ホンダF1がパワーアップを果たしたのは信頼性を犠牲にしたから、とジャック・ビルヌーブ
Published:
夏休み前に最も高い注目を集めたチームはレッドブル・ホンダだった。シーズン序盤の苦戦が幻であったかの如く、ホンダRA619Hを搭載するミルトンキーンズのマシンは、シーズン前のコンテンダーとみなされていたフェラーリSF90凌駕し、王者メルセデスを脅かす存在へと変貌した。
誰もが将来のF1ワールドチャンピオン候補と信じて疑わないマックス・フェルスタッペンは、オーストリアとドイツで勝利し、ハンガリーではキャリア初のポールポジションを獲得。ドライバーズチャンピオンシップで3位につけている。
急速にパフォーマンスを改善した理由はシャシーとエンジン双方の改善だと広く考えられているが、フェルナンド・アロンソをして「GP2エンジン」とまで揶揄されたホンダの進捗には眼を見張るものがある。暗黒とも言うべきマクラーレン時代の面影は過去のものとなり、ホンダはレッドブルとの提携によって表彰台を獲得する程に成長を遂げた。その秘密はどこにあるのか?
ホンダのパワーは信頼性を犠牲にした表れ
ジャック・ビルヌーブは地元Motorsport-Magazin.comのインタビューの中で、ホンダは信頼性(耐久性)を犠牲にしてパワーアップを優先していると主張。仮にメルセデスとフェラーリが同じようなアプローチを取った場合、30馬力相当のゲインを得るとの考えを示した。
コスト削減の一環として、現行のF1レギュレーションにおいては年間に使用可能なエンジンコンポーネントの数が制限されている。これに違反して上限数を超える交換を行った場合、決勝レースでグリッド降格ペナルティが科せられるため、基本的にはエンジン1基に対して7戦を消化できるだけの信頼性が求められる。
レッドブルは過去12戦で、ドライバー1人に対して3基の内燃エンジンを投入。4戦に一度新しいエンジンの封を切った計算だ。以前使用していたエンジンは壊れておらずストックされているため、今後もパワーセンシティビティの低いコースで実戦投入する事が可能だ。
だが、ビルヌーブの主張が正しければ、ホンダは1基の耐久寿命を7戦以下に設定してエンジンを運用している可能性があるため、壊れていないとは言え、ストックされたエンジンは実戦で使用できるような状態ではない可能性がある。
ビルヌーブは、ホンダ勢はシーズン後半にペナルティに苦しむと予想しており、フェルスタッペンが今年の王座に輝く可能性を否定したが、レッドブル・レーシングのモータースポーツ・アドバイザーを務めるヘルムート・マルコはビルヌーブの見解について「ナンセンス」だと一蹴した。とは言え、レッドブル側はホンダに対して、壊れるリスクを取ってでもパワーを上げるよう求めている。
信頼性と馬力は両天秤
一般に、設計工学においては”品質”と”コスト”の優先順位を決める必要があり、両者はトレードオフの関係にある。ただし、潤沢な予算を持つF1のトップチームにおけるコストは少なからず除外され、F1エンジンの場合だとパワーと信頼性とが相反する関係となる。信頼性を優先すればパワーが犠牲となり、パワーを優先すれば品質を犠牲にする事になる。
具体的には、ピークパフォーマンスが発生するエンジン回転数を低く抑える、あるいはレースでのエンジンマップの管理、コンポーネントサイズの拡大(重量増)、といった方法によって、パワーを犠牲にすることでエンジンを長持ちさせる事ができる。
田辺豊治テクニカル・ディレクターが現場を統括する現体制においては、信頼性を第一として、その上でパワーとのバランスを取る方針が採用されている。実際田辺TDは「高い信頼性を維持した上で、パワーアップを目指した懸命な努力が必要」と述べている。
ホンダの今季型パワーユニットは、マクラーレン・ホンダ時代の2017年のコンセプトを引き継いだものであり、競合マニュファクチャラーに比べてコンパクトでありながらも、信頼性とパフォーマンスに磨きをかけたモノ、つまり、ゼロから再設計されたのではなくアップデートされたエンジンとなっている。
ホンダF1は、今季型の4世代目となるスペック4エンジンを、モンツァ・サーキットで開催される第14戦イタリアGP(9月6日~8日)で実戦投入する計画を立てている。ホンダエンジンを搭載する4台全てが最新型を使うのかどうかは定かでないが、いずれのマシンも既に3基目を使用しているため、新型エンジンの封が切られればグリッド降格は確実だ。