメーカーよりも不透明だ。
フェルスタッペンが2025年末でチームを去った場合、この場合はおそらく、同年末で契約が切れるジョージ・ラッセル擁するメルセデスが選択肢となるだろうが、レッドブルは2025年と2026年を異なるラインナップで過ごす事になる。ペレスとの契約延長は、このシナリオにおけるダメージを最小限に抑える役割を担う事になる。
新規定の導入はマシンの刷新を意味するのみならず、セットアップに関するノウハウが実質的に白紙となる事を意味する。一貫したドライバーラインナップは技術チームに対し、前季型との比較を通して、クルマの開発を迅速かつ効果的に進める上で有益なフィードバックを提供することができる。
また、ラインナップの継続はチーム内の結束力を高め、コミュニケーションを円滑にする。変革期には競争が激化するため、クルマの競争力以外のファクターが通常以上に重要だ。
不確かなフェルスタッペンの将来は、ペレスとの2年の契約延長にどれだけ影響を及ぼしたのだろうか。
いずれにせよ、組織・人事変更ならびに見事なマシン開発により、レッドブルの背後に迫るフェラーリやマクラーレンが、ペレスとレッドブルとの契約延長をどのように受け止めているのか興味深いところだ。