フェルスタッペン、F1サウジ逆転に向けての”7つ”の注目点…最低でも5位、優位に立つRB16B、波乱を内包するジェッダ
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最終ラップの最終コーナーでのあの衝撃的なクラッシュさえなければ、マックス・フェルスタッペンは決勝でポール・トゥ・ウインを飾り、今季のタイトルをほぼ確実に手中に収めた事だろう。
だが、激動の今シーズンを象徴するかのように、フェルスタッペンはポール必至の鬼神の如きメガラップを披露しながらも、フィニッシュラインまで後6秒という最終27コーナーで壁に吸い込まれていった。
形勢は一気に逆転した。だが、まだ何も失われてはいない。フェルスタッペンは「もちろんポールからスタートしたいのは山々だけど、僕は今も優勝を狙ってる」と前を向く。
「このクルマのペースが僕に希望を与えてくれている。カタールGPではコンマ4.5秒の遅れを取った。そして今回は非常に厳しいレースが予想される。でも僕は良い勝負ができると思ってる」
フェルスタッペンの逆転優勝の可能性を探るという観点で、1周6,175mのジェッダ市街地コースを50周で争う2021年 F1サウジアラビアGP決勝レースの注目ポイントを7つ挙げてみたい。
- 1、ポール喪失より深刻なギアボックス交換リスク
- 2、リスクを一切負わない判断が懸命な理由
- 3、5グリッド降格は絶望的ではない?
- 4、タイトル獲得、最低でも5位以上
- 5、W12に対して優位に立つRB16B
- 6、波乱を内包するジェッダ市街地コース
- 7、タイヤのスイッチ
1、ポール喪失より深刻なギアボックス交換リスク
予選3番手に留まった事は、ギアボックス交換の懸念が生じた事に比べれば些細なものだ。フェルスタッペンは最終コーナーで右側の前後ホイールを激しく壁にぶつけた。ドライブシャフトへの衝撃はギアボックスに伝わる事になる。
レッドブル・ホンダは今回、新品のギアボックスを卸したばかりだった。規約は6戦連続使用を義務付けており、違反すれば問答無用の5グリッド降格が科される事になる。
2、リスクを一切負わない判断が懸命な理由
”クラッシュとギアボックス”、と言えばシャルル・ルクレールだ。今年のモナコGP予選では今回と同じ様にQ3最終ラップでクラッシュが発生した。SF21はプールサイドシケイン脇に設置されたガードレールに激突。ギアボックスの損傷が懸念された。
調査を経てフェラーリは交換を行わずに決勝に臨んだ。結果的にギアボックスは問題なかったものの、事故の影響でモノコックが破損していたために、ルクレールはポールポジションを手にしながらも、母国レースをドライバーとしてではなく観客として参加する羽目になった。
ミルトンキーンズのチームが同じ過ちを犯す事はなさそうだ。レッドブル・レーシングのモータースポーツ・アドバイザーを務めるヘルムート・マルコはServus TVとのインタビューの中で、レース中に少しでも故障する可能性があると判断すれば躊躇なく交換すると語っている。
チャンピオンシップ争いにおいて絶対に避けなければならないリスクはリタイアだ。
自身がノーポイントに終わりハミルトンが優勝すれば、17点ものリードを許す事になる。最終戦のアブダビでハミルトンが同じ様にリタイヤしない限り、タイトルの望みはほぼ潰える。徹底してリスクを避け、信頼性を重視して交換し、スタートポジションを下げた方が遥かに利口だ。
3、5グリッド降格は絶望的ではない?
