フェルナンド・アロンソを”現役最強”足らしめるドライビングの秘密「これがないと俺は死んだも同然」の生命線とは?
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長らく「現役最強」との誉れを浴びてきた2度のF1ワールドチャンピオン、フェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)のドライビングスタイルの秘密はフロントエンドのフィードバック性にあった。
40歳のスペイン人ドライバーはキャリア通算322戦を通して32勝、22ポールポジション、計97回の表彰台を誇る大物だが、数字だけを見ればこれを上回るドライバーは少なくない。
例えば現役勢で言えばルイス・ハミルトンは99勝を挙げて7度の王者を獲得し、セバスチャン・ベッテルは53勝で4度のワールドチャンピオンに輝いている。だがそれでもなおアロンソに対する人々の評価が損なわれる事はない。
2年ぶりのF1復帰となった今年、他の移籍組同様にアロンソもまた、シーズン序盤は馴染みのない新しいマシンに手を焼いていた。
それは特にエステバン・オコンが2戦連続のQ3進出を果たして9位入賞を飾ったスペインとモナコで17位と13位に終わった事や、チームメイトが3戦連続Q3を果たした一方で2桁予選に終わった第2~5戦を見ても明らかだ。
だが第6戦アゼルバイジャンGP以降はハンガリーを除いて予選および決勝で対チームメイト全勝を果たしており、前半戦を終えてドライバーズランキングでオコンに1点差の11位につけるなど、徐々に帳尻を合わせてきている。
アロンソは母国SoyMotorとのインタビューの中で「結果的に6戦か7戦を要する事になってしまったけど、今ではようやくクルマに慣れてきた」と述べ、自身の能力を存分に発揮できるように取り組んできた一連の作業について説明した。
「パワーステアリングやステアリングホイールから得られるフィーリング、グリップの伝達レベルなど、自分のドライビングスタイルに合わせるためにクルマに幾つか変更を加えた」
「ブレーキバランスやエンジンブレーキも調整した。僕に限らずどのドライバーにも各々が好むセットアップがあるわけだけど、多かれ少なかれ、やっぱりある程度の時間がかかってしまった」
アロンソの卓越した腕前を称賛する表現の中に「どのような特性のクルマにも適応してしまう」というものがあるが、それを可能とするための絶対条件はステアリングを通してフロントタイヤからのフィードバックを得る点にあった。
アロンソは自身のドライビングスタイルについて「ミッドコーナーでステアリングを積極的に動かして、フロントタイヤの感覚を頼りに走るようにしている。ステアリングの感触が緩いと感じる時はグリップが失われている事の証になる」と説明する。
「ステアリングが硬い時はグリップが効き過ぎているわけで、それによってどこかの時点でリアが動いてしまう可能性があることを予想できる」
「僕は普段、自分の手とフロントエンドでクルマを理解しているから、それが奪われてしまうと死んだも同然なんだ」
「他のドライバーは体全体でクルマを感じ取ったりと、僕とは違う方法を取っているけど、僕の場合はフロントタイヤ(の感触)が奪われると無防備になってしまう。そうなると(クルマの挙動を)予測する事ができないんだ」
「だからこそステアリングから多くの情報が得られるようにクルマの調整に取り組んできたんだ」
アロンソの発言は適切なフィードバックが得られないマシンが如何に深刻かを物語るだけでなく、クルマに合わせて自身のドライビングスタイルを変えるよりもフィードバックが得られるクルマ作りの方が重要だという示唆に富んだものと言える。