危険なレースは拒否できる? クラッシュ後に棄権したがるようなドライバーはクビ、とフェルスタッペン
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F1バーレーンGPのオープニングラップで発生したロマン・グロージャン(ハース)のクラッシュは、目を背けたくなるような場面に少なからず遭遇してきたF1ドライバー達でさえ、背筋が凍るほどの恐怖を感じる壮絶な事故だった。
同僚のケビン・マグヌッセンは「ロマンが無事でいてくれただけ幸せだ」と述べ、セバスチャン・ベッテル(フェラーリ)は「今日の唯一の吉報は、無線でロマンの無事を知った事。正直映像はあまり見ないようにしていた」と漏らした。
ダニエル・リカルド(ルノー)に至っては「何度も何度も事故の映像を流し続けた」事は「彼の家族にとって完全に配慮を欠いた失礼な行為」であるとして「F1に嫌悪感と失望感を表明したい」と述べ、FOMに対して憤りをあらわにした程だった。
幸いにも事故から数分後にグロージャンが無事である事が確認されたものの、巨大な炎と鉄製ガードレールに突き刺さったモノコックの画はあまりにショッキングなものであり、如何に仕事としてグリッドに立っているとは言え、仕事を放棄するドライバーがいたとしても不思議はなかった。
とは言え、表彰台でレースを終えたプロフェッショナル達は、深刻な事故が起きた後でさえ、統括団体が安全と判断してレース続行を決めたのであれば、ドライバー足る者ステアリングを握るべきだと考えている。
レース後の会見の中で「衝撃的な事故の後のドライバーにレースを棄権する選択肢を与えるべきだと思うか?」と問われたルイス・ハミルトン(メルセデス)は次のように述べた。
「僕らは安全性を監督する立場にはない。僕らは(ドライバーとしての)仕事を遂行するためにここにいるわけで、安全面に関しての判断はFIAに任せているし、暗黙のうちに彼らを信頼しているんだ。だから、そうは思わない」と返した。
また、隣に座っていたマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)に至っては「なぜレースをしようとしないのか僕には理解できない。僕がチームのボスだったら、そいつをシートから追い出すだろうね。”二度とシートに座るな”って言うよ」と答え、ドライバー自らが棄権を望むような事はあってはならないとの考えを示した。
これに関しては流石のハミルトンも苦笑しながら「キミが僕のチームのボスにならない事を祈るよ」と反応した。
なお、グリッドに残された19人のドライバーの中で実際にレースの続行を拒否したドライバーは1人もいなかったが、それは必ずしも、契約で縛られ拒否する事が許されなかったドライバーがいなかったという事を意味しない。
現実問題として考えると、ドライバーがレースを拒否できるかどうかはチーム側との契約書にて定められた準拠法の規定(どの国の法律を適用するのか)等によりけりで、一概に言い切れるような種類の話ではないと思われるが、例えば日本の場合はどうなのだろうか?
生命・身体に危険が及ぶ可能性がある場所での業務命令を拒否したとして、使用者から解雇された従業員が解雇の無効を求めて争った昭和31年の電電公社千代田丸事件で最高裁は「万全の配慮を以てしても避け難い軍事上の危険」があった事などを認めて「義務の強制を余儀なくされるものとは断じ難い」として、解雇を無効とする判断を下している。