V10エンジンはF1に戻るのか?”復活論”を牽制するメルセデス代表

Published: Updated:
F1のエンジンレギュレーションは2026年に大幅に刷新されるが、すでに2030年以降のルールを巡る議論が始まっている。その中で、一部の関係者やファンからV10エンジンへの回帰を求める声が上がっている。しかし、メルセデスのトト・ウォルフ代表は、こうした議論が「時期尚早」であると警鐘を鳴らした。
1990年代から2005年まで使用されたV10エンジンは、高回転・高出力の特性と官能的なサウンドで多くのファンを魅了した。しかし、燃費効率の向上や環境規制、コスト削減の観点からV8エンジンを経て、現在の1.6リッターV6ハイブリッド・ターボへ移行している。
独Motorsport-Totalによるとウォルフは、「まずは、来年導入される新レギュレーションを歓迎すべきだ。これが我々のスポーツの未来であり、新たなエンジンがどれほど刺激的なものなのかを正しく伝えることが重要だ」と語った。
メルセデスのトト・ウォルフ代表兼CEO、2025年F1プレシーズンテスト
2026年のF1パワーユニットでは、電動化比率が50%に引き上げられ、100%持続可能な燃料の使用が義務化される予定だ。
ウォルフは、2026年のパワーユニットがF1の新たなスタンダードとなるものであり、技術革新における重要なステップであると強調。中長期的なエンジン規則の議論は必要だとしつつも、現時点で2030年以降の話題を持ち出すのは早すぎるとの見解を示した。
「将来のレギュレーションを検討することは重要だが、それは今ではない。V10に戻るのか、あるいはV8が市販車市場に適しているのかといった議論は、然るべきタイミングで行うべきだ」とウォルフは述べた。
さらに、「現時点で将来のルールについて話しすぎると、2026年の新ルールの価値を薄めてしまう」とも警告した。
メルセデスAMGペトロナスF1チームのロゴ、2025年F1プレシーズンテスト
V10エンジンへの回帰を求める声は根強い。実際、現役F1王者マックス・フェルスタッペンはハイブリッド技術に否定的な立場を取っており、レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表も「F1の純粋主義者としてV10の復活を望む」と公言している。
V10復活の鍵を握るのは持続可能燃料の実用化と普及だ。F1のステファノ・ドメニカリCEOは、「適切な価格で持続可能燃料を供給できる時代の到来を、F1は加速させることができるはずだ」としており、その成否次第では、V10やV8自然吸気エンジンの復活も選択肢となる可能性がある。
一方で、F1は2026年のレギュレーション改定で自然吸気を復活させず、ハイブリッド技術を継続するとともに、100%持続可能燃料を導入する。この新方針を受け、アウディやゼネラル・モーターズ(GM)はF1参入を決定し、ホンダも2026年の復帰を決断した。
F1がハイブリッド技術を重視した背景には、市販車メーカーにとって実用性のある技術開発を支援する狙いがある。これが功を奏し、多くの新規エンジンサプライヤーがF1に参入した。
そのため、V10復活の議論を単にスポーツ的な視点から語ることはできない。その実現可能性は、持続可能燃料の市場普及と技術的進展に大きく左右される。F1が電動化と持続可能燃料の両立を推し進める中、かつての自然吸気エンジンが本当に復活するかどうかは、今後の技術革新の行方にかかっている。