対立と不信感、フェルスタッペン対ノリスの一件で浮かび上がる「裁定基準の問題」
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フェラーリの見事な1-2フィニッシュが影に隠れるほどに、F1アメリカGPで繰り広げられたランド・ノリスとマックス・フェルスタッペンのバトル、そして表彰台を決定づけたペナルティを巡る議論が白熱している。
残り5周のターン12で、アウト側からフェルスタッペンに仕掛けたノリスは、コース外に出た後にフェルスタッペンを抜き去り、3位でチェッカーを受けたものの、5秒ペナルティにより表彰台を失った。
裁定基準に問題あり、とマクラーレン
マクラーレンのチーム代表であるアンドレア・ステラはレースを経て、スチュワードがノリスにペナルティを科したことを「介入」と形容し、「不適切」だと批判した。
「私は、スチュワードが素晴らしいレースに介入したのは不適切だったと考えている。なぜなら、2台共がコースアウトして双方がアドバンテージを得たからだ」とステラは語った。
デレク・ワーウィックを含む4名の競技審判団がノリスにペナルティを科したのは、エイペックスでノリスがフェルスタッペンと同一線上に到達していなかったためだ。
この判断のベースには、一般公開されていない「FIAドライビング標準ガイドライン」がある。これは、ドライバーがどのようにレースに臨むべきかについて記した指針で、スチュワードが一貫した判定を下せるよう、2022年に導入された。
フェルスタッペンとノリスの一件は、「コーナーに対する権利 (エイペックスで先行すること)」を一瞬たりとも得ない状態でコース外に出て「永続的なアドバンテージ」を得たケースに該当するとみなされた。
しかしながらステラは、フェルスタッペンがエイペックスでノリスの前に出ていたのは、コース内に留まってコーナーを曲がる意思がなかったためだとして、エイペックスでの両車の位置関係を重要な証拠として裁定を下すべきではないと主張した。
ノリスもまた、決定に納得しておらず、自身だけでなくフェルスタッペンもコース外に出たと指摘し、「彼がコース外に出たということは、明らかにディフェンスでやり過ぎたってことだし、それによってアドバンテージも得たということだ。でも、ルールを決めるのは僕じゃない」と語った。
一方で、フェルスタッペンが数周に渡って見事なディフェンスでノリスを退けたことは確かだ。
ノリスは「それについて文句を言うつもりはないよ。マックスのディフェンスは上手かったし、僕らは互いに良いレースをしたと思う。でも、ルールはルールだ」と付け加えた。
同情しない、とフェルスタッペン
たとえコース内でコーナーを曲がれなかったとしても、エイペックスで先行しさえすれば、相手ドライバーの「コーナーに対する権利」を奪える、という指摘は傾聴に値するものだが、それがルールなのであれば悪法もまた法であり、今後についてはさておき、今回の一件は白黒ハッキリする。
ノリスを強制的にコース外に追いやったと主張するマクラーレンに同情するか?と問われたフェルスタッペンは「いや」と否定し、マクラーレンは「最近、何かにつけて文句ばかり言っている」と語った。
「ルールは明確だ。白線の外でオーバーテイクをしてはいけない。僕も過去に同じことで処分を受けたことがある」
2017年のアメリカGPでフェルスタッペンは、ファイナルラップでフェラーリのキミ・ライコネンを交わして3位でフィニッシュしたものの、コース外からの追い抜きとみなされ4位に降格した。
そもそも一件についてマクラーレンは、スチュワードと正反対の見方をしている。それが故に、この手の状況で一般的な「ポジションを返す」という選択肢がなかった。
調査が行われることが明らかになった際にマクラーレンは、フェルスタッペンの後方3秒以内の位置を走行していたオスカー・ピアストリに対し、フェルスタッペンとの差を5秒以内に詰めるよう指示した。
つまり、マクラーレンはノリスにペナルティが科されるとは全く考えておらず、逆にペナルティが科されるとすれば、それはフェルスタッペンであると考えていたということだ。
裁定プロセスへの不信感
レース後に聴聞会を開き、両ドライバーから話を聞いた上で判断することもできたが、スチュワードはレース中に裁定を下した。
スチュワードが決定に至ったプロセスについてノリスは、他のケースと比べて「一貫性」がなく、ドライバーの意見を聞かずに「推測」で結論を出したと主張した。
「またしても一貫性がなさが露呈したのだとは思うけど、難しいね。僕に言わせれば、これは兎に角、急いで下された決定だ。彼らは僕らの意見を聞くことも、理解することもしなかった。レース後にそうすべきなのに」とノリスは語った。
「彼らは単に、その時点で決定を下したいだけなんだ。レース後にポイントが変わるのを望んでおらず、その結果、急いで決定を下して、僕やチーム、マックスの意見を聴かなかったんだ」
また、この手のペナルティに抗議できないことを「馬鹿げている」と感じているとした上で、「彼らは単に推測で決めているだけで、これが正しい審判のあり方だとは思わないけど、彼らにとっても難しい仕事だし、文句を言うつもりはない」と付け加えた。
”帽子投げ事件”を彷彿とさせるターン1での一件
両者のインシデントは52周目の1回のみではなかった。
ポールシッターのノリスはスタート直後のターン1でフェルスタッペンにイン側を取られ、2台揃ってアウト側に膨らんだところをシャルル・ルクレールに突かれた。フェルスタッペンは2番手をキープしたが、ノリスはカルロス・サインツにも追い抜かれ、4番手に後退した。
フェルスタッペンは、「イン側にスペースがあったから、そこを狙ったんだ。あのコーナーはかなり幅が広いから、アウト側にいくか、かなりタイトに行くかの2つの選択肢があって、僕はタイトに行く方を選んだ」と説明した。
ターン1での一件に関しては、ペナルティが科されなかった有名な前例がある。
2015年、ポールシッターのニコ・ロズベルグが、僚友ルイス・ハミルトンにコース外へと押し出される格好となり4番手に後退。ハミルトンはこのレースで3度目のタイトルを決めた。
表彰台セレモニーを前にハミルトンが、2位ドライバー用のポディウムキャップをロズベルグに投げ渡すと、ロズベルグはそれをハミルトンに向かって投げ返した。いわゆる「ロズベルグの帽子投げ事件」だ。
後方でフェルスタッペンとノリスのバトルを見ていたルクレールは、「ターン1に関しては何も問題なかったと思う。つまり、激しく戦っていれば、誰であれ似たようなことを狙うだろうからね」と語った。
ノリスは、「彼はコース外から追い抜いた。僕にどうしろって言うんだ」と語り、「彼は守る時もコース外に出るし、オーバーテイクする時もコース外に出るんだ」と不満を述べる一方、自身に落ち度があったかもしれないと漏らした。
「ターン1の一件の方が(ターン12の一件よりも)何と言うべきか難しい。僕が十分にやり切れなかったのかもしれないし、彼があまりにも速いスピードで突っ込んで、その結果としてコースを外れたのかもしれないし」とノリスは語る。
「誰かのイン側に飛び込んでコース外に出て、そのままポジションを守ることは、普通では許されない。でも、なぜか1周目のターン1ではそれが許されるんだ」