伝統GPを脅かす「F1ローテーション」2026年新導入の狙い、カレンダーの未来

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2026年からF1は新たな「ローテーション制」を導入し、一部の欧州サーキットがシーズンごとに交互開催されることが決定した。この改革を主導したのはF1のステファノ・ドメニカリCEOであり、その目的はシーズンのレース数を24戦に維持しながら、新たな開催国を受け入れることにある。
F1におけるサーキットの交互開催は目新しいものではない。かつてドイツGPは2008年から2014年まで、ホッケンハイムとニュルブルクリンクで交互に開催されていた。しかし、今回の決定では伝統のスパ・フランコルシャンが2028年と2030年のカレンダーから外れることとなり、古参ファンに衝撃を与えた。
ニュルブルクリンクで開催された2014年のF1ドイツGP
F1は近年、中東やアメリカを中心に高額な契約を結ぶ傾向が顕著になっている。例えば、カタールGPは2030年までの開催権を確保するために年間5,000万ドル以上を支払っている。一方で、地方自治体の支援に依存するスパのような伝統的な欧州サーキットは、経済的な負担増に直面している。
スパは2024年に38万人の観客を動員した。これは他の多くのグランプリでは達成困難な数字だが、それでも運営側の財政状況は厳しく、約800万ドルの赤字を計上し、地元政府の補填を受けた。この赤字構造は継続しており、2023年にも200万ドル以上の赤字を出している。
雨が降るスパ・フランコルシャンを走行するマックス・フェルスタッペン(レッドブル)-2024年7月27日F1ベルギーGP予選
同様に、イモラも交互開催に組み込まれる可能性が高い。同じイタリアのモンツァが2031年までの契約延長を確保したことを受け、イモラは安定した単独開催が難しくなると見られている。
また、バルセロナも候補の一つとされている。2026年以降、「F1スペインGP」はマドリードに引き継がれるため、ベルギーGPとの交互開催の可能性が浮上している。
F1は今後さらに多くの国でのレース開催を模索している。年間レース数を24戦以上に増やさずに新規参入を実現する手段として、ローテーション制は理に適っている。
近年のF1人気の高まりを背景に、クウェート、南アフリカ、タイ、韓国などがグランプリ開催に向けた投資を計画していると見られる。
この状況下で既存サーキットが生き残るためには、開催権料の増額を受け入れるか、あるいはローテーション制を受け入れるかの二択しかない。
例えば、モナコGPはF1の要求に応じ、開催権料を従来の1,500万ドルから3,000万ドルへ増額した。しかし、スパのようなサーキットにとって、この条件を満たすのは現実的に難しい。
一方、ローテーション制の導入は、これまで開催権を得られなかった国々にとって新たなチャンスとなる。
例えば、ドイツでは現在F1グランプリが開催されていないが、2026年からアウディが新規参戦することから、ローテーション枠を利用して復活を模索する可能性もありそうだ。
F1のカレンダーは今後、より流動的になっていくことが予想される。
伝統的なサーキットが生き残るためには、サーキットのブランド価値や歴史的魅力を生かした多角的な収益モデルの構築、最新のデジタル技術を活用した運営効率化やファン体験の向上など、さまざまな取り組みが必要となるだろう。