更に、後退は最終的なリザルトに大きな影響を及ぼさないかもしれない。5グリッド降格となった場合、フェルスタッペンは8番手となる。代わって昇格するのは以下の5名だ。
- シャルル・ルクレール
- セルジオ・ペレス
- ピエール・ガスリー
- ランド・ノリス
- 角田裕毅
そう、5名の内の3名は”身内”なのだ。ノリスさえ攻略できれば4番手にまで戻るのは容易い。
4番手にまでカムバックした後の問題は、マクラーレンとコンストラクターズ選手権3位争いを繰り広げているルクレールのみだが、以下に示すように4位フィニッシュは翌戦でのタイトル獲得に向けた最低条件を満たす。
4、タイトル獲得、最低でも5位以上
理論上、最終戦でフェルスタッペンが獲得可能な最大ポイントは優勝+ファステストラップの計26点だ。仮に、自力で達成可能なこの満額ポイントをアブダビで得るにせよ、タイトル獲得のためにはサウジアラビアを最低でも5位以上でフィニッシュする必要がある。
5位の場合、例えハミルトンがサウジアラビアで満額を得たとしても、最終戦で優勝+ファステストを決めれば合計387.5点で並ぶ事になる。そうなれば優勝回数で上回るフェルスタッペンがタイトルを手にする。
5、W12に対して優位に立つRB16B
メルセデスのトト・ウォルフ代表は「明らかに速さが不足していた」と述べ、クルマの性能としてはRB16Bの方が上回っていたと主張し、クラッシュがなかればフェルスタッペンが「コンマ5秒差」でポールポジションを獲得していたはずとの考えを示した。
「ストレートでは互角だと思うが高速域では負けているし、予選では低速域でも負けてしまった」
またハミルトンは「レースでレッドブルが速いのは疑いない」と述べ、エンジニアリング・ディレクターを務めるアンドリュー・ショブリンは「金曜のロングランで我々は好調だったが、レッドブルは一晩でペースを上げてきた。それがロングランに反映されれば接戦は宿命付けられたようなものだ」と警戒感を口にした。
確かにウォルフを含むメルセデス陣営の発言は往々にして、大風呂敷を広げていると受け取られる事があるが、実際、予選でのフェルスタッペンは異様な速さを放ち、アルファタウリを見ても明らかなように、ホンダは見事な仕事を見せている。
6、波乱を内包するジェッダ市街地コース
過去のデータがなく、チームはまだ誰もこの特異なジェッダ市街地コースを理解し切れていない。”衝撃的”という表現が予選Q3でお役御免になるとは考えにくい。
プラクティスや予選と決勝レースとでは性質が大きく異る。ドライバー達はこれまで、コース幅が狭く、壁が近いこの高速ストリートコースで多くの周回を重ねてきた。特に予選では軽タンで限界まで攻め込んだ。だがそれは基本的に、自分の事だけを考えていれば良かった。
だがレースでは他の19台が絡んでくる。僅かなミスが致命傷に繋がりかねないこのコースで集中力を切らす事なく、針の穴を通すような繊細なドライビングを長時間に渡って続け、更にはライバルとサイド・バイ・サイド、テール・トゥ・ノーズで争わなければならない。クラッシュの可能性は飛躍的に高まる。
実際、FIA-F2選手権ではレース1にしろレース2にしろ、セーフティーカーが大活躍した。無論、ドライバーもマシンも異なるため、その状況がそっくりそのままF1に当てはまるとは言えないが、波乱が起きない理由を探す方が難しい。
オーバーテイクが難しいという事は、それだけオープニングラップの危険性が高まるという事だ。誰もがいつもより余計にリスクを取る。
概して言えば、オーバーテイクが困難なコースでポールポジションが高い優位性を持つことは確かだが、ジェッダでのレースでは通常以上に何が起きるか分からない。
7、タイヤのスイッチ
初日のジェッダでレッドブルを退けたメルセデスは何故、2日目に失速したのか。土曜のW12にはペースがなかった。疑わしきはタイヤだ。
ハミルトンは「風の影響かどうかは定かでないけど、今日はタイヤに熱を入れる事ができなかった。アウトラップをハードに、そして素早く走ったんだけどね」と述べ、タイヤを機能させる事が出来なかったと明かした。
ハミルトンは予選Q1の最初のランでターン1を飛び出し、トップ通過を果たした予選Q2ではフェルスタッペンより5周多い9周を経てようやくタイムを残した。
舗装されたばかりの路面は非常に滑らかで、かつ、コースレイアウト的に横方向への負荷が小さいため、ジェッダ市街地コースはタイヤへの入力が低いという特徴がある。
メルセデスが後退した一方、レッドブルはタイヤのスイッチを素早く入れる方法を見つけ出したように見える。オープニングラップとタイヤ交換直後の数周からは目が離せない。
フェルスタッペンは逆転を果たすのか? それともハミルトンが50周を制して8度目のタイトル獲得に望みをつなぐのか? はたまた…2021年 F1サウジアラビアGPの決勝は、日本時間12月5日(日)26時30分にブラックアウトを迎える。