FIAの「スフィンクスのような不可解な態度」を受け、ハミルトンの後退を決断したメルセデス

スプリントレースに向けてグリッド上で準備するルイス・ハミルトン(メルセデス)、2024年6月29日 F1オーストリアGP(レッドブル・リンク)Courtesy Of Mercedes-Benz Grand Prix Ltd.

F1オーストリアGPでカルロス・サインツ(フェラーリ)に対し順位を明け渡すようルイス・ハミルトンに指示したことについて、メルセデスのテクニカル・ディレクターを務めるジェームズ・アリソンがその意思決定に至るプロセスを説明した。

ハミルトンはスタート直後のターン1でポジションを上げたものの、その出口でコース外に飛び出てしまったため、不当にアドバンテージを得たとしてペナルティが科されるリスクに直面した。

FIAは従来、この手の状況に関してチームにアドバイスをしていたが、方針は変更された。アリソンによると、問い合わせに対してFIAは「スフィンクスのような不可解な態度」を採った。ポジションキープはあまりに大きなリスクだった。

FIAは今年、コース外に出て永続的なアドバンテージを得たドライバーに適応する標準的なペナルティを5秒から10秒に引き上げた。

アリソンは恒例のレース報告動画の中で、ハミルトンはなぜ、スチュワードからの指示を待たずにサインツにポジションを譲ったのか?との質問に対して次のように答えた。

「レースのスタートを見た誰もが知っているように、ルイスとカルロスは小競り合いを繰り広げた。ルイスは僅かにコース外に追いやられながらも加速を維持し、カルロスの前に出た」

「我々はすぐに『このポジションはコース外に出たことで得たのか?』という疑問を抱えることになった。レース1周目のターン1での出来事ゆえ、スチュワードは多少、寛容な判断を下すだろうと期待できるところはあったが、それを当てにすることはできない」

「もしポジションを返さず、スチュワードに不利な判定を下された場合、単にポジションを返すよりも悪い結果になることは分かっていた。10秒を科された場合、レースの序盤にポジションを返すよりも確実に悪い結果になってしまう」

「だから我々はいつものようにFIAに連絡を取り、あれが彼らにとって行き過ぎだったのかどうかについて、少しばかり指針を示してもらうよう頼んだんだ」

「だが、彼らはいつも通りスフィンクスのような不可解な態度を採り、『それはあなたたち次第だ。自分たちで判断しろ』と言われてしまった。そこで我々はさらに調査を進めたが、調べれば調べるほど、このままでは済まないだろうと考えるようになった」

「そうこう考えている間に、このインシデントが調査されるというメッセージが表示された。そうなるだろうとは予想していた。そしてリスクとのバランスを考えると、ポジションを譲る方が得策だと判断した」

「ポジションを返すようルイスに頼んだ。彼は状況を理解しており、言われるがままにポジションを返した。何も言わなかった。彼もリスクのバランスを理解していたからだ」

スチュワードは調査を経て、ハミルトンがコース外に出たことで「アドバンテージを得た」との判断を下したが、同時に、ポジションを返したため「永続的なアドバンテージ」は得ていないとして、一件を不問とする決定を下した。

「結果的にはそうして良かったと思っている。なぜかと言うと、スチュワードはその後、もしも我々が運を当てにしていたとしたら、ペナルティを受けることになったであろうことをハッキリと示すような裁定を下したからだ」とアリソンは付け加えた。

「正当に得たわけではないが、スタートで得たポジションをカルロスにポジションを返すことは、1秒程度の損失に過ぎなかった。だが、(順位を返さずに10秒を受けた場合は)9秒余計にペナルティを受ける可能性があったわけで、それはレース後半に大きな影響を及ぼす可能性があった」

「結果的にはルイスがフロアにダメージを負ったり、ピットエントリーで白線を横切ってペナルティを受けたりしたため、仮に10秒を受けたとしても(リザルトに)大きな違いはなかっただろう」

「だが、あらゆる可能性が残されていたレース序盤であったことを踏まえると、カルロスにポジションを返し、スチュワードの怒りを買わず、10秒ペナルティを避けることは明らかに正しい選択だった」

アリソンはまた、グラベルの上を走ったことによりハミルトンはボディーワークとフロアの前縁に若干のダメージを負っていたと明かし、1周あたり「0.2秒以上」のラップタイムが失われていたため、優勝した僚友ジョージ・ラッセルのペースについて行けなかったのは当然だと説明した。

F1オーストリアGP特集

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